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20.83% 捨てられた妻の宝石人生 / Chapter 5: 第5話:空っぽの真実

บท 5: 第5話:空っぽの真実

第5話:空っぽの真実

[刹那の視点]

「刹那?」

玄関の外から聞こえる冬弥の声に、私は手を止めた。

鍵を回す音。ドアが開く。

「おい、刹那!」

冬弥の足音が廊下に響く。そして、寝室のクローゼットの前で立ち止まった。

「何だ、これは……」

空っぽになったクローゼットを見つめる冬弥の声が、震えている。

私はリビングのソファに座ったまま、振り返らなかった。

「今度は家の中を空っぽにして、家出でもするつもり?三歳児かよ」

冬弥が私の前に立ちはだかる。顔は怒りで紅潮していた。

「言いたいことはそれだけ?」

私は冷静に答えた。

冬弥の表情が変わる。いつもなら謝罪や弁解をする私が、まるで他人事のように応答したからだ。

「お前、本当におかしくなったな」

「おかしいのはあなたよ」

私は立ち上がった。

「私の『かわいいところ』って、あなたの浮気を黙って見過ごすことだったのね」

冬弥の顔が青ざめる。

「何を——」

「美夜さんとのデート、楽しかった?私が病院で倒れている間に」

私の言葉に、冬弥は何も答えられなかった。

「この数日は家には帰らない」

冬弥が吐き捨てるように言い、玄関に向かう。

ドアが勢いよく閉まった。

私は一人になった静寂を、深く吸い込んだ。

----

冬弥は車の中で、ハンドルを強く握りしめていた。

刹那の変わりようが理解できない。いつもなら泣いて謝る妻が、まるで氷のように冷たくなっている。

「美夜に相談しよう」

冬弥はスマートフォンを取り出し、美夜に電話をかけた。

「冬弥?どうしたの?」

「刹那の様子がおかしいんだ。家出の準備をしてる」

「あら、大変ね。でも、放っておけばいいんじゃない?どうせ戻ってくるわよ」

美夜の声は、どこか楽しそうだった。

「そうかな……」

「心配しないで。私がいるじゃない」

電話を切った冬弥は、そのまま美夜のマンションに向かった。

実際に、冬弥は一週間家に帰らなかった。

----

[刹那の視点]

一週間の静寂は、私にとって最高の贈り物だった。

誰にも邪魔されず、荷物の整理を進める。思い出の品々を段ボールに詰めながら、不思議と心は軽やかだった。

リビングを見回すと、皮肉な光景が目に入る。

残されたソファセットとハンモックチェア。美夜がSNSに投稿していたのと全く同じモデル。

私が選んで買った家具を、冬弥は「センスが悪い」と言った。でも美夜が同じものを持っていると知った途端、急に気に入ったようだった。

「馬鹿みたい」

私は小さく笑った。

土曜日の朝、私は二つ隣の区にある公園に向かった。知人に会う可能性を避けるためだ。

フリーマーケットの会場は、家族連れで賑わっていた。私は端の方にブルーシートを敷き、段ボールから品物を取り出す。

未使用のブラウス、読まなくなった本、昔集めていた食器。どれも私が選んで買ったものばかり。

「これ、いくらですか?」

若い女性が、小さなフォトフレームを手に取った。

「三百円です」

「可愛いですね。買います」

女性が笑顔で代金を渡してくれる。

私の選んだものを、誰かが「可愛い」と言ってくれた。それだけで、胸が温かくなった。

「ママ!」

突然、聞き覚えのある声が響いた。

振り返ると、怜士が走ってくる。その後ろに冬弥と美夜の姿が見えた。

「あ……」

怜士が私の前で立ち止まる。そして、ブルーシートの上に並んだ品物を見つめた。

「これ、僕のミニカー!」

怜士が手を伸ばそうとする。私はそれを制した。

「これは私が買ったものよ」

「嘘だ!僕のだ!」

「冬弥が『ガラクタ』って言ったから、処分することにしたの」

私の言葉に、冬弥の顔が強張る。

「刹那、何してるんだ」

冬弥が私の前に立った。美夜が彼の腕に寄り添っている。

「俺たちの物を勝手に売るなんて——」

「訂正するけど、それはあなたの車のモデルじゃないわ。私が買った車のモデルよ」

私は冷静に反論した。

「お前が買ったって、俺の金で——」

「私の独身時代の貯金よ。レシートも残ってる」

冬弥の言葉が詰まる。

その時、冬弥の視線が一点に釘付けになった。

ブルーシートの隅に置かれた、空のフォトフレーム。

結婚写真を飾るはずだった、あのフォトフレーム。

「これは……」

冬弥が震え声で呟く。

「なんで写真が入ってないんだ!」

「え?最初から空っぽだったんじゃなかった?」

私はわざとらしく首をかしげた。

冬弥の顔が真っ赤になる。

「ふざけるな!俺たちの結婚写真が——」

「あら、神凪さん」

美夜が割って入ってきた。

「夫婦喧嘩なら、家でやったらどうかしら?」

美夜の声は優しげだったが、目は冷たく光っている。

私は立ち上がった。

「自分の妻の前で、他の女に腕を組ませたりしない」

美夜の顔が一瞬歪む。

「それが、まともな夫のすることよ」

私はブルーシートを畳み始めた。

「刹那!」

冬弥が私の腕を掴もうとする。でも、私は振り払った。

「もう、関わらないで」

私は段ボールを抱え、その場を立ち去った。

後ろから冬弥の怒鳴り声が聞こえたが、もう振り返らなかった。

バス停で振り返ると、冬弥が美夜と怜士に囲まれて立っていた。

三人とも、私を見つめている。

でも、もう何も感じなかった。

バスが来た。私は乗り込み、窓際の席に座る。

バスが動き出すと、冬弥たちの姿が小さくなっていく。

私の新しい人生が、今始まろうとしていた。


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