秘書さんが謝ろうとした瞬間、正臣が眉をピクッとひそめつつ、牛乳をゴクッと一口飲むのを見てビックリした。
秘書さんがショックで固まった。
大塚さんは牛乳の生臭い匂いが大嫌いなのに、普段は生活習慣を乱されるのをとても嫌うのに、今日はいったいどうしたの?
牛乳を一口飲むと、温かい感じが胃から体中にジワジワ広がった。気のせいかな、それとも本当? 正臣は胃痛が少し楽になった気がした。
正臣はカップの中の牛乳をじっと見下ろし、目に複雑な感情がサッと浮かんだ。
時間がチクタク過ぎて、会議は全然終わる気配なし。奈々は外で待ってて退屈になって、隣の休憩室に入ってしまった。
そこに座ったら、頭がコクコクして、まぶたが重くなって きた。
会議の休憩時間に、正臣が出てきて、休憩室で女の子がドアに背を向けてテーブルに突っ伏して寝てるのを見つけた。少し口を開けてぐっすり寝てて、のん気な顔してる。
正臣はチラチラ見て、立ち去ろうとした。
その瞬間、女の子がモゾモゾ動いて、小さくコホンコホンと咳をし、肩をキュッと縮めて、手を伸ばして肩を抱きしめた。
でも彼女はとても眠そうで、頭の向きを変えてテーブルに突っ伏したまま、寝続けてしまった。
正臣の足がピタッと止まり、突然そばの特別秘書に冷たい声で言った。「会社はお金が余っているのか?」
特別秘書は訳が分からず叱られて、彼の視線を追ったらやっと理解したけど、自分は冤罪だって思った。
でも特別秘書は一言も言い返せず、ピシッと姿勢を正して「先生、私のミスです」って答えた。
そう言ったら急いで休憩室に駆け込み、エアコンをオフにした。振り返ったら正臣がまだ眉をひそめてるのを見て、引き出しから毛布を取り出して、奈々の背中にサッとかけた。
振り返ったら、ドア口にはもう誰もいなかった。
特別秘書は額の幻の冷や汗を拭きながら、心の中でつぶやいた。自分は史上最強の気遣いと心読み秘書だよ!こんなツンデレボスに仕えるなんて、ほんと大変だわ!
……
うとうとしてる間に、奈々は外の会話声で目を覚ましちゃった。
「佐伯さん、彼女は中にいるよ。私が自分の目で大塚さんを追いかけるのを見たけど、大塚さんは全く無視。一介の成金女が大塚さんと結婚なんて、妄想もいいとこだわ。」
「ふん、鳳凰ですって?所詮は雀よ!佐々木グループだって?成金の上がりで頂点ってとこでしょう!」澄んだ冷たい女性の声が、傲慢な口調で言った。「あんな女が、正臣さんにふさわしいわけ?よくもまあ今日なんか会社まで押しかけてくるんだよ!ほんと、厚かましいにも程がある!」
「おっしゃる通りです、佐伯様。大塚様のようなお方には、佐伯様のような方がお似合いです 。他の女なんて、足元にも及びません わ。あの佐々木詩織さえいなければ、お二人はとっくにゴールインできてたはずなのに、ほんと残念です!」
「ちょっと見てみたいわ、あの佐々木詩織って子がいったいどんな顔してるのか」
二人は声を大きくして、明らかに彼女に聞かせて、諦めさせようとしてた。
ただ……あの傲慢な声、どっかで聞いたことある気がする。
そう思ってるうちに、足音とともに、美しいシルエットがドア口に現れた。彼女は冷たい顔で、あごを少し上げ、大波ウェーブの髪を背中に流し、腕を組んで、シャネルの最新限定ドレスを着て、甘やかされたお嬢様みたいな姿だった。