ナラカが部屋に入ったとき、蛇の姿はどこにもなかった。彼女は目を閉じ、一瞬だけ室内の時間の流れを逆にした。蛇が再び現れ、動きを止められたまま宙に浮かんでいる。ナラカは手を差し伸べ、時間そのものを組み替え、その存在を現実へと引き寄せ、掌に掴み取った。
それは〈暗黒界〉の奥深くで生まれた稀少な種だった。触れた瞬間、ナラカはその全記憶を読み取った──影の深淵から這い出し、王族の間へと忍び込んできた経緯。最も気にかかったのは「空白」だった。自らの子らが同じ場所を通過しているにもかかわらず、その記憶には一切この蛇の存在が映っていない。
「衛兵!」呼ぶとすぐに二人の甲冑兵が駆け込んできた。「御命令を、女王陛下。」
ナラカは掌に光の器を生み出し、蛇を押し込めて封じた。「これをヴェヒル・トーレンに届けよ。こうした危険な“招かれざる客”があまりに多くうろついている、と伝えなさい。彼ならどうすべきか分かる。」
「御意に。」兵士たちは深く一礼し、光に封じられた器を持って退室した。
数瞬後、ナラカはヌジャが眠る部屋に入った。「留守の間、問題はなかったか?」
「いいえ。」エリマスとマリアは同時に答えた。エリマスが慎重に付け加えた。「毒を取り除かれてから、装置は安定しました。彼も落ち着いているようです。」
「良い。」ナラカは柔らかく言った。「では、“眠れる森の美女”を目覚めさせる時だ。」
彼女は手を掲げ、揺りかごに満ちる血と光をすべて掌へと吸い上げ、小さな石の球体に圧縮した。見守る二人の前で、ヌジャの瞳がかすかに開いた。
「女王様……?」彼が囁いた。だがその直後に漏れたのは声ではなく、新生の小鳥のように鋭く細い鳴き声だった。自らの身体に視線を落とした瞬間、恐怖が彼を覆った。
ナラカは指を鳴らし、他の者たちを退室させ、自分とヌジャだけを残した。彼女は膝をつき、彼の傍らに寄り添った。「処置は失敗した。計画通りにはいかなかった。そのため、お前は子供の身体にいる。本来なら乳児として生まれ直し、記憶も消えていたはず。だが、お前の意識は……残ってしまった。」
彼女はそっと彼の頭に触れた。「人としての部分はほとんど失われた。心臓と脳の断片──せいぜい一割ほどしか残っていない。家族のことを覚えているか?」
「……家族? 僕に……家族が?」ヌジャは混乱したまま瞬きを繰り返した。
ナラカの表情は柔らいだが、声は揺るがなかった。彼女は光の液体が入った小瓶を呼び出した。「これを飲み、休みなさい。私が許すまで目を開けてはならない。」
彼が従うと、ナラカは光る指を額に当てた。パチンと響く音と共に彼の身体は痙攣し、一分の間に二十四時間分の苦痛を圧縮して味わい、姿は縮んで新生児のようになった。
「ヌジャ。」ナラカは囁いた。「まだ私の声が聞こえるなら、手を上げなさい。」
小さな手が震えながらも持ち上がった。「……聞こえます、女王様。」
ナラカは彼を注視した。その身体はようやくあるべき姿となっていた。人間の残滓は消え、心臓と脳は融合してひとつの〈魂核(シャ)〉となり、激しく輝いていた。
「気分はどう?」
「……眠いだけです。」ヌジャは欠伸を漏らしながら答えた。
「暗い思考や……奇妙な衝動は?」
「いいえ……なぜそんなことを?」
ナラカは息を吐いたが、眼差しは張り詰めていた。「私の知識をも超える奇怪な力が働いている。今は身体は完全だが、これ以上弄れば壊れる恐れがある。成長しなければならない──少なくとも十歳になるまで。三十六日後に本格的な修正を施す。それまで眠りなさい、我が子よ。」