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7.14% 俺、感情回収師。始まりは神の涙を回収したことだった / Chapter 2: 第二章:黒曜石の魔女と、最初のスキル

Chương 2: 第二章:黒曜石の魔女と、最初のスキル

「あなた……一体、何を“視た”の?」

月読さんの声は静かだったが、その響きは鋭利な刃物のように僕の鼓膜を切り裂いた。彼女の黒曜石の瞳は、僕の心の奥底まで見透かそうとするかのように、真っ直ぐに僕を射抜いている。

普段の彼女からは想像もつかない、圧倒的な威圧感。そして、僕の瞳には、そんな彼女の全身からゆらりと立ち上る、深く濃い紫色のオーラが見えていた。それは《警戒》であり、同時に強い《好奇心》でもあった。

何を視たか、か。

答えは簡単だ。星々の死と、世界の終わり。そして、神様の、孤独な涙。

でも、それをこの人に話すべきか?僕の頭は、感情のないまま、冷静に状況を分析しようと試みる。

「……古い、映画のようなものを」 当たり障りのない嘘をついた。僕の心は痛まない。 「悲しい映画でした。だから、少し涙が」

月読さんは何も言わず、ただじっと僕を見つめる。その沈黙が、肯定よりも雄弁に僕の嘘を暴いていた。

やがて、彼女はふっと息を吐くと、その紫色のオーラを収めた。そして、いつもの穏やかな店主の顔に戻る。

「そう。なら、いいのだけれど」

彼女はそう言うと、僕が崩してしまった石の砂をほうきとちりとりで丁寧に集め、小さな桐の箱に収めた。その一連の動作には、何か大切なものを弔うかのような、厳かな空気があった。

「あの石はね、『封涙石(ふうもくせき)』というの」 彼女は僕に背を向けたまま、静かに語り始めた。 「持ち主の強すぎる感情を封じ込め、持ち主が死ぬとその感情ごと塵に還る……そういう呪物(じゅぶつ)。でも、あなたはそれを壊して、中身を取り出してしまった」

呪物。その言葉に、僕は自分の置かれた状況の異常さを改めて認識する。

「あなたは、私と同じ“こちら側”の人間、ということね」 「こちら側……?」 「そう。色や形を成した感情が視える人間。私たちは、それを『霊視能力者(エモーション・シーア)』と呼ぶわ」

彼女が口にした言葉は、僕が今まで一人で抱えてきた秘密に、初めて名前を与えてくれた。

その時、僕の意識にだけ、再びあの無機質な声が響いた。

【チュートリアルクエスト:初めての感情回収】 【内容:目の前の人物が抱く《好奇心》を回収してください】 【報酬:スキル『低級鑑定(ロウ・アナリシス)』】

目の前の人物……月読さん? 彼女の《好奇心》を? どうやって?

僕が戸惑っていると、まるでシステムが僕の思考を読んだかのように、新たなメッセージがポップアップした。

【対象に意識を集中し、心の中で『回収(コレクト)』と命じてください】

言われるがままに、僕は目の前の月読さんの、その紫色のオーラに意識を集中する。そして、心の中で強く念じた。

――回収(コレクト)!

すると、月読さんのオーラから、一筋の紫色の光が糸のようにスルスルと伸びてきて、僕の胸に吸い込まれていった。それは神の涙の時のような激しい感覚ではなく、冷たい水を一口飲んだかのような、ごく微かな感触だった。

【《好奇心》の回収に成功。感情ポイントを10獲得しました】 【クエスト達成。報酬としてスキル『低級鑑定』を付与します】

直後、僕の脳内に新たな情報が流れ込んでくる。それはスキルの使い方。鑑定したい対象を視界に捉え、意識を集中するだけ。

僕はすぐさま、目の前の女性――月読さんにスキルを使ってみた。

【名前】月読(つくよみ)??? 【種族】??? 【状態】警戒、探求 【???】解析不能な強力な力により、情報の大半がロックされています。

「……は?」

情報量が少なすぎる! クエスチョンマークだらけじゃないか!

「今、私に何かしたかしら?」

月読さんが、少しだけ眉をひそめて僕を見る。どうやら、僕のスキルの使用を察知したらしい。この人は、本当に何者なんだ。

「……あなたも、僕と同じ能力を持っているんですよね?」僕は尋ねた。「なら、教えてください。この力は、一体何なんですか? 僕はこれからどうすれば……」

初めて、僕は他人に助けを求めた。感情がないはずの胸の奥で、藁にもすがりたいような気持ちが芽生えかけていた。

月読さんは、そんな僕の目を見て、少しだけ意外そうな顔をした後、くすりと小さく笑った。その笑みは、まるで悪戯好きの黒猫のようだった。

「いいわ、教えてあげる。その力の使い方、この世界のルール、そして……あなたが目覚めさせてしまった“物語”の続き」 彼女は人差し指を立て、僕に告げる。 「ただし、条件があるわ」

「条件……?」

「ええ」と彼女は頷いた。「私の店で、これからもアルバイトを続けてもらうこと。そして、私の“お願い”をいくつか聞いてもらうこと」 「お願い、ですか」 「そう。あなたにしか出来ない、特別なお願いよ」

それは、拒否できない提案だった。いや、僕には最初から、拒否するという選択肢などなかったのかもしれない。

こうして、僕の日常は終わりを告げた。

感情のない僕と、謎だらけの美人店主。そして、世界に散らばる“感情”を巡る、奇妙で壮大な物語。

その歯車が、今、静かに、しかし確実に回り始めたのだった。


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