03
翌日の午前中、目が覚めるとすぐに荷物の整理を始めた。
ちょうど半分ほど片付けたところで、林川美流が疲れた顔で家に戻ってきた。
彼女と一緒に部屋に入ってきたのは、濃厚なコロンの香りだった。
その香りに少し驚いた。
美流は肌が繊細で敏感で、多くの化粧品にアレルギー反応を示す。彼女が最も嫌うのは香水の匂いだった。
そのため、彼女と一緒にいるこの数年間、私はシャンプーを使うことさえ彼女に叱られていたので、一切のスキンケア製品を使わないようにしていた。
今となっては、彼女は化粧品が嫌いなのではなく、単に私が使うのが嫌だっただけのようだ。
部屋に入ってきた彼女は荷物を片付けている私を見て、少し驚いた様子で言った。「昨夜は渡辺晴彦が酔いすぎて遅くなったから、私一人でホテルの部屋を取って、帰ってこなかったの。」
私は顔を上げて彼女を一瞥した。少し意外だった。
結婚して三年経つが、彼女が自分から説明するのは初めてだった。
私はうなずいたが、何も言わなかった。
彼女はゆっくりと私の前に歩み寄り、目を伏せて尋ねた。「荷物を片付けているけど、仕事で飛行機に乗るの?」
私はうなずいた。「まあ、そんなところだ。」
私の言葉を聞いて、彼女はなぜか安堵したように息を吐き、続けて言った。「今日はちょっと用事があるの。物を取りに帰ってきただけだから、すぐに出かけるわ。お昼ごはんは食べないわ。」
「わかった。」
私は顔を上げず、黙々と荷物を片付け続けた。
本来なら昼食時に彼女に退職したことを伝え、八年間の関係に正式に終止符を打つつもりだったが、今となってはその機会もなさそうだった。
言い終わると、美流は赤い袋を取り、ドアの横に掛けてあった服を手に取ると、急いで出て行った。
「パン!」
ドア枠に八年間掛けられていた写真立てが、彼女が出て行った後、突然床に落ちた。
ガラスの破片が床一面に散らばった。
私がそちらを見ると、それは私と美流が初めてコンサートに行った時の写真だった。写真の中の私たちは両手を合わせ、満面の笑みを浮かべていた。
あの日、彼女は私に約束した。どんなに忙しくても、これからは毎年一緒にコンサートに行くと。しかし晴彦が彼女の弟子になってからは、彼女はそれらすべてを忘れてしまった。
空っぽの部屋の中で、時計がチクタクと鳴り続けていた。
私は長い間黙ったまま、ようやく床のガラスの破片を片付け、幸せに満ちたあの写真と、私の残っていた未練を一緒にゴミ箱に捨てた。