あの冷たく禁欲的な美しい顔を見て、言野梓は目を見開き、信じられないという様子でその場に立ち尽くした!
昨夜のあの男性が、今日息子を病院に連れて行った男性だったなんて?
こんな偶然もあるのだろうか!
墨田修は瞳を上げ、意味深な視線が梓の体をさりげなく一度なぞった。
成人したばかりに見えるこの女性が、すでに息子がいるとは。
しかし昨夜彼女から受けた印象は、全く子供を産んだようには見えなかった。
だが事実と資料が証明しているように、言野晃という少年は確かに彼女の息子だ。
修は不思議と胸が詰まる思いがした。
昨夜は誰かに仕組まれた罠だったが、まさかこの女性がシングルマザーだったとは。
「座ってくれ」
修は梓を一瞥し、淡々と口を開いた。
梓にはここに長居する気など毛頭なく、早く逃げ出したいだけだ。
彼女は急いでデスクに近づき、冷たい表情の男性を見つめながら、すでに用意していたお金を置いた。
「息子を病院に連れて行ってくれてありがとう、さようなら!」
修は眉間にしわを寄せた。また彼にお金を渡してから、さっと立ち去るつもりか?
急いでオフィスを出ようとする梓の背中を見て、彼の端正な顔は一瞬にして暗雲に覆われた。
梓がオフィスのドアを出ようとしたまさにその時、あの見覚えのある力が再び彼女の足を止めた。
梓は微かな香りが近づいてくるのを嗅ぎ、混乱した瞳を上げると、目の前には修の冷たく引き締まった顔があった。
なんて!
なんてかっこいい人なの!
距離が近すぎたが、梓の最初の反応は、この顔があまりにもイケてると思うことだった。
彼女は澄んだ猫のような目で修を見つめ、しばらく我を忘れてから抵抗することを思い出した。
「早く離して!」
梓は手を上げて修の手を払おうとしたが、残念ながら彼の力には敵わなかった。
「早く離してよ!」
「今になって離せと言えたのか?」
「……」
梓は修の言っていることが理解できず、ただ目の前の男を見ているだけ。そして彼が冷たい唇の端をわずかに引き上げ、笑っているような笑っていないような表情を浮かべ、突然また一歩近づいてきた。間もなくして、彼女はその男の特別な香りに包まれた。
「墨田修、これ以上近づかないで!」
「……」