佐々木詩織(ささき しおり)は、一人、大通りを歩いていた。身体はまだ弱りきっていて、ふらふらとした足取りで、まるで瀕死の人間のように、一歩一歩、やっとのことで歩を進める。
すべてが馬鹿げている、と彼女は思った。いったい、これはどういうこと?
見慣れた大通り、見慣れた街。
すべてが、四年前のあの頃に戻っている。
天は、自分を弄んでいるのか。それとも、憐れんでいるのか。もう一度この世を歩ませるというのは、あの破綻した人生を再び繰り返させるため? それとも……
ふと、息が詰まった。脳裏に、巨大な二文字が浮かび上がる――復讐!!!
夏の真昼の太陽は、肌を焼くように熱い。
なのに、彼女は骨の髄まで凍えるような寒さを感じていた。
人生の二十年間、一日だって良い日なんてなかった。最後の数年に至っては、屈辱の限りを味わい尽くした。
十六歳になるまで、彼女は継母を「お母さん」と呼び続け、毎日自分をいじめる姉を本当の家族だと思い込んでいた。あの夏、ある密談を耳にしてしまうまでは。その時、すべての真相を知ったのだ。
滑稽な話だ。父の二番目の妻、柏木静華(かしわぎ しずか)は、かつて母の親友だった。結婚式当日、新郎は花嫁付添人であるその親友と、互いに目を合わせてしまった。婚姻の殿堂に足を踏み入れたその瞬間から、彼の裏切りは始まっていたのだ。
その後、静華はなんと母より先に妊娠し、佐々木燦(ささき さん)を産んだ。
佐々木燦が生まれて数ヶ月も経たないうちに、前妻の子が産声を上げた。それもまた娘。それが、佐々木詩織だった。
もし息子だったなら、おそらく柏木静華もあんなに早く父をそそのかす勇気はなかっただろう。
だが、よりにもよって娘だったことが、佐々木徳忠の心を揺らがせる隙を与えてしまった。
ともかく、一連の騒動の末、母は夫と親友に共謀され、死に追いやられた。親友は、恥知らずな愛人から豪邸の貴婦人へと成り上がり、佐々木燦を連れて、本来、詩織が手にするはずだったすべてを奪い去った。
あの日、プールサイドで継母と義姉に真相を問い詰めた。だが、まさか燦が、あんなにも非情に詩織をプールへ突き落とすなんて。事故の後、彼女たちは助けを呼ぶどころか、自分たちは姿をくらましたのだ。
もし執事に発見されていなければ、とっくに死んでいた。
あの真相を話していた二人のメイドには、本当に感謝しなければ。彼女たちがいなければ、自分は今もなお、何も知らずにいたことだろう。
十六年間も「お母さん」として慕ってきた女が、まさか悪辣な継母だったなんて。十六年間も譲ってきた姉が、本来自分のものだったはずの幸せを奪った悪人だったなんて。
どうりで、小さい頃から「お母さん」に少しも愛されなかったわけだ。些細なことで罵られ、叩かれるのが常だった。
それは、詩織が本当に出来の悪い子で、お母さんが自分を思って厳しくしているのだと、そう信じていた。後になってようやく分かった。あれはただの嫌悪、自分を疎ましく思う気持ちの表れだったのだ!
ほとんど顔も知らない母を思うと、詩織の胸は鋭く痛んだ。お母さんは、あの人たちに殺されたんだ!
その顔さえも、知らないのに……
でも、詩織は転生だった。
ならば、前世のすべては、覆されるまでだ!
もう二度と、柏木静華に自分を陥れる隙など与えない。ましてや、あの恐ろしい記憶を再び繰り返すことなど、決して!
自分のために、そして、母のために、必ず復讐を果たす!
*****
詩織は外を長いこと彷徨い、最終的に、佐々木家の門をくぐった。
長谷川執事がちょうど運転手と彼女を探しに出ようとしていたところだった。その姿を認めると、慌てて駆け寄ってくる。
「詩織お嬢様! どちらへ行っておられたのですか? この老骨を、どれだけ心配させれば気が済みますか!」
長谷川執事は血を見ると卒倒する癖があった。彼が意識を取り戻した時には、佐々木詩織はすでにどこかへ消えていたのだ。
詩織はひどく疲れていて、言葉を発するのも億劫だった。無言で屋敷の方へ歩いていく。
長谷川執事は慌てて後を追い、よろよろと歩く彼女を支えようとした。
詩織は冷ややかに振り返る。蒼白な唇は固く結ばれ、まるで罵詈雑言を必死に抑え込んでいるかのようだ。