篠原景吾の顔色は一瞬で青ざめた。彼は人混みを掻き分け、数歩で壇上に駆け上がり、司会者の手からもう一つのマイクを奪い取った。
「星蘭、もう止めろ」
彼の声には少し反論を許さない命令が含まれていて、まるで駄々をこねる彼女をなだめるかのようだった。
「わかっているよ、詩織のことで僕に意地を張っているんだろう」
彼は咳払いをして、客席に向かって宣言した。
「僕は星蘭がアークスとの協力を選んでくれて嬉しい。だが同時に、もう一つ発表したいことがある――」
「橘詩織さんも、今後我が音楽帝国のチーフプロデューサーの一人となる。僕の婚約者である星蘭も、僕と同じように、彼女の才能を大切にし、最高のリソースを与えてくれると信じている」
「正気か!」
客席の投資家たちから抑えられた驚きの声が上がった。
アークス・エンターテイメントの会長、景吾のお父さんの顔は真っ黒になっていた。
私と新人を同等の立場に置く?しかも「婚約者」という立場を使って私を縛り付けようとする?
よくもそんなことができたものだ。
景吾はまるで偉業を成し遂げたかのように、詩織を深い愛情を込めて見つめた。まるで「ほら、君のためなら何でもする」と言わんばかりに。
詩織は感動で目に涙を浮かべていた。
なんとも感動的な愛の芝居だこと。
私は冷ややかな目で彼の演技を見ていた。やがて彼が振り返り、「これで十分顔を立ててやっただろう」というような表情で私を見た。
「星蘭、これで僕たちの協力を発表してもいいだろう?」
私は笑った、この上なく明るく輝くように。
「景吾、勘違いしているようね」
私は振り向き、静まり返った会場の中、優雅に歩みを進め、最初から沈黙していたあの男性に近づいた。
「深町さん、私、加藤星蘭はあなたと協力したいと思います」
「あなたは、いかがですか?」