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บท 6: 第6話 貴様は私のものだ

「じ、自分で洗えます! 洗いますから!」

「いいえ、タクミ様にそのようなことはさせられません」

 

 これはちょっと地獄だ……。

  

 俺はまるでスーパー銭湯みたいな大浴場で、メイドたちによって体を洗われていた。

 それも歳はそう離れていない女の子たちなのだから困る。

 

 俺は必死に自分の股を隠しながら、羞恥心と戦っていた。

 

 それが終わったかと思えば体を拭かれ、同時になにやら体のサイズを測られる。

 すべてが終わった頃には俺用の服が用意されていて、これはもう至れり尽くせりというやつだがどうにも落ち着かない。

 

 しかも服の着方もわからないので、これもメイドたちによって着させられた。

 

 そして、俺はやっと一人になれる。

 

 客間と思しき広い部屋で、無駄にデカいベッドに腰かけて一息ついた。

 

「な、なんかすげー疲れた……」

 

 着ている服は相当上等なものだと俺にもわかる。

 なのでベッドに横たわってしまってはシワになってしまうと思い、横にもなれないのだ。

 

 すると、睡魔がやってきて、俺は座ったまま船を漕ぐ。

 

 ……色々ありすぎた一日だった。頭がついていけない。

 勇者に慣れたかと思えば化け物になって、河原の石を食べるハメになった。

 けれど、その力を使ってアリアを助けることもできて、たぶん超お偉いさんの世話になってる。

 

 展開が早すぎる。俺が書いた小説はこんな話じゃなかった。

 

 やっぱり現実と空想は違うのかもしれない。

 いや、現実だからこそ様々なことが一気に起きるのか。

 

 そうしてうつらうつらとしていると、コンコンとドアを叩く音がして、俺は顔を上げる。

 

「た、タクミさま!」

「うん……?」

 

 来たのはパメラと呼ばれていた少女だった。

 慣れない仕草でお辞儀をしつつ、部屋の外へと出るように手で促してくる。

 

「御夕飯のご用意ができています! アリアお嬢様がお待ちです!」

「わ、わかった。すぐ行くよ」

「ご案内します!」

 

 俺は着なれない衣服に乱れがないか、確認してから部屋を出た。

 先を行くパメラの栗色の髪を見ながら、やっぱりここは日本じゃないんだなぁと改めて思う。

 

「では、ごゆっくり。なにかありましたらお呼びください!」

 

 だだっ広い屋敷を歩いて通された部屋には、これまた長いテーブルがあった。

 その奥にドレスを着替えたアリアが座っていて、鋭い眼光が飛んでくる。

 

「ふむ。悪くはないな。座れ」

 

 な、なにが? と思いつつ、俺は促された反対側の席に座った。

 けれど長いテーブルの両端だ。一緒の食事なのに随分と遠い距離である。

  

 俺はその違和感をつい口に出してしまった。

  

「……他に家族はいないのか?」

「今はいない。いたとて貴様を同席させるわけがなかろう」

「そっすか……」

 

 うーん、相変わらず辛辣なのか親切なのかわからない子だ。

 

 少しすると、メイドたちが料理を持ってきて、俺とアリアの前に皿が置かれる。

 テーブルマナーなんて高校生の俺が知るわけない。そもそも知っていたとて現代と同じかわからないだろう。

  

 俺が戸惑っていると、アリアが察してか、無表情で言う。

 

「外側のカトラリーから順に使え。音を立てるな」

「う、うす……」

 

 それから、無言の食事が続いた。

 正直、味がよくわからない。見たことのない野菜に、飲んだことのないスープ、食べたことのないソースのかかった肉などだ。

 それを慣れない手つきで最大限お上品に食べるだけで頭がいっぱいだった。

 

 そうして、やっと料理が終わって、紅茶が運ばれてきたときには俺は肩こりのようなものを感じて首を回す。

 

「皿を舐めんだけでも上等だ」

 

 布で口を拭きながら、アリアが独り言のように言った。

 

 それは……褒められてるのか?

