智也の右顔は目が見えるほどの速さで、急速に赤く腫れ上がった。
その格好でパーティーに参加するなんて不可能だ。
しかし宏樹はそのことを気にも留めず、ただ優しさに満ちた目で、隣に座っている詩織を見つめただけ。
「詩織、一言の謝罪では、今までの傷を埋め合わせることはできないと分かっている」
「でも兄さんを信じてくれ。これからは絶対に君に少しの辛い思いもさせない」
詩織は嘲笑うように笑った。
「兄さんだって?あなたみたいな兄さん、この世にいますか?」
詩織は冷たい態度を示した。
普段なら厳しく威厳たるあの小川社長も、手が焼くことがあるとは。
彼はこのすべても詩織のせいではないことを知っていた。
彼らが詩織を傷つけすぎたのだ。
「私に少しの辛い思いもさせないって言うなら、美優のことはどうするつもり?」
詩織は無造作にそのことを持ち出した。
しかし彼女は美優に罰を与えたいわけではない。
ただ何気なく言ってみただけで、宏樹が演技をしているのか、それとも本当に自分のために正義を貫こうとしているのかを見極めたかったのだ。
智也はその言葉を聞くと、すぐに美優を自分の背後に隠し、ソファに座っている詩織を怒りの目で睨みつけた。
「詩織、警告しておくが、調子に乗るな!」
「兄さんが庇っているからって、それで終わったと思うなよ」
「父さんと母さんが帰ってきたら、お前の立場はないからな」
智也の警告に対して、詩織はまったく気にしていなかった。
「智也、余計な口を挟むな」
宏樹の声は冷たかったが、詩織に話しかける時には、まるで別人のように変わった。
慎重の中に少しの取り入るような態度すら見られた。
「詩織はどうしてほしいんだ?」
「詩織が喜ぶなら、兄さんは何でもするよ」
詩織はこの言葉を聞いて、眉を上げ、唇の端に邪悪な笑みを浮かべた。
「それなら…美優を反省室に二日間閉じ込めるのはどう?」
何度も人生をやり直してきて、彼女はその反省室に閉じ込められた時間さえ、数えきれなくなった。
幼少期の大半もその反省室の中で過ごしていたような気がする。
毎回智也が彼女を反省室に閉じ込めるたびに、最低でも三日間はそこにいた。
三日間食べも飲みもせずに、どうやって耐えてきたのか、自分でも分からなかった。
今回はたった二日間だと言い出したが、智也はその話を聞いただけで表情を変えた。
「詩織、お前正気か!」
「どうして美優を反省室に入れるんだ?」
「反省室は薄暗くて湿気が多くて、汚くて散らかっていて…」
智也の言葉は最後まで言い終わる前に、宏樹に遮られた。
「いいだろう、美優を反省室に閉じ込めろ。この二日間は誰も彼女に食事を持っていくなよ」
「もし誰かが俺の命令に背くようなら、どうなるかは知らないぞ」
宏樹は冷ややかな目で部屋にいる全員を見渡した。
彼の視線を受けた使用人たちは次々と頭を下げた。
誰一人として彼と目を合わせる勇気はなかった。
美優はその言葉を聞いて顔色を失い、今日の災難から逃れられないことを悟った。
ダメだ、あの反省室は絶対に嫌だ。
両親が帰ってくるまで待てばいいのね!そう、父と母が帰ってくれば事態はまだ好転する余地がある。
兄がどんなに変わってしまったとしても、両親は自分を守ってくれるはずだ。
「智也兄さん、助けて、反省室は嫌だよ」
なぜ兄が急に自分の味方をやめたのか、美優は分からなかった。
だから彼女は守ってくれる智也に助けを求めるしかなかった。
智也は歯を食いしばって美優の前に立ちはだかった。
「兄さん、そんな扱いはさすがに女の子に厳しすぎだぞ?」
「ふん!女の子だと?」
「詩織が女の子じゃないとでも言うのか?」
「詩織だって閉じ込められたし、彼女も一緒だろう?」
智也は反射的に反論した。
「美優があの小む…あの子と全然違うだろう」
宏樹は彼らとこれ以上話す気はなく、隣にいる使用人を叱った。
「俺の命令すら聞かないのか?」
使用人たちは当然宏樹の目を恐れている。
しかし小川家を敵に回すことはなおさらだ。
美優は何と言っても、小川家全体に大事にされる子だ。
もしここで宏樹の命令に従ったら。
小川御当主が彼らを許すわけがない。
彼らが躊躇している間に、宏樹は冷笑した。
そして直接美優を引きずって反省室に投げ込んだ。
その後、全員の驚愕の視線の中で反省室に鍵をかけた。
その鍵も彼はポケットに隠した。
この部屋は「反省室」と言っても、実際は一階の雑物置き場に過ぎなかった。
ただ中は汚く散らかっていて、使用人もめったに掃除をしなかった。
美優は長兄がこのような扱いをするとは思ってもいなかった。
彼女はドアを叩き続け、大声で泣き叫んだ。
「出して!長正兄さん、智也兄さん、ここから出して!」
「ここ暗いよ、怖いよぅ、うぅうぅうぅ」
智也がまだ何か言おうとしたとき、彼の兄がソファにいた少女を優しく抱き上げるのを見た。
「詩織はいい子だ、こんなうるさい場所には似合わない。だから兄さんと家に帰ろう」
「今後は絶対にここに来ないから」
宏樹の顔には嫌悪感が満ちていた。
ここはもはや彼の家ではない。
智也はただ自分の兄が鍵を持って去っていくのを見つめるしかなかった。
彼は無力感に襲われ、すぐに反省室のドアの前に駆け寄り、妹を慰めた。
「美優、泣かないで、兄ちゃんが鍵屋さんを呼ぶから!」
「何ぼうっとしてるんだ?鍵屋を連れてこい!」
「それと、父さんに電話して、誕生日パーティーには行けないって伝えといて」
反省室の中の美優はもう泣き疲れそうだった。
以前は涙を一滴流しただけで、世界中が彼女を中心に回っていた。
しかし今日は涙がかれるほど泣いても、あの男は動じなかった。
美優には一体どこが間違っていたのか理解できなかった。
彼女はすべての責任を詩織のせいにした。
きっとあの汚らしい田舎娘のせいだ。
あの子がいなければ、自分を愛してくれていた兄が自分を顧みなくなることはなかった。
しかも自分を反省室に閉じ込めたりしなかっただろう。
暗闇の中で、美優は今度こそ本気で泣けた。