斎藤詩織はナマケモノのように、小林颯真という木の幹にしがみつていた。
もう離婚するのだから、今抱きついておかなければ、もう抱きつけなくなる。たくさん抱きついておいた方が損はない。
彼の抱擁がどれほど暖かく快適だったか覚えておくだろう。
名ばかりの妻として3年間過ごした甲斐があるというものだ。
そう考えると。
詩織はさらに大胆になった。
彼女は顔を横に向け、颯真の耳たぶに噛みついた。
颯真の体は思わず震えた。
その目は暗く、光が見えないほどだった。
そのとき、携帯の着信音が鳴り響いた。前田紫月からの電話だった。
紫月から電話がくると、颯真は詩織に対応する忍耐力を失った。
彼は勢いよく立ち上がり、詩織を振り払ってベランダで電話に出た。
詩織は痛む尻をさすりながら床から這い上がり、ベランダの外まで行って大声で叫んだ。「ダーリン、お風呂準備できたよ。早く一緒に入ろうよ。あなた、すごいんだから。私を疲れさせるつもり?責任取って、マッサージしてよね!」
彼女の言葉が終わらないうちに、颯真は振り返って彼女を鋭く睨みつけた。
その眼差しは殺傷力満点だった。
詩織は得意げに鼻歌を歌いながら、ドレッサーの前に座って長い髪を乾かし始めた。
電話の向こうの紫月は瞬時に涙を流し、颯真は静かに説明した。「彼女とは何もないよ。彼女の戯言を聞くな。彼女は頭がおかしいんだ。」
紫月は泣きながら言った。「颯真、もし私を愛さなくなったら、必ず教えてね。私は静かに去るから、あなたを困らせたりしない。」
颯真が紫月を慰めている最中、詩織はさらに騒ぎを大きくしようと、また大声で叫んだ。「ダーリン、早く来てよ。待ちくたびれちゃう...」
「バン!」
引き戸が颯真によって激しく閉められた。
彼の険しい目がガラス越しに詩織の顔を睨みつけた。
詩織は心の奥で寒気を覚え、唇を噛み締めて黙り込んだ。
まるで一世紀も待ったかのようだったが、ようやく颯真が電話を切って部屋に戻ってきた。
「ダーリン、こっちに来て。長い夜を眠れずに過ごすなんて、人生について語り合おうよ。」
詩織はベッドに横になり、片手で頭を支え、もう片手で薬指を立てて颯真を誘った。
彼女は左脚をまっすぐに伸ばし、右脚を曲げてネグリジェの外に出していた。その肌はレンコンよりも白く、桜色だった。
颯真は無表情で、彼女のこの妖艶な姿にとても不満そうだった。
「ちゃんと座って、まともに話せ!」
「はーい...」
詩織は本当に起き上がり、足を組んで、きちんと座った。まるで悪いことをした小学生のように、大人しく先生の叱責を待っているようだった。
彼女が足を組まなければまだよかったが、足を組むと……ネグリジェでは隠しきれず、下着が見えた。
颯真の立っている位置からはそれがはっきり見えた。
厳しい表情の顔が一瞬で真っ赤になった。
「えっ、隠せ。」
彼は毛布を引っ張り、詩織を包み込んだ。これでここが見えたり、あそこが見えたりして、わざと彼の忍耐力を試すようなことはなくなった。
「ダーリン、なんてかわいいの?」
颯真の赤くなった顔を見て、詩織は目を細めて笑った。
普段は冷たくてクールな彼だが、赤面するととてもかわいらしかった。
「真面目にしろ。」
彼は今、彼女と真剣な話をしようとしているのに、どうして冗談を言ったりふざけたりできるのか。
「はい。」
詩織はすぐに笑顔を消し、唇を閉じ、目を大きく見開いて、必死に真面目な様子を装った。
彼女のその姿はミッキーマウスのようにおかしく、颯真は笑うべきか泣くべきか分からなかった。
「ダーリン、立ってないで、早く座って。座って話しましょう。あなたがどう話したいか、私は時間はたっぷりあるから。」
颯真は背が高いので、上から見下ろされると圧迫感があった。
詩織は彼の腕をつかみ、全力で引っ張った。
「座って、座って。」
颯真は油断していて、彼女に引っ張られたバランスを崩し、そのまま倒れこんで、彼女をしっかりと押しつぶした。
「あぁん、ダーリン、重い……耐えられない……もうダメ……」