「そうか。それでは不本意ながらここを拠点に活動するしかないか……お前たち俺を売り飛ばそうとしたんだ。その報いは受けてもらうぞ!」
「は、はい! それはもう。四人で話し合って崇徳童子さんが満足するまで手となり足となると決めましたので何なりとお申し付けください」
「そうか」
古びた大きめの椅子に腰を掛けるとその前に四人が片膝を付けて座る。フードを被っていた者達もいまは一人を除きフードをはずし顔を出している。
その中でも特に目を引くのが崇徳童子に暴言を吐いた者の頭頂部である。他の者の頭の上にあるものが存在しないのだ。太陽の元に出ればキラリと光を反射させ、見る者に手で庇《ひさし》を作らせる。そう、髪がないのだ。
「おい、丈二」
「は、はい」
背中をビクリとさせて片膝を立てているものの一人が声を上げる。崇徳童子と遭遇した際に薬が切れ暴言を吐いた者だ。
「鬼次郎さんを馬鹿にしていなかったのは認めるが、俺に汚い言葉を吐くのは許さない。俺が鬼次郎さんを慕ってなければ今頃消し炭になっているのを忘れるなよ」
「はい!」
崇徳童子は頭髪の光具合に満足したのか今度は四人を見降ろす。
「一平、丈二、三太、コランダ、俺の仲間でいるうちは無闇に人殺しをするんじゃないぞ。鬼次郎さんは慈悲深い方だった。無闇に人を殺すような御方ではなかったぞ。その意志を継ぎ俺もここにいる。俺がいいって言うまで人は殺すんじゃねぇ」
「「「はい!」」」
「よし、いい返事だ。それでは話した通りコランダと共に街に情報収集に向かえ。丈二! お前はここで見張りだ」
「「「「はい!」」」」
※※※
街に向かう影を背負った三人の背中がある。気のせいか三人とも背筋を丸め、疲れきっているように見える。
「コランダさん、ジョージヨには悪いとは思いますがこのまま逃げませんか?」
フードを外した赤髪の男が情けない声を上げる、鋭い目付きをしているが下を向き自信なさげな様子から怯え切った野良犬のように見える。
「ジョージヨじゃない。崇徳童子さんは丈二って名前を付けたんだ。ジョージヨはもう丈二なんだ。言い間違えるなよ。それに話し合って崇徳童子さんの仲間になるって決めたんだろ? ペイタ――じゃなかった、一平も見ただろあの兵士達の末路を……」
「……確かにあれはもう見たくありませんね。まさか、兵士の身体からへ、へ――」
「それ以上言うな! もう思い出したくない。俺たちは崇徳童子さんの下でやり直すんだ。それにな崇徳童子さんは神出鬼没だ。ひょっとしたらこの会話も聞いているかもしれないぞ」
「ヒィッ!」
唯一、フードを被った者が悲鳴を上げてその場にうずくまる。そのまま頭を抱え、神に助けを求めている。
「三太、落ち着け。俺たちは屑だが殺しだけはしていない。殺しさえしてなければ崇徳童子さんも俺達を殺さない。それにな、もしかすれば丈二の薬中は治せるかもしれない……中毒を超える恐怖でな」
三人が一斉に唾を飲み込むと無言で足を止める。やがて、コランダが街に向かい歩みを進めると一平と三太も無言でその背中の後に続いた。
※※※
夜になりすっかり冷え込んだ屋外でしきりに頭を撫でる丈二。頭髪がなくなったのを受け入れられず先ほどから何度も何度も頭を撫でている。
それにしても今日はよく冷える。丈二は身体の震えが止まらないようだ。
(この震えは寒さからくるものではないのではないか? 薬の中毒か? はたまた黄泉の世界にまよいこんでしまったのか……)
震える身体を右手で掴み、左手の松明で外を照らす。
「なんだ、何も――」
前方を照らした松明を自分のすぐ近くに持ってくると、その視線の先には崇徳童子が佇んでいた。
「ヒッ! す、崇徳童子さん。どうしたんですか?」
顔を青くした丈二が尋ねると眉間に皺を寄せた崇徳童子が訝し気に森の中を覗き込んでいる。
「コランダの気配が消えた」
「け、気配ですか?」
「そうだ。街に着くまでは何事もなかったのに急に気配が消えた」
「旦那は数キロ先の街に行ったコランダさん達の気配が分かるんですか?」
「くどい。おい、丈二。見張りは終わりだ。俺と一緒に街へ行くぞ!」
「へっ? 街に?」
「そうだ、早く出かける用意をして来い。今すぐに行くぞ」