「私は何も言っていませんよ、それはあなたが言ったことです」斎藤詩織は深い笑みを浮かべた。「少し道を開けてもらえませんか?弁護士に会いに行くところなんです。もしかしたら、また爆弾的な情報があるかもしれませんよ!」
この言葉を聞いて、記者たちはすぐに道を開け、詩織が余裕を持って弁護士に会いに行けるようにした。
わずか数分で、小林氏の社長が性的不能であるという話題がネット上で急上昇し、多くのウェブサイトが競って報道した。
人々はさらに詩織に同情した。
性的不能の夫と結婚し、その夫がさらに浮気までした。彼女がこれほど長い間我慢してきた苦しみは、彼女自身にしかわからなかった。
詩織は弁護士に会うと、泣きも騒ぎもせず、静かにそこに座った。
彼女がバッグに手を入れ、離婚協議書を取り出そうとしたとき、白石弁護士が口を開いた。「奥様、社長の意向としては、できるだけ早く離婚手続きを進めたいとのことです。小林社長はあなたを粗末に扱うつもりはなく、南丘一号別荘に加えて、相当額の慰謝料もお支払いする用意があります」
「離婚訴訟を起こすんじゃなかったの?」詩織は手を止め、離婚協議書を押さえながら冷笑した。「どうして訴訟をやめたの?私には彼と争う時間はいくらでもあるわ」
「奥様、あなたと社長は夫婦なのですから、どうしてそこまで...」
「彼はいつ私を妻だと思ったことがあるの?まだ離婚もしていないのに、彼はもう前田紫月というあの女を迎え入れたがってる。彼に伝えてください。少しのお金で私を片付けようなんて、そう簡単にはいかないわ」
彼女が持っていた離婚協議書には、何も要求しないと書かれていた。
彼と結婚した時と同じように、離婚する時も同じようにするつもりだった。
彼のお金なんて欲しくなかった。
でも、物乞いのように扱われるのは大嫌いだった。
白石弁護士は真剣な表情で言った。「奥様、言葉遣いにご注意ください。前田さんと社長は幼馴染です。どうか二人を成就させてあげてください。これ以上彼らを引き離すような破壊的な行為はやめてください」
専門の弁護士としてこのような主観的な発言をするはずがない。明らかに小林颯真の指示だった。
詩織は冷ややかに笑った。「彼らを引き離すなんて興味ないわ。ネット上のあの写真は私が投稿したものじゃないわ」
「あなたが投稿したかどうかは重要ではありません。重要なのは前田さんが極めて大きな傷を負ったということです」
「自業自得よ!」
最初は詩織も推測するだけだったが、今では100%確信していた。ネット上のあの写真は紫月自身が投稿したものだ。
見事な策略で、颯真をしっかり手中に収めたものだ。
紫月のような女は自分にさえこれほど残酷になれるのだから、他人にはもっと容赦ないだろう。
白石弁護士のオフィスのドアが開き、小林颯真が怒りに満ちた表情で詩織の前に現れた。
「社長!」白石弁護士はすぐに立ち上がって迎えた。
颯真の声は氷のように冷たかった。「彼女はサインしないのか?」
「ご心配なく、もう少し奥様を説得してみます...」
白石弁護士は額の汗を拭き、颯真が仕事ぶりを非難することを恐れていた。
「サインしなければ出さないでおけ」
颯真は鋭い視線を詩織に向けると、背を向けて立ち去ろうとした。
「ちょっと待って」詩織は駆け寄って彼をつかんだ。「颯真、座って話し合いましょうよ!」
結婚は二人の問題だ。もし颯真がきちんと話し合ってくれるなら、彼女は決して彼にしがみつくようなことはしないつもりだった。
お互い円満に別れる道理は彼女にもわかっていた。
「君と話すことは何もない」
颯真は眉をしかめ、彼女の手を振り払った。「話したいなら私の弁護士と話せ」
「颯真、私たちは3年間夫婦だったのよ。私に言いたいことは本当に何もないの?」詩織は鼻が痛くなり、颯真の決然とした背中を見て心が引き裂かれるような痛みを感じた。「ほんの一言でも...」
「ない!」彼は冷酷に答えた。