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19.23% 二十年の愛を結婚式で断ち切る / Chapter 5: 第5話:命の恩人

บท 5: 第5話:命の恩人

第5話:命の恩人

[雪音の視点]

冬夜が家を出てから、もう一週間が経つ。

朝起きても、夜帰ってきても、この家には私一人しかいない。最初の数日は寂しさを感じていたけれど、今はむしろ静寂が心地よい。

スマートフォンを手に取って、何気なくSNSを開く。

冬夜のインスタグラムには、新しい投稿がいくつもアップされていた。温泉旅館での食事風景。海辺での夕日。そして、紅と手を繋いで歩く後ろ姿。

彼の表情は、私が知っている冬夜とは別人のように穏やかで幸せそうだった。まるで普通のカップルのように、自然に笑っている。

私の前では、こんな顔を見せてくれたことは一度もない。

画面をスワイプして、すぐに閉じた。

もう、見る必要もない。

午後、私は実家を訪れた。

「お疲れさま」

母が玄関で迎えてくれる。久しぶりに実家の匂いを嗅いで、少しだけ心が和んだ。

リビングに通されると、父が新聞を読んでいた。

「雪音か。珍しいな、平日に顔を出すなんて」

「お父さん、お母さん、話があるの」

私は二人の前に座った。

「実は、しばらく研究所にこもることになったの」

母の表情が曇った。

「研究所って......どのくらい?」

「長ければ二年くらいかな」

「二年?」父が新聞を置いて、私を見つめた。「結婚を控えているのに?」

「それなんだけど......」

私は一度深呼吸をした。

「冬夜との結婚、やめることにしたの」

母の顔が青ざめた。

「え?どうして?喧嘩でもしたの?」

「喧嘩じゃない。ただ......研究にもっと打ち込みたくなったの」

嘘だった。本当の理由なんて、両親に話せるわけがない。

「雪音......」母が心配そうに私の手を握った。「もう一度よく考えてみなさい。冬夜くんはいい人じゃない」

「お母さん」

「五年も付き合って、やっと結婚が決まったのよ?それを今更......」

「もう決めたことなの」

私の声が少し強くなった。

父がゆっくりと口を開いた。

「自分で選んだ道なら、後悔するなよ」

母が父を見つめた。

「お父さん!」

「いいんだ」父は私に向き直った。「雪音の人生だ。親が口出しすることじゃない」

私は父に感謝の気持ちを込めて頷いた。

夕方、家に戻ると、玄関先で小春(こはる)が待っていた。

「やっと帰ってきた」

小春は腰に手を当てて、呆れたような顔をしている。

「どうしたの?」

「荷造り、手伝いに来たのよ。一人じゃ大変でしょ?」

私たちは家の中に入った。がらんとしたリビングを見回して、小春が口笛を吹いた。

「すごいわね。もうこんなに片付けちゃったの」

「少しずつやってたから」

「そういえば」小春がソファに座りながら言った。「二ヶ月前、あなたが冬夜にプロポーズして成功したって聞いた時は、本当に嬉しかったのよ。まさかこんなことになるなんて......」

私は黙って段ボール箱を組み立てた。

「ねえ、雪音」

小春の声が真剣になった。

「本当の理由、教えてくれない?研究に打ち込みたいなんて、嘘でしょ?」

私の手が止まった。

「......」

「この一ヶ月、あなたの様子がおかしかったもの。何があったの?」

私は段ボール箱から顔を上げて、小春を見つめた。

親友の優しい眼差しが、私の心の奥まで見透かしているようだった。

「冬夜が......」

声が震えた。

「冬夜が、別の女性を妊娠させたの」

小春の目が見開かれた。

「は?」

「紅っていう女性。冬夜の......命の恩人らしいの」

私は一ヶ月前のことを、全て話した。人工授精の提案。紅の妊娠。そして、冬夜の言い分。

話し終わると、小春の顔が真っ赤になっていた。

「ふざけんなよ!」

小春が立ち上がった。

「何でそれをあんたに許させようとしてるんだ!命の恩人だから?そんなの理由になるわけないでしょ!」

「小春......」

「なんで?」

小春は顔をしかめて、腹立たしそうに言った。

「雪音も彼の命の恩人だよ!それなのに、なんでこんな目にあわなきゃいけないの?」

私は何も言わなかった。

きっと、彼は私を愛していなかった。

それがすべてだ。


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