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0.77% 翡翠の令嬢は、名門の寵妻になる / Chapter 3: お父さんからの贈り物

บท 3: お父さんからの贈り物

บรรณาธิการ: Pactera-novel

ふいに、詩織は父がスーツケースを開ける姿を見つめていた。その背中を見ているうちに、胸の奥がじんと熱くなり、鼻の奥がつんと痛む。

――あの頃の、あの素直な想いと信頼。七年という歳月の中で、いつのまにか薄れてしまっていた。けれど今、また“やり直せる”のだ。そう思うと、詩織は強く心に誓った。あの悲しい結末だけは、二度と繰り返さない、と。

もしあの時、ネットに溺れて家族を遠ざけるようなことをしなければ――

自分と家族の関係があんなに冷え切ることもなかっただろう。

最後の数年は、顔を合わせるたびに言い合いばかり。そして蘇る直前の数ヶ月、詩織はとうとう家を出て、一人で狭いアパートに住んでいたのだ。

「もしかして、信じてないのか?」スーツケースの中から包みを取り出しながら、父さんは少し不満そうに娘の鼻をつまんだ。

 「まったく、父さんが嘘をつくとでも?」

少し拗ねたように言ってから、そっと笑う。

「ほら、これだ。本当は昨日渡すつもりだったけどな。病院着のままじゃ、雰囲気出ないだろ?」

「わぁ、きれいな箱!」

詩織は両手で受け取り、勢いよくリボンをほどいた。

中に入っていたのは、透き通るような白い玉の指輪――光を受けて淡く輝いている。

「お父さん、これすごくきれい!」手の中でそっと転がしながら、思わず笑みがこぼれた。――学用品以外のプレゼントなんて、記憶の中でも初めてかもしれない。

昔はショーウィンドウに並ぶアクセサリーを眺めているだけで満足していた。

欲しいとは思っても、手を伸ばすことはなかった。

うちの家は裕福じゃない。父は博士号を持っていても、出世には興味がなく、

「正しいと思うことしかしたくない」と言って、ずっと小学校の教師を続けていた。

おかげで生活は安定しているが、贅沢などとは無縁だ。学校で研修会があるたびに呼ばれるのも、実は「便利に使われている」だけだった。

アクセサリーなんて、詩織にとっては夢のような贅沢品。以前も、せいぜい買っていたのは水晶やパール程度で、本物の玉石なんて滅多に手に入れたことがなかった。

「でも、詩織よりきれいなものなんてないけどな」

父さんがからかうように笑う。

「ふふん、当たり前じゃん。私はお父さんの一番かわいい娘だもん!」

胸を張って堂々と言う――そんな自惚れたセリフが言えるのも、この七年前の詩織だからこそ。

まるで身体だけでなく心まで、十七歳の頃に戻ってしまったようだった。それでも、過去の記憶はすべて鮮明に残っている。どれほど消したくても、決して消えない。

――あの男の顔も。思い出すだけで、胸の奥がぐつぐつと煮え立つ。渡部進一。あの最低な男。

この人生で、詩織がここまで誰かを憎んだのは彼が初めてだった。

恋?初恋?そんなものはどうでもいい。問題は、彼が自分のデザインを盗み、それをライバル会社に渡したことだ。

詩織の仕事はジュエリーデザイナー。

あの頃、必死に頑張ってやっと大手のジュエリー会社に採用されたばかりだった。給料は安くても、夢を信じて努力していた。

――けれど、自分の作品だけが世に出て、

自分自身はその舞台に立てなかった。

渡部進一の裏切りは、浮気よりもはるかに重い。彼は詩織の夢そのものを踏みにじったのだ。

許せるはずがない。

この世に生まれ変わった以上、必ず報いを受けさせてやる。

……そう思っていた矢先に花瓶が落ちてきて――そして、気がつけば「今」だった。

生まれ変わる奇跡に舞い上がっていた気持ちも、少しずつ静まっていく。

「詩織、大丈夫か?」

父の声に、詩織はハッと我に返る。

この子は、ここ二、三日随分大人しくなった。前から静かな子ではあったが、ここ数日は何か違う感じがする。まるで突然大人になったようで、心の中にも多くの秘密を抱えているようだ。これが良いことなのか悪いことなのか分からない。

