誰もいない城内を二人で歩く。
ミラベルは燭台を手に取ると壁の小さな蝋燭の火を燭台に移して行く。
「光の魔法使いましょうか ? 」
「いいえ。何に反応するか分からないから、魔法は使わない方がいいわ。以前、私もランタンの魔術を使ったことがあるんだけれど、弾かれて少し火傷したの」
「危険ですね」
「城を立てた時の書物を確認したの。でも……そんなはずないのよ。
さぁ、こっちよ」
燭台を掲げ、その灯りを頼りに居住塔の地下を目指す。
地下一階に降りると、細い横道がしばらく続く。加工の大雑把な石垣の壁だ。突き当たりまで来ると、蝋燭や絨毯も無い、冷たく濡れた螺旋階段が姿を現す。湿気とカビの匂い。少し歩くと顔に蜘蛛の巣が引っかかる。
「嫌ぁねぇ。ごめんなさい、普段来ないもんだから」
「いえ……」
しかし、確かに感じる。
微量な魔力。
下まで降りると、七平方フィート程の部屋があった。土の床で、一辺が成人男性が寝て少し余る程度の正方形の部屋。
真ん中にやや細い石の筒が不自然に突き出ていた。
「井戸……ですね……」
ミラベルは井戸に手を翳すと、リリシーを呼ぶ。
「この上に手をかざしてみて」
リリシーは言われるままに手を差し伸べる。
脅威的な魔力が風と共に吹き上がってくる。
「確かに ! ……これは凄い魔力ですね。
でも、どうしてこんな場所に井戸が ? 」
「これは建設中に作業員が使ってた井戸なのよ。間に合わせの給水所ってところね。これが当時の基礎の図面。ここに印がついているでしょ」
井戸のある位置には確かにバツ印が付いていた。丁度、炎城のド真ん中である。
「他の書類も調べたんだけど、この井戸は町より先に出来ていたらしいの。このバツ印から線が真っ直ぐ引いてあるでしょ ? ここはエルザ山脈よ。
井戸の水は、あのダンジョンの地底湖から引いているの」
「え !? なら、これは……毒……っ !!? 」
「そう思うでしょう ?