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石川武洋との三年目、渡辺葵は彼が自分に飽きてきたと感じていた。
——
夜、派手な夜の街。葵が駆けつけたとき、個室の雰囲気は盛り上がっており、武洋はファの真ん中に腰を下ろし、星々が月を取り囲むように、彼を中心にして場が沸き立っていた。
だが葵が意外に思ったのは……彼の隣に女の子が座っていたことだった。
「おや、渡辺秘書が来たね」
予想通り、あの場所は本来彼女の席であるはずだったが、今は他の人に座られていた。
葵の細い体が個室の外で硬直したままだった。やがて中の誰かが彼女に気づき、手を振って声をかけたが、目には面白い番が始まるとの見物根性の色が浮かんでいた。
葵は表に出ていた感情を抑え、一歩一歩あの席に向かって歩いていった。彼女は武洋の前に立ち「新しい恋人?」と尋ねた。
葵は石川の筆頭秘書だが……それ以上に武洋の愛人でもあった。
この数日、彼女は出張で不在だった。今夜、やっと東京に戻り、武洋がこちらでパーティーをしていると聞いて、彼女は家に帰る暇もなくそのまま駆けつけたのに、彼は彼女にサプライズを用意していた。
武洋はソファに座ったまま、何も言わなかった。
それなのに、彼の冷たく凍りついた眉根と、まわりが見えないほどなれなれしく遊ばせている仕草――まさに隣にいる女の手を摘んで、指先で転がして遊んでいた。
葵はすべてを理解していた。
「私が余計でした」彼女は身を翻して立ち去ろうとした。
「帰れとは言ってないだろ?」
その時に、背後から男の冷たい声が聞こえた。
葵が振り返ると、武洋は「美桜はあまりお酒が飲めないから、酒に強い君が代わりに飲んであげて」と言った。
一瞬、葵は自分の耳を疑った。武洋は……彼女に他の女のために酒を飲むよう言っているのか?
彼女は彼を見つめ、その視線には信じられないという思いがあったが、彼の深い瞳には当然のような色があるだけだった。
葵の心臓が強く締め付けられる感じがした。彼女は自分の声が「わかりました」と答えるのを聞いた。
その夜、葵は自分がどれだけ酒を飲んだのかわからなくなった。ただ、武洋は隣に座りながら、彼女には一言もかけてくれず、視線も言葉も、すべて隣の小さな女の子に注がれていた。まるで、その子にだけ特別の寵愛を与えているかのようだった。
……
深夜。
葵は武洋の下に横たわっていた。
「こんなに敏感なのか?」
男の低い声が葵の耳に落ちてきて、彼女の体はさらに何度か力が抜けた。
「くっ」
武洋は尾てい骨がびりびりとしびれ、危うく降参するところだった。
彼の大きな体はベッドの頭に寄りかかり、葵は彼の胸に跨って座っていた。
彼は片手にタバコを持ち、もう一方の手で彼女の引き締まった丸い尻を軽く叩いた。
「緩めろ」
「うぅ〜」
葵は男の首に手を回し、何度も武洋の胸元に顔をすり寄せた。
武洋は気づいていた。いつもは彼女が恥ずかしがり屋で、積極的になることさえ難しかったのに、今夜は性格が変わったようだった。
しかしこんな誘惑的な妖精を抱いていては、彼も冷静に考えることができなかった。
武洋はタバコを口にくわえ、葵の薄い背中を抑え、彼女を完全に自分の胸に寄り添わせ、もう一方の手で彼女の細い腰をつかみ、彼女が「波」に「流される」ままにした。
……
この情事は長く続き、終わると武洋はベッドから起き上がった。
葵は彼の背中を見つめながら「私に飽きたの?」と尋ねた。
武洋の大きな体が一瞬固まった。彼は黙っていた。
「どうして?」
しかし葵は頑固に答えを求めた。
彼女はベッドの頭に寄りかかり、全身がまだ整えられていなかった。長い髪は肩と背中に乱れて広がり、布団は胸の前までしか覆わず、雪のような白さと、その上にある男が情熱的だった時の痕跡を隠しきれていなかった。
「彼女はベッドの上で私よりあなたの気に入るの?」
認めざるを得ないが、情事の後の彼女は実際、より魅惑的だった。
武洋は見つめ、突き出た喉仏がわずかに動き、あの深い瞳に欲望があった、ただしそこには少しの優しさもなかった。
「お前と彼女を比べるな。彼女はお前ほど淫らじゃない」
は!
