地下室に閉じ込められてから随分経った。
地下室は真っ暗で、何も見えない。
私は虚ろな目をして横たわり、腰の傷跡を撫でていた。
今日、病院で渡辺時也が大激怒して、勢いよく引きずり出したときについた傷だ。
彼は私が高橋綾乃を苦しめたと責めた。
私の毒蛇のような心を責めた。
でも彼は忘れていた。かつて私の指が切れて傷ができたとき、彼は目を赤くして私を抱きしめ、丸一年も台所に立たせなかったことを。
「お前を傷つけるなんて、俺には耐えられない」
時也はかすれた声で私の耳にキスをした。
そして頭を下げて傷口にもキスをした。
全ての血の跡が消えるまで。
でも今の傷は、全て彼自身が私につけたものだ。
どれくらい時間が経ったのだろう。
時也が戻ってきた。地下室から出ることもなく、壁際に私を押し付けて覆いかぶさってきた。
「桃花、しっかり抱きついて」
昔は彼の嵐のようなキスが大好きだった。
まるで私を飲み込んでしまいたいかのような。
でも今はなぜか涙がとめどなく溢れ、この瞬間が屈辱的でしかなかった。
「私に触れるのは嫌だって言ったじゃない?」
「私は下手な真似事で、高橋綾乃の指一本にも及ばないって」
前回、書斎にいたとき、綾乃が駄々をこねているのを聞いた。
時也はそうやって彼女をなだめていたんだ。
好きな人はずっと綾乃だと。
でも二人は一緒になれない。
私はただの代替品だと。
時也はその言葉を聞いて動きを止め、少し顔を下げて私を見た。
「怒ってるの?」
「今日病院で叩いたから?」
私は目を真っ赤にしながらも、黙り込んでいた。
しばらくして、時也はため息をついた。
「あのときは感情的になってしまった」
「わかるだろう、綾乃は養女とはいえ、俺にとっては実の妹同然だ。彼女があんなに苦しむのを見るのは耐えられない」
「幸い綾乃は大丈夫だった、医者が一命を取り留めた」
「彼女が眠ってるのを見て、すぐにお前のところに戻ってきた。これでもお前を愛してないと言うのか?」
以前のように甘い言葉を囁く彼の声は、相変わらず柔らかく磁性を帯びていた。
私は笑みを浮かべ、涙が頬を伝い、鎖骨に滴り落ち、熱く感じた。
彼は知らないのだ。
私はとっくに透視術で彼を見ていたことを。
病室で、彼は愛に満ちた眼差しで綾乃にキスをした。
綾乃は意識不明のまま、静かな眠り姫のようだった。
でも時也は彼女に夢中だった。
彼女の額に落とされたキス。
それは火花のようだった。
私は彼の目に欲情が燃え上がり、やがて抑えきれなくなるのを目の当たりにした。
彼は身体の異変を我慢し、足早に車に乗り込んで帰ってきた。
潔癖症な彼なのに、家に入るなり服も着替えず、私を壁に押し付けてキスを求めた。
私は以前こっそり見たことがある。彼が部屋で綾乃に欲望を抱いていたのを。
私たちが同じベッドにいる時でさえ。
彼は情熱の絶頂で、私を綾乃と間違えた。
今、暗闇の中で懐中電灯の光が瞬き、時也の目が揺らめくのが見えた。
「桃花、子供を作ろう」
「綾乃は特殊体質で、子供の血が必要なんだ。今、血液が危機的に足りない」
「お前は体が丈夫だし、俺の子供を産みたがっていたよな」
私が黙っているのを見て。
時也は骨ばった指で私の唇を撫でた。
彼は眉をしかめた。
「お前が言ったじゃないか?子供を産みたいって。一人じゃなくて大勢、賑やかな方がいいって」
私は涙ながらに笑ってしまった。
「時也、私の娘は死んだわ」
彼女はもう一歳半になって、歩き始めたばかりで、もうすぐ言葉を話し始めるところだった。
でも私は彼女の血が一滴一滴抜き取られるのを見ていた。
そして永遠に美しい目を閉じたのを。
「あなたは私の娘が高橋綾乃のせいで死んだと思っているのに、なぜまたあなたの子を産むと思うの?」
「時也、私がそんなに簡単に利用できると思ってるの?」
男は突然手を伸ばして私の腰を掴み、彼の太ももに座らせようとした。
でも私の身体は硬直し、全く従おうとしなかった。
時也はすぐに諦め、ため息をついた。
「桃花、俺を困らせないでくれ」
「言っただろう、娘の死はただの事故だ。綾乃のせいじゃない、彼女を責めるな」
「人間の血は無尽蔵だ。ただ娘に福がなかった、運命が短かっただけだ」
運命が短い、か。
私は一歩後ろに下がり、彼の手から逃れて冷たく言った。
「もう二度とあなたの子は産まない」
「もし私の子供から高橋綾乃のために血を抜こうとするなら、一度やるたびに毒を盛る」
「そして私たちは、ここで終わりにしましょう」
絶望的な気持ちでそう言ったが、時也は何の反応も示さず、むしろ嘲笑を浮かべた。
「桃花、夢見るのはやめろ」
「お前は孤児だ、実家もない。拾った時にはお前は自分の名前すら忘れていた。俺と離婚してどこに行くつもりだ?」
「無駄な抵抗はやめろ、ここがお前の家なんだ」
彼は手を伸ばして私を掴もうとした。
私は再び避けた。
彼はいつも私が昔のように、少し甘い言葉をかければすぐ機嫌が良くなると思っている。
でも今回は違う、私は断固としていた。「時也、あなたを愛していたことは後悔していない」
「でもこれ以上愛し続けるのは苦しいだけ」
「ガラスの破片の上を歩くようなものよ。もう耐えられない」