稲垣静香は江崎徹を見つめた。「あなた、職業についたばかり?」
「ああ」
「どうして学校の先生たちと一緒に行動しないの?卒業生は補助の先生がレベルアップを手伝って、初心者の期間を乗り切るはずよね」
「一人で修行したいんだ」
静香はうなずいた。彼女の予想通りだった。
若者はみなこうだ。職業についただけで、自分は大したものだと思い込み、一人で外に出て怪物を見て回ろうとする。だが多くは怖気づいて引き返してしまう。
中にはパンツを濡らす者もいる。
それはまだましな方だ。命を落とす新人もいる。毎年このような学生がいる。高慢で、誰にも頭を下げず、最後は死んでしまう。
静香は笑いながら尋ねた。「あなたの職業は?」
「剣客だ」
静香は驚愕の表情を浮かべた。てっきりAランク職、せめてBランク職だと思っていたが、Dランクの剣客に過ぎなかった。
一体何の自信があって、一人で修行に出てくるのか。
静香は気の毒に思った。「こうしましょう。私たちと一緒に行きませんか?外の怪物を見せてあげるわ。あなたが彼らに殺されるのを防ぐために。怖くなったら、帰ればいいし」
徹は首を振った。「ありがとう。自分で身を守れる」
徹はそう言うと、颯爽と去って行った……
「あの小僧、本当に天の高さを知らないな。自分がすごいと思い込んでる」
「Dランク剣客?こんな下級職業で、一人で外に出るなんて?」
「あいつ、外で死ぬ可能性が高いぞ」
「隊長、ほっときましょうよ」
静香は頭を振りながら嘆息した。「あんなに格好いいのに、ちょっともったいないわね」
徹は転移の祭壇を出た。
タテンス丘陵。
青い石で建てられた町で、多くの職業者が集まり、三々五々とチームを組んでいた。
「レベル10の牧師募集中、タテンス丘陵の秘境に向かいます」
「盾役募集、戦士でも騎士でもOK、剣客はお断り……」
「魔法使い募集、できれば氷属性の魔法使い、レベル20以上希望……」
徹はちらりと見た。これらは皆、単独の職業者だ。戦場に入る時はチームを組んで修行する。こういった職業者たちはチームがないから、信頼関係もない。
途中で装備が出れば、互いに謀り合う可能性が高い。
徹は東の方角へ歩いていった。
タテンス丘陵の周りはレベル1から10の怪物ばかりで、徹のレベルアップにちょうどいい。徹は深呼吸し、タッテンス丘陵の町を出た。
徹はすぐに五人の集団に遭遇した。
彼らも明らかに新入生で、徹と同じく学校の修行には参加せず、そばには牧師が一人補助についていた。
「騎士、シールドを展開して前に出ろ」
「牧師は後ろからスキルを使え、防御スキル、戦闘スキル、回復スキル」
「魔法使いは後ろから火炎球を放て」
「速くしろ、もたもたするな、お互い連携しろ」
徹は怪物を見た。
【魔化かかし】
【レベル:1】
【HP:91/100】
【物理攻撃力:10-25】
【物理防御:2-12】
【魔法防御:0-6】
【説明:かかしに見えるが、攻撃力はかなり強い。唯一恐れているのは火だ】
この魔化かかしは人間のような人型の怪物で、全身から黒い気を放ち、両目は空洞で、見ていると非常に恐ろしい。
徹は驚いた。
このかかしの物理攻撃力はかなり高く、これでもレベル1の魔化かかしだというのに、物理攻撃力は最大で25にも達する。二、三回攻撃されれば死んでしまうだろう。
一つの火炎球が飛んでいく。
-23……
魔法使いは興奮して叫んだ。「当たった!」
「攻撃を続けろ、止まるな。騎士、しっかり前に立て、かかしが魔法使いを攻撃しないようにしろ。お前は盾役だ、仲間をしっかり守れ」
牧師が傍らで指示を出していた。
傍らにいた勇者が徹を見た。
これも新しく出てきた学生のようだが、なぜ強力な職業の保護がないのだろう。バックグラウンドのない新入生で、一人で修行にきたようだ。
徹は立ち去った。
徹は理解していた。この新入生は、バックグラウンドがあるか、お金があるかのどちらかで、人を雇って初心者期間を乗り切るつもりだ。
初心者エリアでは、多くの新入生が口論している。お前が私の怪物を奪った、いや私がお前の怪物を奪ったなど。
徹は微笑んで立ち去った。こんな新入生たちと怪物の取り合いはしたくない。人気のない小道を選んで去っていった。
すぐに、職業者は少なくなっていった。
徹は歩き続け、ついに怪物を発見した。
【魔化かかし】
【レベル:1】
【HP:100/100】
【物理攻撃力:10-25】
【物理防御:2-12】
【魔法防御:0-6】
では、このかかしでスキルを試してみよう。
徹は深呼吸し、かかしに向かって歩いていった。
100メートル……
70メートル……
30メートル……
徹は足を止め、魔化かかしを見た。ネット上の記録によれば、魔化かかしの安全距離は10メートルだという。
10メートル以内に入ると発見され、攻撃を受けることになる。
徹は右手で短剣を握った。
一振り。
シュバッ……
短剣から剣の光が放たれ、白い光が一閃すると、かかしは二つに分かれ、体内から黒い霧が噴き出した。
【経験値+10】
徹は唖然とした。
秒殺……
一剣で秒殺……
これが百倍増幅の効果だ。距離だけでなく、攻撃力も百倍に増幅する。
この感覚は最高だ。
強すぎる。
五人がかりで倒すはずだった魔化かかしが、Dランクの剣客に秒殺されるなんて、しかも30メートルも離れた距離から。
これはもはや近接戦闘職ではない。まさに遠距離戦闘職だ。
魔法使いでさえ魔法を使う距離に制限がある。通常は15メートル以内で、それ以上離れると魔法攻撃は効果がなくなる。
百倍増幅によって、近接戦闘職が遠距離戦闘職に変わったのだ。
今の一剣で精神力を1ポイント消費したが、すぐに回復した。
徹はステータス画面を見た。
【名前:江崎徹】
【職業:剣客】
【レベル:0】
【経験値:10/100】
【体質:5】
【力量:5】
【精神:6】
【敏捷性:5】
【装備:短剣(白)】
【空間:5】
【スキル:
基本剣術:全身の內力を集中させ、前方に剣気を放って敵を攻撃する。攻撃距離40メートル、力の集中に0.3秒かかる、消費MP:1ポイント。
基本步法:短時間自分の敏捷性を高め、敵の攻撃を回避する。持続時間500秒、消費MP:1ポイント。
剣気・縱橫:百の剣気を集中させ、周囲を囲み、敵を自動的に攻撃する。持続時間100分、攻撃頻度0.1秒、消費MP:2ポイント。
パッシブスキル・瞑想:0.1秒間静止することで、精神力をゆっくりと回復する。回復量:1ポイント。】
経験値が10上がった。
あと9体のかかしを倒せばレベルアップできる。
5人チームなら経験値は2ポイントずつしか分配されず、50体のかかしを倒さなければレベルアップできない。
今は単独行動で、速くて経験値も多い。
徹は考えた後、怪物の狩りを続け、新しいスキルを試してみることにした。
まずは基本步法を試そう。
シュッ……
人影が一瞬で前方へ駆け抜けた。