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岡本詩織(おかもと しおり)はICUから一般病室に移ったばかりの時、一通のメッセージを受け取った。
「見て、あなたの夫が昨夜、誰を抱きしめていたかな?」
続いて福田彰人(ふくだ あきと)と一人の女性が腕を組んでパーティーに参加している写真が送られてきた。
その女性は彼女の夫を深い愛情を込めた目で見つめ、そして彼女の夫は……
かつては自分だけのものだと思っていた、あの情熱的な眼差し。
詩織は目を閉じ、心が乱れた。
結婚して四年間、彰人はいつも彼女を大切にしてくれていた。
彼女がくしゃみをするだけでも、会議を中断して家に駆けつけ、風邪薬を飲み終えるのを確認してから安心するほどだった。
しかし今回のオールボー行きでは、丸五日間何の連絡もなく、あの二枚の危篤通知書でさえ、彼の助手の名前が代わりに署名され、目に刺すほど痛ませた。
彼は何か重要な仕事で取り込んでいるのだと思い、自分が痛みに耐えても彼の邪魔をしたくなかった。それなのに彼の用事が、他の女性と過ごすことだったとは。
しかもその女性は名目上は彼の妹だ!
相手は彼女が見終わったと見込んで、さらにメッセージを送ってきた。
「この女性はあなたの夫にかなり大事に保護されてるわ。絶滅危惧種のようにね。彼女が帰国したら、あなたは夫の心の中で何番目になるのかしら?」
かつての親友の嘲笑を無視し、詩織は傷口の痛みに耐えながら、写真を拡大してじっくり見た。
福田美雪(ふくだ みゆき)、彼女の結婚三日後に海外へ送られた「義妹」、実際はほとんど会ったこともなかった人物。
その女性のことよりも、その首にかけられたネックレスの方が彼女の注意を引き付けた。
三週間前に彰人が巨額で落札した、彼らの結婚四周年の贈り物にすると言ったものにそっくりだ。
この四年間、彼はずっと自分を騙してきたのだろうか?
「若奥様、社長の仕事はもうすぐ終わります。近日中に戻ってこられます」
中島の声が彼女を思考から引き戻した。
詩織の指先は彰人の番号の上で長い間宙に浮いたままだったが、最終的には力なく離した。
中島を見る目には、もはや何の感情の波もなくなった。
「彼の義妹もあちらにいるわよね。仕事が終わったら、真っ先に彼女に会いに行かないの?」
中島の目が一瞬きらめいた。
「社長は今回緊急の業務を処理するために行ったので、おそらく私的な予定はないでしょう」
彼は彰人の腹心だから、もちろん言葉は隙がなかった。
詩織は彼から真実を聞き出そうとする考えを諦めた。
「わかったわ、もう行っていいわ」
中島は少し驚いた。
普段なら若奥様は社長の出張が終わるという知らせを聞くと、いつも喜んでいたのに、今回は態度が大きく違っていた。
「あの…もう一つですが…」
中島がどう伝うべきか迷っているところに、介護人がぶつぶつ言いながら入ってきて、彼の言葉を遮った。
「西村先生は福田社長のお友達で、医術もあんなに素晴らしいのに、どうして急に異動になるのかしら?一般病室の患者さんも、患者さんのままでしょ?」
中島は慌てて笑顔で説明した。
「西村先生は重症患者さんを担当していますから、病院が医師を交代させるのは、若奥様の怪我が大したことないと判断したからでしょうね。それに近藤先生もいい先生だし、病院が適当に扱っているわけではありませんよ」
彼の反応を見て、詩織はすぐに理解した。
「彰人が決めたの?」
中島の表情にほんの一瞬ひびが入ったが、すぐに落ち着きを取り戻した。
「もちろん違います。憶測はやめてください」
ってことはそういうことか。
詩織は淡く笑いった。
「後藤さん、衛生署に電話してくれない?明和病院が患者の同意なしに主治医を勝手に変更したことを訴えて。あと、西村直樹(にしむら なおき)先生が重症患者の治療期間中に理由もなく辞めたことも報告して」
中島は口の端を引きつらせた。
「若奥様、そこまでする必要はないでしょう」
詩織は冷たく反論した。
