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15.78% 五度裏切った夫に、絶望を贈る / Chapter 3: 第03話:五回目の裏切り

Bölüm 3: 第03話:五回目の裏切り

第03話:五回目の裏切り

「赤ちゃんのお父さんは?」

医師の問いかけに、雫は力なく首を振った。

「いません」

嘘ではなかった。彰は父親としてそこにいなかった。妊娠を知った日から今日まで、一度も。

医師は雫のカルテをめくりながら、困ったような表情を浮かべた。

「そういえば、妊婦健診にもいつも一人でいらしてましたね。ご主人は忙しい方なんですか?」

雫の胸に鈍い痛みが走る。

妊娠発覚の日。つわりで苦しんだ日々。お腹が少しずつ膨らんでいく喜び。全て、一人で抱えてきた。

「ええ……とても」

医師は入院票を差し出した。

「今日は一泊していただきます。体調に異変があればすぐにナースコールを」

雫は震える手で入院票を受け取った。紙の重さが、失ったものの重さのように感じられる。

――そうだ。

心の奥で、何かが静かに決まった。

離婚しよう。

七年。追いかけ続けた七年間。

もう、十分だ。

雫はベッドを降り、廊下へ足を向けた。体はまだ痛んだが、心の痛みの方がはるかに深い。

その時だった。

「お前、ここまで追ってきたのか?」

聞き慣れた声に振り返ると、彰が美夜を支えながら歩いてくるのが見えた。

「美夜は手を怪我してるんだぞ。これ以上、何をするつもりだ!」

彰の声は怒りに満ちていた。まるで雫が加害者であるかのように。

美夜は彰の腕にもたれかかりながら、か細い声で言った。

「彰さん、私は大丈夫です。雫さんも心配してくださってるんですよね?」

美夜の手を見ると、確かに少し赤くなっている。しかしそれだけだった。

雫は自分のお腹に手を当てた。そこにはもう何もない。命を失った自分と、手が少し赤いだけで大騒ぎされる美夜。

声にならない絶望が胸を締め付ける。

「家に帰って待ってろ」

彰の冷たい命令が、雫の記憶の扉を開いた。

――もう二度と、美夜のために君を置き去りにしない。

彰がそう約束したのは、いつだったか。

美夜の帰国を空港まで迎えに行った日。雫が高熱で寝込んでいるのに、美夜のドラマ撮影に付き添った日。結婚記念日を忘れて美夜の誕生日パーティーに行った日。雫の両親との食事をすっぽかして美夜の相談に乗った日。

そして今日。

「チャンスは五回まで」

雫が彰に告げた言葉が蘇る。

五回目。

今回で、全て終わりだ。

「美夜の食事、買ってきてくれ。何か温かいものを」

彰が再び雫に命令する。

雫は静かに答えた。

「わかった」

もう何も感じなかった。怒りも、悲しみも、愛情も。全てが凍りついている。

雫が歩き去ろうとした時、彰の声が背中に響いた。

「君、その手に持ってるのは……何だ?」


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