雨はしとしとと降り続け、一晩中降っていた。
朝霧がかかり、ノックの音がこの静けさを破った。
中村美咲はベッドから目を覚まし、数秒間呆然としてから、ようやく自分がどこにいるのかを思い出した。
ドアの外では、榎本竜也の優しい声が響いていた。
「美咲、清潔な洗面用具をドアの前に置いておいたよ。朝食はテーブルの上だから、起きたら食べてね」
「わかった」
ドア前の物音が消え、美咲は顔をこすり、ベッドから飛び降りてドアへ向かった。
外にはバッグが置かれており、彼女は首を伸ばして覗き込んでから手を伸ばして取った。
中には洗面用具の他に、きれいなワンピースとフラットシューズも入っていた。
美咲の心は温かくなり、服に着替えて部屋を出た。
テーブルの上には湯気の立つおかゆと数種類の小鉢が置かれていたが、竜也の姿はなかった。
もう出かけてしまったのだろうか?
美咲はダイニングテーブルに座り、目を伏せ、表情は読み取れなかった。
そのうち出雲台壱号棟に戻らなければならないと思うと、食事の動作はゆっくりになった。
しかし、どれだけ引き延ばしても、結局は戻らなければならない。
美咲は簡単にテーブルを片付け、ゴミ袋を持ってドアを出た。
彼女が周りを見渡すと、竜也が車の横で待っているのを見つけた!
彼女が出てくるのを見て、竜也は口角を上げた。「おはよう」
美咲は彼に向かって歩き、「おはよう」と返した。
「ワンピース、似合ってるね」
男の視線は軽く彼女を品定めしたが、美咲は不快感を覚えなかった。
彼女は少し口角を上げ、表情に真心を込めた。「ありがとう」
竜也はポケットから手を出し、自然に彼女の頭を撫でた。「どこに戻るの?送るよ」
美咲は避けようとしたが、彼の誠実な笑顔に触れ、我慢してよけなかった。
彼女は瞬きをして、断った。
「いいよ、自分で帰れるから」
「美咲」
竜也は彼女の名前を呼び、相変わらず穏やかで優しい笑顔を浮かべていた。
「僕から逃げなくていいんだよ。狼でも虎でもないんだから」
美咲の両脇の指が少し曲がった。
彼は気づいていたのか、彼女が距離を置こうとしていることを。
竜也は彼女を追い詰めたくなく、丸く収めようとした。
「君の半分の実家の人間として、一度家まで送るくらい、許してくれないかな?」
美咲は断れず、うなずいて彼の車に乗り込んだ。
ここから出雲台壱号棟までは遠くなく、数分で到着した。
車が精巧なアンティーク調の彫刻が施された大門の外に停まると、美咲は顔を上げ、竜也の複雑な眼差しと交わった。
彼女の心は震え、慌ててその視線から逃げた。
唇を噛み、小さな声で言った。
「着いたわ、ありがとう」
竜也の目は光を放っていた。「僕と君の間では、そんなに遠慮しなくていいんだよ」
美咲は何も言わず、ドアを開けて車を降りた。
車の横に立つ彼女に、窓が下りた。
竜也の穏やかな顔が見え、人に距離感を感じさせなかった。
美咲は門の警備員が彼女を見ていることを知り、眉をひそめたが、突然笑顔になった。その表情全体に艶やかさが加わり、竜也はその姿に魅了された。
彼女は言った:「竜也兄さん、気をつけて」
竜也の目は彼女の小さな顔から離れず、何度も抑制して、ようやく彼女の手を引き留めずにいられた。
「うん」
「さよなら」
美咲は振り返り、門の中へ歩いていった。
竜也の穏やかな瞳に嵐が巻き起こり、心配を抑えきれず、叫んだ:「美咲!」
美咲は立ち止まり、振り返って彼を見た。
言葉が口元まで来たが、何度も迷った末、最も控えめな告白となった。
「何かあったら僕を頼ってくれ」
「...わかった」
「待ってるよ」
美咲は答えなかった。まぶたに押し寄せる苦さを耐えながら、身を翻して二度と振り返らなかった。
そばで、岡田隼人が前に出て、表情は曖昧だった。
「奥さん、若旦那が中でお待ちです」