「もうあなたには関係ないことよ。今後、彼のことは私に伝えなくていいし、あなたもここに来る必要はないわ」
中島は何も返せなかった。
詩織は確信している。中島が必ず彼女の言動をあの人に伝えると。
彰人が戻ってきさえすれば、彼に説明する機会を与えるつもりだった。
しかし翌日、ドアを蹴破って入ってきたのは彰人ではなく、厚化粧を施した継母だった。
高橋奈緒(たかはし なお)は詩織が治療のために服が半脱ぎになっていることも気にせず、多くの同行者を引き連れて勢いよく病室に踏み込んできた。
詩織は慌てて開いた服を閉じ、恥ずかしさと怒りが一気に胸に込み上げてきた。
ほぼ同時に、後藤さんはベッドの前に立ち、来客の視線を遮った。
「奥様、入口には『お静かに』の札があるはずですよ?ご覧にならなかったのですか?」
高橋は鼻高々に言った。
「この病院に空いた単独病室がないの。だから彼女は退院してもらうのよ。この病室を私の友人に譲るためにね」
詩織は顔を引き締め、すぐには応じなかった。
彼女は高橋の威勢に怯えたわけではなく、考え込んでいただけだった。
普段、彼女とは仲が良くなかったが、いつも口頭で威張るだけだった。継母であるため、福田家では誰も相手にされず、やり過ぎた事は一度もなかった。それが今回、突然正面から挑発してくるなんて……
一体何が起きたのか?誰かが彼女にその自信をつけたのか?
高橋と一緒に来た女性の友人がその袖を引っ張った。
「福田奥様、病室がないなら、別の病院に変えてもいいんですよ。父の病気は持病だし、そんなに急がなくても、ここは福田若奥様にゆっくり養生していただいても…」
上流社会では福田彰人が妻を溺愛していることは誰もが知っていた。ただ、高橋がどうしても彼女を連れてくると言うので、断れなかっただけ。
しかし高橋は軽蔑の表情を浮かべた。
「松田さん、心配しないで。数日後に彰人が彼女と離婚したら、彼女は何の価値もなくなるわ。この病室どころか、彼女の命だって好きにできるのよ」
そして詩織に向かって、ますます横柄な口調で言った。
「彰人もいないし、そんな貧相な顔、誰に見せつけてるの?さっさと出て行きなさい」
詩織は怒りもせず恐れもせず、ボタンを一つ一つ丁寧に留めてから口答えした。
「個室なら霊安室にはたくさんあるわ。お友達さんを連れていけば?」
高橋は彼女の言葉に顔を青ざめさせた。
しかしすぐに、ねじれた満足感が彼女の口元に這い上がった。
「彰人があなたを甘やかしてるからって、本気であなたのことが好きになったと思ってるの?今回怪我した理由を考えてみなさい!あなたはただの代わりものだけ。彼の本命がもうすぐ帰ってくるわ、あなたみたいな身代わりはすぐに見捨てられるのよ」
何の話?身代わり?
詩織は目を深く落として、顔に浅い笑みを浮かべた。
「じゃあその本命って誰なの?」
高橋はふんと鼻を鳴らした。
「余計なことを詮索するんじゃないわ。大人しく病室を明け渡しなさい。さもないと…」
詩織はゆっくりと彼女の言葉を遮った。
「あなたも知ってるでしょう、ここは病室よ、風俗の個室じゃないわ。好きに交換できるものじゃないから」
高橋は風俗店の出身で、一度離婚したものだ。福田恭介(ふくだ きょうすけ)は周囲の反対を押し切って彼女を娶ったが、お婆様は彼女を快く思っておらず、そのため彼女のそういう過去も、福田家に嫁いでから最も消し去りたい汚点になっていた。
彼女はすぐに激怒し、手を出そうと飛びかかったが、後藤さんにしっかりと阻まれた。
「たとえ奥様でも、若奥様に手を出すことは禁止ですよ!」
「この老いぼれ、図に乗るんじゃないわ!誰か、この女を叩き出せ!」
二人の大柄な男がすぐに前に出て、五十代を過ぎた後藤さんを容易に脇に押しのけた。
これで邪魔者も消えた。高橋は不気味に笑いながら前に飛び出し、詩織の襟をつかみ、真っ赤な爪が彼女の襟に食い込んだ。
「この私より偉いとでも思ってるの?じゃあ今すぐこの服を引き裂いて、毛のない野良犬みたいに人混みに放り出してやるわ。そしたらいつまで偉ぶっていられるかな!」