小林颯真は斎藤詩織が入浴中だとは思ってもいなかった。
目に飛び込んできた美しさに彼の頭は真っ白になり、言葉にできない光景が脳裏に浮かび、身体はすでに静かに反応していた。
突然現れた颯真に詩織は驚いた。
彼女が反応するまでに、すでに颯真に全てを見られてしまっていた。
彼女のスタイルは前田紫月ほど魅惑的ではないものの、ふくよかなところはふくよかで、細いところは細い。
小柄ながらも愛らしい美しさがあった。
「出て行って!」詩織は両手で身体を隠し、顔は真っ赤になっていた。
颯真は恥ずかしそうに顔をそらした。「なんでお風呂に入るのにドアを閉めないんだ?」
熱気が頭のてっぺんまで上がり、呼吸も乱れていた。
詩織は叫んだ。「普段は私一人だから閉める必要ないでしょ。挨拶もなしに急に帰ってくる方が悪いわよ。出て行って、早く出て行って!」
彼は浴室から出たが、体は熱く、頭は混乱し、戻ってきた目的をほとんど忘れそうになった。
詩織はバスローブを着て出てきて、皮肉を込めて言った。「よくもあなたの愛しい人を置いて帰ってこられたわね?」
普段は年に数回も会わない男が、たった一日で2回も顔を見せる。
毎回会うのは紫月のためで、あの女が彼の心の中でどれほど重要か分かる。
まさに幼なじみ。
まさに相思相愛。
颯真は心を落ち着かせ、冷静さを取り戻した。彼はカウチに座り、長い脚を組み、周囲に危険なオーラを放ち、部屋の温度が急に下がったように感じた。
彼は真剣な表情で詩織を見つめた。
「俺たちは初めから愛し合ってなかった。離婚は時間の問題だ。不満があるなら俺に向けろ。母さんを連れて紫月に迷惑をかけるやり方は吐き気がする。」
あんな高慢な男でさえ、愛に目が眩むのだ。
彼の氷のような瞳は、紫月を見るときだけ溶ける。
今この瞬間、その視線は氷の槍のように詩織の心臓に突き刺さっていた。
彼女は何を説明しても彼が聞く耳を持たないことを知っていた。
彼の心の中では、彼女は母親を連れて紫月に嫌がらせをする吐き気のする人間だった。
はっ、それなら彼をもっと不愉快にしてやろう。
彼女の心が晴れないなら、彼にも落ち着いてほしくなかった。
「あなたが以前彼女と命懸けで愛し合っていたかどうかは関係ない。今のあなたの妻は私よ。」
「当時、誰もナイフをつきつけてあなたを強制的に結婚させたわけじゃない。結婚した以上、あなたは結婚に忠実でなければならない。あなたがどれだけ彼女を愛しても、彼女は愛人でしかない。一生愛人で、人々に軽蔑されるだけ。彼女があなたの子供を産んでも、その子は私生児で、小林家に認められることはない。」
詩織は胸につかえていたモヤモヤをぶちまけた。
すっきりした気分になった。
彼女は顎を少し上げ、颯真と対等に視線を合わせた。その目には挑発的な意味が込められていた。
まるで「どうする気?私は離婚しないし、あなたが幸せになるのを見たくない。噛みついてみなさいよ!」と言っているようだった。
颯真は本当に彼女を噛みたくなった。
彼は歯ぎしりするほど憎らしく思った。
以前は颯真は詩織を見向きもしなかったが、今日よく見てみると、彼女がこんなに憎たらしいとわかった。これまで彼は彼女を甘く見ていたのだ。
あの従順さは、彼女の人を欺くための仮面だったのだ。