章節 8: ぶりっ子に平手打ち

編輯: Pactera-novel

「なぜこんな事を急に聞くんだ？」

拓也が言い出してから、愛子のことを思い出し、目に意味深な色が浮かんだ。

「城西区の土地は初が手に入れたよ。この数年、彼が小野物産を引き継いでから不動産業で急成長している。噂では、彼の元に優秀な建築デザイナーがいるらしい」

そう言いながら、彼は身を乗り出した。「邪魔したいなら、そのデザイナーの身元を調べてあげるよ。多くの会社が引き抜きを狙っているらしいが、初は徹底的に隠しているみたいだ」

和真は彼に冷ややかな視線を投げた。「誰が邪魔するって言った？」

野村は黙った。和真が暇を持て余しているような気がしてならなかった。

あの橋本という小娘のためか？

「お前は初の長老筋だろう。彼もきっと招待状を送ってくるはずだ。一緒に行って楽しもうか？」

和真は軽く鼻を鳴らし、消した煙草の吸い殻を野村のズボンの上に投げた。野村は自然に受け取り、灰皿に入れると、笑みを浮かべて彼を見つめた。見透かしながらも口にはしなかった。

車は谷口家の別荘の前で止まった。

詩織はシートベルトを外し、振り返った。「初さん、荷物が少し多いの。中まで持ってきてくれない？」

「いいよ」

初は何の躊躇いもなく、トランクから荷物を取り出した。

詩織のダンスの道具や衣装で、その中にはE.Yの紙袋も混じっていた。

愛子が車の横に立ち、目を細めた。

一人で車で来るはずだったのに、重要な荷物は全て初の車の中にある。彼は女を喜ばせるのには惜しみなく金を使うが、正式な彼女には決して優しくない。

詩織は彼について行かず、腕を組んで挑発的に言った。「愛子、いつまで演技を続けるつもり？」

「何のことかしら？」愛子は冷たく尋ねた。

「他人があなたの前で匂わせても理解できない。自分の目で見てもわからないの？」

詩織は襟元を開き、首筋にあるキスマークを見せた。「見えた？私と初さんは両想いだ。彼はあなたなんて触りたくもないのよ」

「あっそう」

愛子はそっけなく返した。

それから突然、詩織の頬を平手打ちした。

「よくも...」

「我慢しなさい！」

愛子は一歩近づき、冷ややかな目で眼前の狼狽した顔を眺め、嘲笑うように言い放った。「どうせなら、初に直接言いに行けば？彼は私をとても大切にしているのよ。あの夜、あなたは大胆だったわね。でも、私が目を覚ますとは思わなかったでしょ？そして、彼が私の前であなたとの不倫を暴くなんてことは、絶対にあり得ないんだから」

「あなた...」

詩織は頬を押さえながら後ずさり、驚いた目で彼女を見た。

彼女は知っていたのだ！

「初さんの前であなたのことを暴露するのが怖くないの？」

「怖い？」

愛子はまるで可笑しい言葉を聞いたかのようだった。「初は城西区の土地を競り落としたばかり。木村財閥に代わる商業施設を密かに建設しようとしているのよ。和真と張り合うには自信がなければできない。どうぞ私のことを暴露してみて。一度私と初の関係が壊れて、私が建築デザインを手伝わなくなれば、どんな良い土地も彼の手の中で腐るだけよ」

詩織は思わず二歩後ずさり、体が揺れ、目には信じられない表情が浮かんだ。

愛子は彼女を軽く見下ろし、低い声で言った。「詩織、私がいる限り、あなたが初の横で正々堂々と立つことは絶対にできないわ」

彼女は笑った。「気をつけなさい。媚薬を使いすぎると、体だけでなく脳にもダメージが及ぶわ。もし本当にあなたたちをベッドで捕まえたら、初がすぐにあなたをベッドから蹴り出すのか、それとも私を追い出すのか、見ものねぇ」

「……」詩織は見事にやり込められて、言葉が完全に塞ぎ込んでしまった。

彼女だけが知っていた。あのハゲた中年男性は彼女が連れてきたもので、リビングルームに香りを炊いたのも故意だったことを。

毎回初と密会するだけでは耐えられず、誰かに見られても彼女にとっては良いことだと思っていた。

だが予想外だったのは、初が終わった後すぐにシャワーを浴びに行ったこと。

しかも目を覚ました愛子は、その場で爆発せず、我慢していた。なんて計算高いのだろう！

「何が得意げになってるの？」

詩織は大きな声を出す勇気はなく、冷笑した。「初さんをしっかりと掴んだ方がいい。後ろの谷口家をみたでしょ？中に入りたくない？」

彼女は顎をあげ、勝利者の姿勢で言った。「でも残念ね、両親はあなたを認めていない。あなたはただの表に出せない隠し子よ！」

愛子は相変わらず冷たい表情を崩さず、何の動揺も見せなかった。