彼は彼女が淫らだと言っている。笑わせる。彼女が淫らなのが好きなのは彼で、彼女が淫らだと嫌うのも彼だった!
葵は笑いそうになった。
「わかったわ」
彼女は言った。
その瞬間、問いただしたり、機嫌を取ったり、哀願したりするような気持ちは全て消えていた。
彼女は口を開いた「行って」
武洋は振り返って葵を見た。
葵も彼を見つめ、「私たち……終わりなの?」
「うん、終わり。別れましょう、もう来ないで」
彼女は質問していたが、自分で答えてしまった。
言い終わって、また違うと思った。
「いいえ、終了と言うべきね、石川社長」
彼女は彼に付いていたが、恋人同士ではなかった。
葵は元々東京の渡辺家のお嬢様だったが、三年前、彼女が渡辺家の本当の娘でないことがわかり、本物の娘が戻ってきて、彼女は自然と家から追い出され、一人で生活するようになった。
その後、彼女の仕事にも問題が生じ、彼が助けてくれた。
それから彼女は石川会社に転職して、昼間は彼の筆頭秘書、夜はベッドパートナーとなった。
彼らの間では、仕事の話はできるし、ベッドの話もできるが、恋の話はできなかった。
だから……終わろう。
別の女性が彼の隣に現れたとき。
葵の表情は冷ややかだった。
一方、武洋は彼女のこの言葉が終わった時点で、すでに顔を曇らせていた。
彼に終わりを告げる勇気のある人はまだいなかった。
「葵……」
普段なら武洋はそのまま立ち去っていたはずだ。彼にはすでに新しい相手がいた。しかし、なぜか彼女を見て、武洋は話したくなった。彼女と新しい相手は共存できないわけではなかった。
「石川社長」
しかし葵は武洋が言葉を終える機会を与えなかった。
葵は武洋を見つめ、「私は一人の人に仕えるという習慣はありません。新しい愛人ができたなら、私たちは終わるべきです」
葵は一瞬止まり、「実は私はずっとあなたとの関係を終わらせたいと思っていました。石川社長はご存知ないでしょうが、男性は金さえあれば、年をとってもモテますが、女性は違います。女性は25歳を過ぎると、余った女になります。石川社長、私は今年27歳です。もしあなたに他の選択肢があるなら、私も自分の幸せを追求したいと思います」
「結婚したいんです」
「何だと?」
武洋は笑いながら葵を見ていたが、その瞳には嵐の前兆があった。
なぜか言葉を口にした後、葵はかえって安心した。彼女は少し落ち着き、顔にさえ笑みを浮かべた。「私が言ったのは、結婚したいということです」
実は葵がこれらの言葉を言ったのは、賭けの要素もあった。
彼が彼女と結婚すると言うことを期待するほど大胆ではなかったが、少なくとも武洋が他の女と彼女の間で選択をし、彼女と別れたくなくて、彼女の結婚を許さず、彼女を引き留めることを望んでいた。
もしそうなら……彼女は本当にすべてを顧みなくなるかもしれない。
しかし、男は誰か。東京の大富豪石川家の若坊様、うわさによれば、冷酷無情な権力者だった。
彼は無数の愛人を持つことができるが、愛人たちは彼を独占できない。
彼の心はどんな女性にも留まらない。
少なくとも彼女が彼を知ってからは。
「そう?では渡辺秘書の幸せを祈るよ。いいニュースがあったら、上司の私に招待状を送るのを忘れないように」
聞いてみろ、これが彼が彼女に向かって吐いた言葉なんだよ。
葵の心は締め付けられるような痛みを感じた。
「はい」
しかし表向きは、彼女はただ笑って返事をした。
武洋は遠くのベッドの上の女性の笑顔を見てから、心の中に不快な感情が湧き上がった。
彼女は彼の前で結婚したく、彼に招待状を送ると返事をする勇気があると言った。
何だって?石川武洋を死んだと思っているのか?
武洋の眼差しはさらに深くなった。
しかし考え直すと、ただのベッドパートナー、彼女がいなくなっても、何も問題はない。
武洋はいつもの冷たさを取り戻し、骨ばった指で服を整えると、身を翻して去った。
「バン」という音と共に、部屋のドアが閉まり、彼の姿は葵の前から消えてきた。
葵は閉められた扉を見つめ、苦笑を唇に浮かべた。
……