บท 2: ウォト星

บรรณาธิการ: Pactera-novel

パイロットは静を宇宙港まで送り届けると、エンジンを止めることなく、彼女が降りた瞬間――機体は滑るように地面を離れ、一気に空へと舞い上がった。

静は小さく首を振ったが、特に気にした様子もない。小さなスーツケースを手に取り、そのまま落ち着いた足取りで待合室へと向かった。

ウォト星行きの宇宙船はまだ出発時刻になっておらず、静は待合室の椅子に腰を下ろし、手持ち無沙汰に周囲へと視線を巡らせた。旅行客は思いのほか多く、ホール全体が人で溢れかえっている。――その光景は、彼女が地球の大和人だった頃に見た、年末の帰省ラッシュを思い起こさせるほどだった。

浩渺大陸の払雲宗で千年を過ごした静は、もはや地球で大和人として生きていた頃の記憶を、ほとんど思い出すことがなくなっていた。

だが今にして思えば――あの短い二十数年も、確かに輝いていた。大学では大好きな動物科学を専攻し、卒業後は順調に動物園へ就職。毎日、愛らしいモフモフたちと触れ合いながら過ごす日々は、静にとって穏やかで幸せな時間だった。

あのとき――水に落ちた観光客を助けようとしなければ、静が浩渺大陸に転生し、修真者として生きることもなかっただろう。

千年にも及ぶ苦しい修行の末、ようやく渡劫期へと到達した。渡劫を終えれば、虚空を越えて地球の次元へ戻れる――そう信じていたのに。結果は、九天の劫雷に打たれ、肉体は滅び、そして今度はこの星間時代へと転生してしまったのだった。

「ウォト星行きの乗客の皆さま、こちらへお進みください！」制服を着た係員の呼びかけが響き、静の回想はそこで途切れた。

乗客たちは一斉に顔を上げ、ざわめきながら周囲を見回した。やがてそれぞれが立ち上がり、手早く荷物を整え始めた。

静の荷物は、小さなスーツケースが一つだけ。そのためすぐに持ち上げて歩き出し、自然と宇宙船へ最初に乗り込む乗客となった。

彼女の後ろには、長い乗船待ちの列が続いていた。宇宙船に乗り込むと、乗客たちはそれぞれ自分の客室へと案内される。その造りは、どこか学生時代の寮を思わせるものだった。一般客室は八人部屋、少し上の等級で四人部屋、さらに上位には二人部屋があり――そして最上級は、もちろん一人部屋だった。

石川夫人も、さすがにあからさまな仕打ちは避け、静には二人部屋を手配していた。だが静は――やはり誰にも邪魔されずに過ごしたいと思い、心の中で一人部屋へのアップグレードを考えていた。

首都星からウォト星までの航路は長く、一般的な商業宇宙船でも、およそ半月はかかる道のりだった。

この長い期間を無駄にしたくなかった静は、船中でも修行法を再び磨くつもりでいた。そのため、他人と同じ部屋で過ごすのはどうしても不便だった。

「一人部屋へのアップグレードって……こんなに高いの？五万星間通貨ですって！」静は思わず目を見開き、思考が一瞬止まった。

宇宙船のスタッフは、こうした反応に慣れているのか、表情ひとつ変えずに答えた。「はい、お客様。――それでもアップグレードをご希望なさいますか？」

「はい」静は短く答えると、通信機の残高を確認し、手を端末の上にかざした。「ピッ」という軽い電子音とともに、五万星間通貨が即座に引き落とされる。――残高は、わずか数百。

静は自分に言い聞かせるように心の中でつぶやいた。――どうせ宇宙船での食事はチケット代に含まれているし、余計な買い物をしなければ問題ない。ウォト星に着いたら仕事をして、きっとすぐに報酬を得られるはずだ。

一人部屋にアップグレードした静は、客室に入るなり周囲を軽く確認し、すぐに姿勢を整えて座った。そして、深く息を吸い込み――修行法『引気の奥義』の修行を始めた。

これは、払雲宗の弟子であれば――内門であれ雑役であれ――入門後に必ず習得しなければならない基本の修行法だった。修真の道における最初の一歩。引気の術そのものは難しくないが、その成果は修行者それぞれの才能と悟性によって大きく異なった。

前世の静は天霊根の持ち主で、修行の才は群を抜いていた。引気を始めたその夜のうちに、あっという間に大成してしまったほどだ。一方で、同じ時期に入門した弟子の中には、昼夜座禅を組み続けても――一ヶ月経ってもなお、気の流れを感じることすらできない者もいた。

