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Chương 4: 第4話

「ガーク様お口に合いませんでしたか?」

「ん?」

リリィが申し訳無さそうに、俺の顔を覗き込む

どうやら俺は、リリィの用意してくれたトウモロコシの粉をお湯で溶かしたスープをすくったままで固まっていた様だ

「あ、いや・・・美味しいよリリィ」

市場で仕入れた食料は、どれも安価な物で一般庶民が日常的に口にする様な物ばかりだ

保存が利くが少し固めのパンに、干し肉をお湯で戻し焼いたベーコンの様な肉料理、乾燥させ粉末にしたトウモロコシをお湯で溶かしたスープ、野菜に酢をまぶしたサラダ・・・

リリィが香草や調味料で味を調えてくれているから食べられるが、そのままだときっと喉を通らないだろう粗末な食卓

「それとも・・やはり私の様な卑しい身分の者が同じテーブルについては、食欲が・・・」

俺はリリィの言葉にスプーンをテーブルに置き、真っ直ぐにリリィを見つめ

「それは、先ほども説明しただろ?リリィはこれから俺の助けになってもらう大事な仲間だ、俺と居る時は奴隷である事を忘れてくれて構わない、それと俺の行動に何か思う事があるならハッキリと言って欲しい・・・今のオーウェル家にこれ以上の失態は許されそうもないからな」

「・・・・ガーク様のご命令とあれば・・・」

納得して無さそうに俯きながらも、一応は俺の言葉を肯定する

「では・・・お言葉に甘えてお尋ねします・・・先ほどから何か考えておいでのようですが?何か街で気になる事でも?」

俺は、ブエル商会の男に引きずられ連れて行かれる、奴隷女性の一団を思い出していた

「うん・・・あの奴隷の女性達がな・・・・」

「あの者ら・・・ですか?もしかして、元々このオーウエル商会の奴隷だったので中にガーク様のお気に入りの奴隷でも居ましたか?でしたら、直ぐにとは行きませんが、リリィが働き何とか一人位は・・・」

どうやら、リリィは自分が働いて俺を養うつもりらしい・・・奴隷の亜人女性が金銭を稼ぐとなると方法はかなり限定される・・

一瞬だけ想像して俺は首を振る

「いや、それはダメだ、リリィにそんな事はさせられん・・・働いては貰うがそれは俺の元で・・・だ、解ったな?」

「・・・はい」

「ところで、奴隷として商会に連れて行かれてその後はどうなる?」

「奴隷商人とは俗称で、本来はただの商人です、殆どの奴隷商人は奴隷以外の売買も行い扱う商品の一つが奴隷と言う訳です、ですので対価を払って購入した者へ紋章の主を移し、隷属の契約を上書きします・・・つまりそれまでは奴隷商人が隷属の紋章の主と言う訳です」

俺は最後のスープを飲み干し、リリィに尋ねる

「そもそも奴隷という制度は、何処までが正当化されるんだ?」

「隷属の紋章による契約は、本来は保護契約と呼ばれてます・・・特殊な力を持つ亜人が迫害されない様に人間族の貴族や力の有る者が保護する目的で契約する・・・と、言う建前です」

「その実は、特異な力を人間や権力者に向けて行使しない様にするのが一番の目的です、そしてこの隷属の紋章は女性にしか効果がありません」

「女性にだけ?・・・つまり、人間により奴隷として鹵獲される女性が増えれば、亜人種族は交配が出来ず何れは滅びるのだと?」

リリィは俺の見解に、目を見開き驚くが直ぐに平静をとりもどし頷く

「ご賢察おそれ入ります・・・ガーク様のご推察の通りです、実際に種類の多い獣人族の中でも個体数の少なかった豹人族は既に絶滅したとか・・・」

「豹人族・・・か」

俺はブエル商会に連れ去られた時に目が合った、銀髪の猫人族の表情が頭をよぎる

「なぁ、もう一つ聞いてい良いか?そもそもその隷属の紋章を亜人女性に刻む方法は、何時から生まれたんだ?」

「それは私にもわかりません、ただ・・・今から約400年前位に外海の孤島にたどり着いた冒険者が遺跡を見つけた際に神から授かった魔術だと・・・伝え聞いた事があります、事実その冒険者はこの国で一番大きな皇国べリノアの初代皇帝となった、と人間の間では語り継がれています」

(辺境にある外海の孤島遺跡・・・そこに祭られし神・・・か、あの女神ヘルスティアの事か?それとも別の・・・)

「・・・・もしかしたら、その辺境の遺跡に、隷属の紋章を解除する手掛かりが・・・・」

「ガーク様?」

「なぁリリィ、あのブエル商会から奴隷を解き放つ事は出来ないか?」

「!?急に何を仰るのですか!?」

リリィは、俺の言葉に驚き戸惑っている・・・しかし

「何かが引っかかるんだ・・・このまま座して彼女等が馬鹿な成金共に売られて行くのを黙っては見ているのは・・・」

「ガーク様・・・何が貴方を・・・いえ、それがガーク様のお望みであれば、このリリィもお供致します」

「うん・・頼りにしてる」

俺はリリィを奴隷鑑定した際に、邪神では無く、森の大精霊との契約に成功してる事を知った、その契約により彼女には強力な精霊魔法が扱える事も・・・ただ今は、リリィ自身がその力を呪いの力だと思い込んでおり、自身の意志でその能力を封印している様だ

だが、大規模な精霊魔法は使えなくても、初級程度の精霊魔法は扱える・・・俺は見て見ぬふりをしていたが、リリィが料理をする際に炎の精霊魔法と水の精霊魔法、風の精霊魔法を使っていたのをこの目で確認している

まだ完全に確証は無いが、この奴隷鑑定システムはかなりの確率で奴隷の秘めたる力を見極める事が出来るのだと言う事になる

このガークという青年の身体で何処まで戦えるのかは未知数だ、あいにく青木学の時から荒事は苦手だ・・・今になって隆司のバイタリティが羨ましいと感じる

(そいえば、初詣を一緒に行く約束をしていたな・・・約束を破る事になって、隆司には悪い事をしたな・・・)

思えば、俺は何時も隆司に守られて救われて来た、ぞんざいに扱ってしまった唯一の友人に今になって有難くも申し訳無く思う

(だが、この世界に隆司は居ない・・・もう俺の事を庇ってくれる親友は居ないんだ、今まで隆司がくれた恩を俺は、この世界の奴隷に返そう・・・それで許してくれ・・・隆司)

「では、俺の考えた作戦を聞いてくれ・・・」

この夜に起こすガークの行動が、後世の歴史において「解放の奴隷商人」と呼ばれるガーク=オーウエルの第一歩となる事を未だ誰も知らない


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