「兄ちゃん、穂?」龍之介は目を丸くした。
三人の子供たちはお互いの身なりを見て、すぐに相手の意図を理解した。
「みんなもママを助けに行くつもり?」三人が口を揃えて言った。
文彦は額を軽く叩いた。「やっぱり僕たちは皆ママの子だね」
「ママが悪いパパに連れ去られたんだから、穂はじっとしてられないよ」と穂。
「そうそう」と龍之介は全面的に同意した。
文彦は諦めた。本当は一人で行くつもりだったのに……まあ、仕方ない、一緒に連れて行くしかないか。
「二人とも、僕から離れるなよ」
穂は何度も頷いた。「うん、穂は一番いい子だから、絶対言うこと聞くよ」
……
菜穂は彰仁によってホテルの 、プレスィデンシャル・スイートに強制的に連れて来られた。
ドアが開く音を聞いて、晴香は嬉しそうに出てきた。「彰仁、お帰……」
突然、彰仁の隣に立つ女性を見て、彼女の声が止まった。
「夏目菜穂?」
5年間行方不明だった菜穂だった。
晴香は信じられない様子だった。
菜穂は顔を上げて晴香を見ると、表情が冷たくなった。
あの時、母が亡くなり、晴香は母の葬式に赤いワンピースを着て現れ、彰仁が来られない理由は彼女の母の世話をしているためだと言ったのだ。
菜穂は晴香がわざとそうしていることを知っていた。わざと彼女を刺激するために。
残念ながら当時の菜穂は、母の死と夫の裏切りに崩壊し、自分の感情をコントロールできず、晴香の意図を知りながらも離婚して去るしかなかった。
あの時の晴香はさぞ得意だっただろう。
菜穂の心に冷たいものが広がった。
「彰仁、菜穂がなぜここにいるの?さっきあなたがそんなに急いで出かけたのは、彼女のためだったの?」
晴香の詰問を聞いて、菜穂は彰仁の方を向き、表情を変えて彼の腕に手を回し、片眉を上げて笑った。「あら、佐藤さんがいらしたんですね。私が悪かったわ。佐藤さんがいると知っていたら、彰仁についてこなかったのに」