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Chương 7: 第7話 病室 ドラゴニュート

『実は私は興奮するとすぐ声が大きくなってしまうので』

『友人から筆談を薦められました』

『なので、どうか、このままいかせてください』

 友人──

 どうだろう、彼女はものすごく『戦う人』という感じで、ただパイプ椅子に大きなお尻(お尻だけが大きいのではなく、全身どこでも大きい)を詰め込んで、縮こまって座っている様子を見ていると、ますます『この人が戦う人じゃなくて、いったいどこの誰が戦う人だというんだ』という感じを受ける……

 その共通点からの連想で、俺に会うための忠告ができそうな人物と考えると、

「アヌビス──ソルジャーさんですか」

『アヌビス』

 あらかじめ用意されていたページが開かれた。

 どうにも間違いないらしい。

 ……というか、ページが開かれたんだよな。

 さっきから、用意されてきた文言は、『ページが開かれる』ことで現れている。

 それによくよく見れば、彼女の手には、タッチペンではなくて、なんだろう、あれは……サインペンに相当するものだろうか。それがある。

「あの、すみません、ぶしつけな質問で恐縮ですが……この時代には、紙とインク以上の、文字を書いて相手に伝えるのに便利な道具が……」

「……」

 ダメだな。

 この言い方だと、筆談で答えられない──ううん、不便だぞ、これは。いったいどうしたらいいんだろう。

 とりあえず、『はい』か『いいえ』で答えられるように質問を投げていこう。

「機械製品で文字を書けない事情がある?」

『はい』

「それは、ええと……」

 理由をそのまま書いてもらえばいいとも思うのだけれど、それはちょっと時間がかかりすぎるような気がして、『はい』と『いいえ』だけで答えられる質問でヒアリングを行うことにした。

 その結果わかったことは、

「『機械製品は壊してしまうので、基本的に身に付けられない』」

『はい』

 そのスケッチブックとサインペン、もしかしたら物凄い品物なんじゃないか──

 という話でも、ないんだろう。耐久力の問題なら、恐らく、彼女は『紙』を保持できない。

 ということは何かしら、種族の特徴か、あるいは信仰みたいなものがかかわっているはずだ。

『ご主人様、解説をいたします』

 そこでようやく、僕の右腕についた腕時計型デバイスから、ヘルメスの声がした。

 彼女はどちらかと言えば機械生命体に属するようなのだけれど、この時代のミュータントに隔意があるというわけでもないらしく、今までは、僕とドラゴニュートさんとの会話を邪魔しないよう、沈黙していたのだ。

 しかし『さすがに……』と思ったのだろう。

『ドラゴニュートという種族は特殊な……波、を発生させているのです。それは一定水準以上のプロテクトを施されていない機械製品の機能を混乱させ、あるいは停止させる可能性があります』

「……どうにも俺と面談するのは特別ことの様子だから、そういった製品を用意してもらったりはできなかったのかな」

『準備時間が……』

 答えはドラゴニュートさんから来た。

 どうにも『昨日思いついて、今日実行した』といった話らしい。そりゃあ、準備時間なんかないわ。

 しかし、困った。筆談というワンクッションを入れられるだけで、俺は彼女をどう味方にしていいか、わからなくなっている……

 俺の生きていた時代にだって、文面でのやりとりはあった。というか、人間間でのやりとりは、特に仕事なんかだと、音声ではなくて文面でのやりとりが主流だった気がする。

 しかし、こちらだけ声で、あちらだけ筆談というのはやりにくい。

 俺はもしかしたら、詐欺師か何かだったのだろうか?

 証拠が残らないやりとりでないとやりにくいというのは、自分自身のことを思い出せない俺に、自分の過去の活動が非合法なものだったのではないかという不安を抱かせた。

 まあ、どうしても声を発することのできない事情がある場合は配慮するのは当然として……

 なんだろう、この気持ちは?

 別に、そこまでやりにくさを感じることもないじゃないか。

 焦っているが、急ぐべき時じゃない。だから、ゆっくりとコミュニケーションをとっていっても、いいと思う。

 でも、なんでだろう。俺は、彼女が筆談をしている現状に……

 不満。

 ……そう、不満を抱いていた。

「すみません、これは俺のわがままなんですが」

『はい』

「あなたの声を聞きたいです」

 声を介さない言語のやりとりを『こんなものは、会話ではない』と断じるほど老害ではない。

 じれったいのは事実だが、質問の仕方もつかんできた。だから、コミュニケーションには問題ない。

 とすると俺が据わりの悪さを抱いているのは、彼女の声を聞きたいから。それ以外の理由を思いつくことはできなかった。

『危険だと忠告します』右腕のデバイスからヘルメスが鋭い声を発した。『ドラゴニュートは、本人も自覚する通り、感情の制御が苦手で、興奮すると大きな声が出ます。人間様、あなたはこの世界にいるどの種族よりも弱い。ただの声でも、あなたは死ぬことがありえます』

「忠告には感謝する。仮に俺を殺して、彼女が罪に問われる可能性を減らしたいと言われれば、納得もする。だけれど、俺は俺の意思として、『声が聞きたい』と表明する。それはあくまでも俺の意見で、可能ならば強制力を感じて欲しくない、ただの一人の一つの意思だ」

『なぜ、そこまで論理的に分解できて、それでもなお無用なリスクを負おうとなさるのですか?』

「『リスクを負おうとする』というのは正しい分析ではないよ。俺はただ、声が聞きたいだけなんだ」

『ですから、なぜ』

「俺は案外、我慢が嫌いらしい」

『……』

「思ったより猛烈な感情に支配されている。我慢は嫌だな。……俺の周囲で、誰かが我慢して、それで社会が成り立つのが、嫌なんだよ」

 俺が感じている据わりの悪さは、目の前のドラゴニュートが、『あえて不便を負っている』という様子に端を発している。

 ようするに、遠慮されるのが嫌なのだと思う。付き合っていきましょう、よろしくお願いします、という場だ。だっていうのに、付き合う前に配慮として、彼女たちに不自由を強いる。それは、なんだか、とても、よくないことに思えた。