 

 卑下するなという割には評価の基準が怪しい。

 とりあえずは合格をもらったということにしておいて、俺は紅茶に口をつける。

 美味い。紅茶なんて苦いだけのものだと思っていたけれど、鼻に抜ける香りと豊かな旨味のようなものを感じた。

  

「タクミ」

「ん?」

 

 紅茶に関心していた俺は急に名前を呼ばれる。

 すると、アリアはわずかだが表情を緩ませてこちらを見ていた。

 

「今一度、貴様について聞かせろ」

「俺の?」

「うむ」

 

 俺がティーカップを置くと、アリアは豊満な胸の下で腕を組む。

 

「今日、魔獣との戦いの際に行った儀式、あれを【輝祷】と呼ぶ。そして、貴様は私の【輝士】となった。それは承知しているか?」

「ああ、うん。けど、俺はその前にお姫様に同じことをやられた。それで俺は自分の制御が効かなくなって、変な姿になったんだ。で、どうにかお城から逃げ出して……河原で石を食ってたらお前に会った」

「姫? まさかエカチェリーナ皇女殿下か?」

「そうだけど……」

 

 言うと、アリアは目を丸くした。

 そして、しばし考えたあと、にやりと笑う。

 

「ふっ、はははははっ! とんだ拾いものをしたものだ。それになんだと? 河原で石を食っただと? ははははっ! あの姫も災難だな。【輝士】に逃げられ、しかも無様にも石を食う化け物だったとは」

「お、俺だって別に食いたくて食ったわけじゃない! それに本当は俺は勇者になるはずだったんだよ!」

「勇者? なにを根拠に言っている?」

「そ、そりゃあ……えっと……」

 

 自分が書いた小説で、自分が主人公になりました。だから俺は勇者になるはずだったんです――なんて言えるわけない。頭を疑われるだけだろう。

 俺はしぼむ様に勢いを落とすが、アリアはそれを見逃さなかった。

 

「言え。どんなことでもいい」

「いや、ちょっと恥ずかしいし、信じてもらえない……」

「聞いていなかったか? 私は言えと言ったのだ」

 

 有無を言わせない圧だ。

 俺はしばし口をパクパクさせて、観念して自分の知っていることを話した。

 

 自分の書いた小説の世界に転移したこと。

 状況的に見て俺が主人公として始まったこと。

 そして、その物語通りにはいかなかったこと。

 

 それを聞いたアリアは――。

 

「ふふっ、はははははっ! 世迷言も極まれば余興として楽しめるものだな! くくくっ!」

 

 ――大爆笑だった。

 

 俺は口を尖らせてそっぽを向く。

  

「ほら見ろ。信じてない」

「くくっ、いいや。信じてやろう」

「えっ」

 

 ぽかん、と俺は口を開けてアリアを見た。

 その顔はどこか獰猛さを感じさせる表情で、俺は恐怖を感じる。

 

「貴様がその物語の主人公だとして……いや、だからこそ貴様は終わらなかった。そして、私の下に来たのだ。私の授けたイシの力は律する力。あの姫のイシの力を受けて暴走した貴様の理性を取り戻せたのはそういうことだ。貴様に必要な力を、私は授けた。これを偶然と考えるか、運命を考えるか。私は面白い方に賭ける」

「っていうと?」

「貴様の物語を――運命を取り戻してみよ。貴様が勇者だというのなら、私に見せつけてみよ。なにせ私と貴様はすでにひとつなのだからな」

 

 ひとつ?

 俺はよくわからない言葉に首を捻った。

 すると、アリアはドレスを下に引っ張って胸をさらけ出す。

  

 そこには、黄色い宝石があったはず。だが、今はその宝石はただの石ころのように輝きを失っていた。

 

「私の輝石はこれただひとつ。故に、私が選ぶ【輝士】は貴様一人だけだ。この先、何があろうとも貴様は私のものだ。同時に、私は貴様のものでもある」

「えっ、ん? それってどういう……?」

「言わねばわからぬか。貴様と私は夫婦めおととなったのだ」

 

 沈黙がその場を支配する。

 そして――。

 

「嘘ぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

 ――俺の絶叫がこだましたのだった。


ความคิดของผู้สร้าง
阿澄飛鳥 阿澄飛鳥

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