「え、う、うん。平気だよ、お父さん。こんなに元気なんだから。」慌てて笑ってみせる。過去の怒りに囚われている場合じゃない。

あいつのことは……そのうち必ず、きっちりケリをつければいい。

詩織は基本的に温厚で、他人の過ちに目をつぶることも多い。

だが、譲れない一線はある。

正義も、復讐も、けじめとして果たさなければならない。

「それならいい。ああ、そうだ。この指輪な、友人から譲ってもらったんだ。本物の和田玉で、しかも「古玉」なんだって。身につけていると身体にいいらしい。」

「古玉?」

「そう。安くはなかったぞ。父さん、奮発したんだ」

「どれくらい?」

父は二本の指を立てた。

「四千円?」

父は首を振った。

「四万円?!」目を丸くして、詩織は父の返答を待った。

今度は、父はうなずいた。

「四万円?!古玉で!?そんなバカな!」

詩織はソファから飛び上がった。――絶対、誰かに騙されたに違いない。

和田玉が四万円?ふざけている!

二十万といえば、この時代では決して安くない。しかも古玉?聞こえはいいけど、そんな値段で買えるものじゃない。

詩織は専門の宝石鑑定士ではなかったが、和田玉の腕輪がこれほど高価なはずがないことはなんとなく分かっていた。「お父さん、まさかその友達に騙されたんじゃないの?」何が古玉だ。詩織が余計なことを考えるのも仕方がない。結局、数年後にはこういうものは街中に溢れ、どれも古玉だと言われるのだから。

「詩織、何を言ってるんだ。

これは小野伯父の紹介で手に入れたものだぞ。売り主だって、最初は手放すのを渋ってたくらいなんだ。「お嬢さんのお守りに」って言われて、ようやく譲ってもらえたんだ」

父の顔が少しむっとする。

彼は、あの関口先生に初めて会った時から「この人はただ者じゃない」と感じていた。

品のある立ち居振る舞い、どこか神職のような静けさを纏っている。そんな人が、まさか人を騙すようなことをするはずがない。

「お父さん、本当にそんなにすごい人なの?」

詩織は唇を尖らせながら首をかしげた。

――どう考えても、騙されてる気しかしない。

小野伯父のことは詩織もよく知っている。父と同じ小学校の先生で、よく家に遊びに来ていた。けれど、玉石の世界なんて素人には判別がつかない。プロの鑑定士だって間違えることがあるのだ。

(それに……記憶では、この年にこんな指輪をもらった覚えなんてない)

――まさか、転生したことで過去の出来事まで少し変わっているの?

「すごいどころか」

父さんの表情が一変し、嬉しそうに語り始めた。

「彼の家にあった彫刻を見たら、誰だって息をのむ。一つひとつがまるで生きているようでな。今回だって、学会に行ったついでに小野伯父の紹介でようやく手に入れられたんだ。そうでもなければ、父さんなんかに回ってくるはずがない」

関口先生の話をするときの父の顔は、まるで少年のように輝いていた。玉石がこれほど生き生きとした姿を持つとは思っていなかった。

その表情を見ていると、詩織も少しだけ考えを改めざるを得ない。――お父さんがここまで尊敬する人、そう多くはいない。なら、もしかして本当に本物なのかもしれない。

そっと手のひらで玉環を撫でる。ひんやりとした感触。滑らかで、どこか温かみさえ感じる。光にかざすと、淡い光が玉の中をゆっくりと流れていく。水のように澄み、優しい色を湛えて――確かに、悪い品ではない。

「うん……玉そのものは本物みたい」けれど、それが古玉かどうかまでは、詩織にもわからなかった。


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