Uygulamayı İndir

Bölüm 4: はじめての勝ち星

——吠え声が近い。

湿った風が一度だけ向きを変え、茂みの奥で黄色い目がずらりと灯った。

狼型の魔物が群れになって地面を削る。

上空では黒い影が輪を描き、羽音が重なっていく。

「来るぞ」

折れた木剣を持ち直す。柄のささくれが掌に刺さる。肩は治ったが、体力は底。血の匂いもまだ薄く残っている。

足元で

「ぷるん」

「スミオ、下がってろ!」

スミオは言うことを聞かず、前に出た。丸い体を広げるみたいにぷるぷる震わせ、俺の足首にしがみつく。

裾をぐいぐい引っ張って、前へ出すまいと必死だ。

「……やる気は買う。けど俺が——」

「下がって」

すっと、横を銀の影が通った。エリカだ。白いドレスの裾が泥に触れそうで触れない。俺とスミオの前に、一歩だけ出る。

「ちょ、危ない——」

「大丈夫」

短く、それだけ。次の瞬間、彼女の前に光の紋章がひらく。

空に書いた線が、そのまま図形になって止まったような整った円と直線。

音はないが、空気の張りが変わった。

——パッ。

小さく指を鳴らしたみたいな音。紋章から光の粒が飛び出す。

ひとつ、ふたつ、いや数え切れない。

光弾は真っ直ぐ走り、狼の目と喉と心臓に吸い込まれた。

命中のたびに明滅が起き、土がわずかに跳ねる。音は小さいのに、迫力だけが大きい。

「な……」

上空で黒い影が弧を描き、急降下。嘴を開き、爪が光る。

エリカの足元から透明な壁が立ち上がる。

薄い膜のような結界が、突っ込んできた魔獣を受け止めた。

キィン、と澄んだ音。影は砂のように崩れて消える。

「ひとまず、ここは私が」

エリカが手を広げる。紋章が二つ、三つと重なった。

足元に薄い光の線が走り、幾何学模様が森の床に描かれていく。

狼たちが駆けるたび、その線を踏む。

——爆ぜる。

足元から軽い破裂音と細い光柱。土が跳ね、草が焦げる。敵だけが正確にはじき飛ばされ、こちらには熱も灰も来ない。

「すげ……」

最後の飛行魔獣の群れが一斉に降下する。エリカは視線だけで追い、右手を斜めに払った。

空に小さな点が打たれ、照準になって光の矢へ変わる。

一矢ごとに翼の骨だけを奪うみたいに、影が落ちていく。

落下の衝撃は結界が吸収し、地面は凹まない。

派手なのに、静かだ。

狼が一匹、死角から跳ぶ。スミオが短い助走でポンと跳ね、鼻先を「つん」と突いた。

ほんの一拍のズレ。エリカの左手が短く動き、光弾が一点。狼は草むらに沈む。

「スミオ、ナイス」

「ぷるん!」

調子に乗ったのか、スミオはエリカの足元をぐるぐる回り、今度は彼女のドレスの裾をちょいちょい引っ張る。

危ない、絡むな——と思った時には、もう戦いは終わっていた。

森が静かだ。羽音も唸り声も消えた。

倒れた魔物は光の粒になって空気へ溶ける。

血の跡は葉にも土にも残らない。

ここだけ、空気が澄んでいる。

「……強すぎるだろ」

素直に口から出た。エリカはきょとんと指先を見る。

「体が勝手に動いたの。気づいたら、みんな……消えてた」

彼女の声は落ち着いているのに、指先が少し震えていた。

「怖かったか?」

「少し。私、どこまで出来るのか……自分でもよくわからないから」

「それでも助かった。ありがとな」

言いながら、折れた柄を持ち上げて見せる。

「見ろよ。情けねぇ木剣だけど……初めて勝てたんだ。捨てられるかよ」

エリカはほんの少し眉を下げる。

「痛いのは、もう?」

「平気。さっきの治癒、効いてる。息しても刺さらない」

「よかった」

その一言で、胸の重さがふっと抜けた。俺は折れた柄を背に回し、結び紐で腰に固定する。

スミオが俺の指を鼻先で「つん」。

もっと言え、と言わんばかりにぷるぷる震える。

「はいはい。スミオもナイスだ。さっきの突きらは効いた」

「ぷるるっ」

得意げに膨らんでから、今度はエリカの髪へ向かって弾み——慌てて戻ってきた。

さすがにそこはやめとけ。

エリカがしゃがみ、掌で受け止める。

「ふふ、かわいい」

「こいつすぐ調子に乗るぞ。今の一撃で完全に舞い上がってる」

「舞い上がるくらい、いいことしたもの」

エリカが頬をゆるませる。スミオは俺の方を半分だけ振り返り、ドヤ顔をする。

「なあ、エリカ」

「なに?」

「俺じゃ、守れないかもな」

本音がするりと出た。彼女の方が何倍も強い。俺は、俺なんて——

