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この一言で、須藤麗の表情が一瞬で凍りついた。
彼女の最初の反応は、私が彼女を騙そうとしているというものだった。
しかし、携帯の画面に表示された「市民病院からの着信」という大きな文字を見て、これが嘘であるはずがないと悟った。
彼女の脳裏には、昨日のビデオ通話で見た安藤愛が息も絶え絶えだった姿が一瞬でよみがえった。
彼女は私に電話をかけようとしたが、私の電話はすでに電源が切れていた。
「ありえない……ありえない……」
麗の声は慌てていた。
彼女は空港を出ると、十数回も赤信号を無視して病院に駆けつけた。
しかし、彼女を窒息させたのは、清潔な病室に何もなく、愛が存在した形跡がまったくなかったことだった。
看護師が愛の写真が貼られた日記帳を彼女に手渡した。
彼女は震える両手で看護師から受け取った。
八歳の子供の字はまだとても幼かった。
しかし日記の内容は、読む人の心を刺し貫くほど痛ましいものだった。
【今日、高橋おじさんという人が帰国しました。ママは愛と遊園地に行く予定だったのに、愛とパパは一日中ママを待ったけど来ませんでした。】
【今日は学校の親子活動で、パパだけが愛に付き添ってくれました。ママは高橋おじさんと彼の娘の手を引いて一緒にゲームをしていたからです。クラスメイトたちは私にはママがいないと言いました。愛はとても悲しかったです。】
【今日、愛は病気で入院しました。パパは大したことないと言いましたが、愛は自分がとても重い病気で手術が必要だということを知っています。パパは愛のためにお金を集めるために、たぶん献血に行ったみたいです。腕にとても太い針の跡があったから。】
【今日、パパは手術費用を集めました。手術さえすれば、愛は退院できるそうです。でも手術費用はママが高橋おじさんの誕生日プレゼントを買うために使ってしまいました。でも愛はママを責めません。ママは愛が病気だということを知らないからです。】
【愛はまた血を吐きました。パパ、ママ、愛はもう一度一緒に写真を撮りたいです。でも愛はもう手術まで持ちこたえられないかもしれません。パパ、ママ、さようなら……】
麗は日記を一ページめくるごとに、目が赤く潤んでいった。