幸いにも、静は肉体こそ変わったものの、意識も経験も前世のままだった。この身体の資質は前ほどではないにせよ、修行には十分耐えうる。彼女は二日かけて引気に成功し、そのわずか数日後には、すでに大成の段階へと到達していた。

安全のため、静は宇宙船の中で築基期へ進むつもりはなかった。残りの時間は客室でウォト星の資料を読み込み、時には公共エリアに出てほかの乗客と軽く言葉を交わす。――そんな穏やかな日々が、彼女の宇宙船での毎日の暮らしとなっていた。

一週間後、宇宙船は航路上の中継星に短時間だけ停泊した。その際、乗客の半数以上が降りていき、船内は一気に静けさを取り戻した。

そこで静は初めて気づいた――実際にウォト星で働く者は、思っていたほど多くないのだと。公共エリアで知り合った少女・ケイリーも、偶然にも同じくウォト星で働く予定だという。

しかし、二人の職種はまったく異なっていた。どうやら、この宇宙船でウォト星の動物園に飼育員として赴任するのは、静ただ一人のようだった。

静はそのことを特に気に留めなかった。――好きな本職に戻れるのなら、それ以上望むことなどない。まさにそれこそが、石川夫人から仕事の内容を聞かされたとき、静があえて逆らわずに流れに身を任せ、この道を選んだ理由だった。

さらに一週間の航行を経て、宇宙船はようやくウォト星の宇宙港へと静かに着陸した。乗客たちは次々に降り立ち、出口前の広いホールに整列して、それぞれの所属先から迎えに来る人々を待った。

周囲の人々は次々と名前を呼ばれ、迎えの者とともに去っていった。やがてホールのざわめきは静まり、人影もまばらになり――最後には、出口の前に静ただ一人だけが取り残されていた。

そよ風が静かに吹き抜ける。その空虚な音が、まるで彼女の境遇に合わせて――悲しくも寂しい背景音楽を奏でているかのようだった。

静の美しい眉がわずかに寄る。――彼女が赴くはずの動物園は、そんなにもずさんな職場なのだろうか。それとも、今日新しい職員が来ることを、誰も知らされていないのだろうか。

そう考えていたそのとき、銀白の軍服に身を包んだ背の高い男性が、足早にこちらへ駆けてきた。彼は静の姿を見つけるなり、息を整える間もなく深々と頭を下げた。「あなたが――新しい飼育員の石川静さんですね。本当に申し訳ありません！動物園で飼育中の動物たちが喧嘩を始めてしまいまして……ようやく引き離したところなんです。それで到着が遅れてしまいました」

相手の遅れた理由を聞き、静の胸にあった苛立ちはすっと和らいだ。――正当な事情があるのなら、責め立てる気にもなれない。

「大丈夫です、そんなに長く待っていたわけではありませんから」静は穏やかにそう言った。もちろん、それは小さな嘘だった――実際には二、三時間も待たされていたのだ。だが、こうした場面での人付き合いの加減は、彼女がよく心得ていることだった。

ただ一つ、静の胸に引っかかったのは――なぜ動物園の職員が、軍服など着ているのかということだった。

「私は動物園の園長補佐、アンソンです。今日からあなたと一緒に働けることを嬉しく思います」アンソンは穏やかな笑みを浮かべながら、礼儀正しく静に手を差し出した。

静はすぐにその手を握り返し、丁寧に微笑んだ。「こちらこそ、一緒に働けることを嬉しく思います」

目の前の男性は、整った顔立ちをした人物だった。高く通った鼻筋に、淡い灰色の瞳。肩まで届く銀の髪は、後ろで低く束ねられ、きっちりとした軍服がその姿をいっそう引き締めて見せていた。

静がこっそりとアンソンを観察しているその間、アンソンもまた、彼女を静かに観察していた。

彼女は細身で、肌は白く艶やかだった。整った顔立ちに、柔らかく滑らかな黒髪――そして同じく深い黒の瞳。おそらく性格も穏やかなのだろう。二、三時間も待たされたというのに、彼に対して怒りの言葉ひとつ口にしなかったのだから。

簡単な挨拶を交わしたあと、アンソンはすぐに本題に入った。「私の飛行機は宇宙港の前の道路脇に停めてあります。――動物園までご案内しますね」そう言いながら、彼は自然な動作で静の小さな旅行かばんを手に取った。

静はわずかに眉を上げた。――なかなか気の利く人だ、と心の中で評価した。

数分ほど歩くと、視界の先に独特なデザインの小型飛行機が見えてきた。周囲にはほかのスタッフの姿はなく、どうやら彼が一人で迎えに来たらしい。

飛行機に乗り込むと、アンソンは静の荷物を丁寧に収納し、手でそっと座席を示した。「どうぞ、こちらへお掛けください」