「でも、私を呼んだのはあなた」

遮るみたいに、真っ直ぐ。ノイズのない瞳。

「……まあ、たしかに。悪くないな、こういうのも」

「こういうの?」

「俺が前に出て殴るんじゃなくて、横で支えるとか——」

「横で応援?」

「いや、それも違う」

「じゃあ後ろで見守る?」

「見守るだけは嫌だな」

「わがままね」

「ぷるん!」(スミオが勝手に挙手)

「お前もか」

「ぷる」

三人で、少し笑えた。

森の光が変わってきた。頭上の木々の間から昼の陽が差す。

さっきまでの痕跡はどこにも残らない。風が通ると、草がさわさわと素直に答える。

「——街に、戻る?」

エリカが何気なく聞く。俺は少し考えて、首を横に振る。

「戻る気は、ないな……今は」

「じゃあ、どこへ」

「どうするか——」

言いかけたところで、彼女が先に答えを置いた。

「それなら、いろんな街を見てまわろうよ!」

歩きながら空を見上げる。日差しが髪に当たり、プラチナがふわっと光る。

「あなたと私の居場所、きっとどこかに見つかるよ」

「ぷるん!」

スミオが跳ぶ。エリカは笑って頷く。

「あ、スミオもね!」

「お前、今ちょっと忘れてたろ」

「忘れてない。ちゃんと三人分、考えてる」

「ぷる、ぷる」

ドヤぷる二連。俺は肩の力を抜き、ほんの少し笑った。

「……ああ、そうだな。行こう」

剣の柄を軽く叩き、歩幅を合わせる。

エリカが一歩前に出る。スミオはその間を行ったり来たり、時々木の根につまずいては、ぷにっと弾んで立て直す。

「おい、気をつけろよ」

「ぷる」

「それ、返事か?」

「たぶんね。ふふ、かわいい」

エリカがくすくす笑う。陽の筋が道の先まで続いている。森の出口は、思ったより近いのかもしれない。

「ねえ、ユウキ」

「ん?」

「さっき怖かったかって聞いたでしょう。

——私、自分のこと、やっぱり怖いの」

「……そうか」

「でも、あなたが『大丈夫だ』って顔をしたから。だから、私も大丈夫だって思えた」

歩きながら、とても小さな声で。俺は答えを探して、見つからなくて、代わりに前を指さす。

「じゃあ、次は俺が怖い顔したら。お前が『大丈夫』って言ってくれ」

「いいわ。約束」

「ぷるん!」

スミオが間に割り込み、二人の指先に触れる。ぷにっと柔らかい感触。三人で笑って、足を進めた。

森を抜ける。音が、いつもの自然の音に戻る。魔物の残骸は光に溶け、木漏れ日が降りる。昼の色だ。

「さて」

「さて?」

「飯。まずは飯」

「ぷるっ!」

「なによそれ」

くだらない会話が、妙に楽しい。夜会のきらめきも、ギルドの笑いも、父の“無”も、全部、距離の向こうにぼやけていく。

三人の足音が、陽の射す森を抜けて遠ざかっていく。

——俺たちの居場所は、まだ無い。だから探しに行く。必要とされるのを待つんじゃなく、自分たちで繋ぎ直す。その最初の一歩を、もう踏み出した。

「行くか」

「うん」

「ぷるん!


next chapter
Load failed, please RETRY

Haftalık Güç Durumu

Rank -- Güç Sıralaması
Stone -- Güç Taşı
Oy

Toplu bölüm kilidi açma

İçindekiler

Görüntüleme Seçenekleri

Arkaplan

Yazı Tipi

Boyut

Bölüm yorumları

Bir değerlendirme yaz Okuma Durumu: C4
Gönderme başarısız. Lütfen tekrar deneyin
  • Yazı Kalitesi
  • Güncellemelerin Kararlılığı
  • Hikaye Gelişimi
  • Karakter Tasarımı
  • Dünya Arka Planı

Toplam puan 0.0

Değerlendirme başarıyla paylaşıldı! Daha fazla değerlendirme oku
Güç Taşı ile Oyla
Rank NO.-- Güç Sıralaması
Stone -- Güç Taşı
Uygunsuz içeriği bildir
Hata İpucu

Kötüye kullanımı bildir

Paragraf yorumları

Giriş