 ……思考しろ。

 そうだ、思考は得意だった。

 俺はいろいろなことを空想した。いろいろなことを妄想した。……何かを思い出しかけている。俺は、なんだったのか──

 ──ダメだ。具体的に、俺自身を一言で語る言葉は見つからない。

 でも、思考は進んだ。言語化は済んだ。

 俺はなぜ、こうまでこだわるのか。

「君たちの認識はともかくとして、俺の自認は、『君たちの社会にお邪魔している』という立場だ。だから、家主を縮こまらせて大広間で『さあ、おくつろぎください』って言われても……居心地が悪いだろ」

『……』

「生物としての耐久度について、理解はしている。危険性も、恐らく、ヘルメスが認識しているよりは理解している。それでもお願いするんだよ。『あなたの声が聞きたいです』って」

『命懸けという意味ですよ』

「俺にくつろげと言うなら、俺に遠慮をしないでほしい。さもなくば腹を切るぞ、と言っているという認識で間違いないよ」

『なぜ、そこまで。たかが、いち種族が発声をするかしないか、その程度の問題ですよ?』

「…………後悔だ」

『記憶がお戻りになったので?』

「断片が浮かび上がってくる感じだけれど、俺は何かを後悔している。俺は種族としての特徴ならば、それが他者を害しても矯められるべきではないと思っている。それはなんていうか……冒涜に感じるんだよ。種族への」

『あなたの命は、他者への冒涜をしないことよりも大事です』

「現実的じゃないことはわかっている。だから俺は、この言葉になんの強制力も乗らないことを望んでいる。あくまでも、自分自身の願望について掘り下げて伝えただけだ。ただ、それで死んでも後悔はないよ」

『それが異常だと申し上げております』

「君の意見はわかったよヘルメス。──君はどう思うかな、ドラゴニュートさん」

 ドラゴニュートは、自分に向く目を見た。

 人間の目の中には、ドラゴニュートの姿が映っていた。

 戸惑っている自分の顔が、よく見える。

 ……違う。イメージと、違う。

 人間というのは、儚くて、すぐ折れて、小さくて、かわいらしくて……庇護すべきもののはずだ。

 言い方は悪いが、愛玩動物なのだ。超希少で、機械生命体も、ミュータントも、本能的に庇護したくなる愛玩動物。

 だが、目の前の生き物は、かわいいだけではなかった。

 ドラゴニュートは思わず唾を呑み込む。

 かわいいだけではない。

 異常だ。

 不気味でさえある。

 けれど……

 一層、庇護欲が湧くのは、どうしてだろう?

(危うい)

 そう、危ういのだ。

 それも、自分の脆さを知らないがゆえの、幼い危うさではない。

 自分の脆さを理解しながら、それでも、脆いままどこまでも進む。そういう危うさだ。

(…………本能が、刺激される)

 ドラゴニュートの祖というのは、地域によって違う。

 同じドラゴニュートでも、祖が違えば意識が違う。……現代にまで生き残っている『人間を愛しているドラゴニュート』はそれぞれ守り神と呼ばれる祖を持つが、細かいところは違うのだ。

 生贄。

 治水のために、龍に捧げられる、人間。

 彼は生贄だ。

 たった一人で命を懸けて、何かを成そうとしている。

 人柱だなんていうのは龍でさえも意味があると思っていない。龍は治水によって水害から人を遠ざけてきた。そこに生贄なんていうものの必要な個所はない。

 それでも、この、命さえ懸けて何かを成そうとする、脆弱な生き物を──

 命懸けで進めば、何かを得られると信じて疑わないこの人間という生物を、自分たちの祖は愛したのだと、思い知らされた。

「…………献上します」

 ドラゴニュートはつぶやく。

 人間が唇を笑ませ、デバイスの中のヘルメスが声を止めた。

「我が声を献上いたします。見返りに、名をください」

「アヌビスさんから話はどの程度聞いていますか?」

「……恐らく、ほぼすべて。あなたがここから、出る、ことを……私は、支持します。です、から、名をください」

 都度都度荒い呼気を挟まなければ、声が大きくなってしまいそうだった。

 興奮している。

 魂魄が脈動しているのがわかる。

 人間だ。

 これが、人間だ。

 危険だ。

 これは、社会を乱す。すべての種族の根底に訴えかける何かを持っている。

 危険だ。

 危険で──

 愛おしい。

 これの行く先を見たい。

 これの覚悟の果てを見たい。

 これの夢を追う姿は、自分が何かをしてやるに足る──

 人間は崇めるべきものだ。偉そうなことを言ってはならない。

 だが、ドラゴニュートは、思うのだ。

 庇護する。

 行く先を見てやる。

 それこそが祖の時代の、人と龍とのかかわり方だったのではないか、と。

 ……そう思うのだ。

「ミヅチと呼びましょう。外国の龍についてもいくつか浮かぶし、もっといい名があるようにも思う。でも、あなたに似合うのは、この名だ」

「……はい」

 言葉は少なくせざるを得なかった。

 さもなくば際限のない興奮が声となり、彼の身をめちゃくちゃに壊してしまうだろう。

 ぞわぞわする。

 恐怖ではない。嫌悪でもない。不愉快でもない。

 何かが始まりそうな予感が、背筋と脳髄を震わせていた。


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