小鳥はパクチーを食べない:【ああああ!】
小鳥はパクチーを食べない:【大恥かいた!】
小鳥はパクチーを食べない:【全部あなたのせいよ!】
小鳥はパクチーを食べない:【今すぐ駆けつけてあなたを殺してやる!】
吉田くきは怒りのやり場がなく、この元凶である甘粕葉月にメッセージを浴びせた。
葉月がそそのかさなければ、こんなことにはならなかったのに。
甘粕葉月は事情が分からず、無実を訴えるように送ってきた:【どうしたの、ハニーちゃん?そんなに怒って、私が何をしたの?O.o】
くきは暴走モードに突入し、両足をせわしなく動かしながら往復し、音声メッセージを機関銃のように連打した。「あなたのせいで私は終わったのよ、分かる?よくも甘えた顔でいられるわね。盗撮が本人にバレただけでも大惨事なのに、電話するふりしてスマホを逆さに持ってたの!先生が突然教室に来たとき、逆さにした本を読み上げるふりをしてるみたいなものよ。こんな恥ずかしい思い、生まれて初めて!」
数十秒の音声を聞き終えた葉月は、食べていたご飯を吹き出すほど笑った。
ようやく落ち着いた彼女は、爆撃の合間を縫ってそっと尋ねた:【じゃあ、写真は撮れたの?】
くきは息が詰まりそうになった。この親友は本当に自分の死活など気にしていない。
葉月:【せっかく撮ったんだから、無駄にしないで送ってよ。見てみたい】
くきはタクシーを飛ばして彼女を殴りに行きたくなった。
しつこく迫られ、怒りが少し収まったころ、葉月はようやくロールスロイスの持ち主の素顔を拝むことができた。横顔の写真一枚だけだったが。
葉月:【これ、AI合成の画像じゃないの?現実にこんなに整った顔の人いるの?】
まだ苛立ちが残るくきは、音声で罵った。「あなたの頭こそAI合成だわ」
とはいえ、田中彰の顔立ちは本当に整っていた。さっき廊下でエレベーターを待っていたとき、深い眉骨に上から光が差し込み、目の窪みは影に隠れ、ひどく奥行きがあり、魅力的に見えた。
少なくとも、くきは彼ほど骨格の美しい人を見たことがなかった。外見に関しても、彼に匹敵する者はほとんどいないだろう。
アルバムの写真を見返しても、本人の十分の一の格好良さすら写し取れていなかった。
*
金田修と数人の副社長が個室から出てきて、くきを見かけて尋ねた。「田中社長を見送ったのか?」
くきは心臓が高鳴り、曖昧に答えた。「はい、帰られました」少し間を置き、声を潜めて上司に尋ねた。「今回の話、うまくいきそうですか?」
金田修は慎重に言葉を選び、控えめに答えた。「まあまあだな」
――まあまあ?
そう言いつつ、金田修は入室時のことを思い出し、眉をひそめてくきを見やった。「そういえば、なぜ田中社長を見た途端、プロジェクトは駄目だと言ったんだ?」
くきは乾いた笑いを浮かべ、事故のことを口にする勇気もなく、ごまかした。「田中社長って、少し近寄りがたい感じがしましたので……」
それには金田修も同意し、うなずいた。「確かに。君どころか、私も二十歳以上年上なのに、彼と話すと緊張するよ」
金田修は四十を過ぎてから起業し、自ら立ち上げた華園グループはまだ歴史の浅い会社に過ぎなかった。世代を超えて続く財閥と肩を並べるには遠い。
田中家のような名門ですら、十年前には動揺があり、崩壊寸前まで追い込まれたと聞く。だが最後には立ち直り、今も隆盛を誇っている。
一行は談笑しながらエレベーターに乗り、駐車場へと降りた。
そこには、すでに出たはずの彰がまだいて、車の横に立ち、携帯を手に誰かに連絡しようとしていた。
金田修は足を速め、自ら声を掛けた。「まだお帰りではなかったのですか?」
「運転手が急用で休みを取り、秘書は会社に戻らせた。ホテルに頼んで送ってもらおうと思っていたところだ」
――これは好機だ。クライアントが困っている今こそ印象を良くすべきだ。金田修は即座に提案した。「その必要はありません。うちの秘書が送ります」
くきは後ろで必死に隠れていたが、その言葉を聞いてまばたきした。――え、私?
「吉田、早く」修は振り返って呼んだ。
やっぱり私か!くきは渋々前に出て、引きつった笑顔で頭を下げた。
金田修は励ましの視線を送り、「道中、機転を利かせなさい」と言い、さらに小声で「叔父さんは君を信じている」と囁いた。
叔父さん、お願いだから信じないで。
私がやれば、絶対に全部台無しになる。
いっそ今月の給料全部差し引いてほしい。その方が安心できる。
心の中でそう呟きながらも、くきは表に出さず、両手を合わせて彰に差し出し、キーを受け取ろうとした。
田中彰は渡す前に尋ねた。「大丈夫か?」
大丈夫じゃなくても、大丈夫と言うしかない。くきはきっぱり答えた。「問題ありません」
もし未来を知っていたなら、この四文字は絶対に口にしなかっただろう。
*
田中彰からキーを受け取り、隣に停まっている車を見た。昨日のロールスロイスではなかった。――当然だ。修理に出したに違いない。あんなに壊されたのだから、乗り回すわけがない。
明らかに田中彰は昨日のことを忘れておらず、助手席に座ると意味ありげに言った。「ゆっくりでいい。急いでないから」
――人は恥ずかしいとき、一秒で八百の無駄な動きをする。これ本当。くきは耳を掻き、頬を触り、髪を直し、最後に苦笑して言った。「昨日は本当に偶然だったんです」
「ああ。わざとだとは思っていない」
「……」
汗をにじませながら、くきはさらに説明した。「植え込みから野良猫が飛び出してきて、避けようとして……それで車にぶつけてしまって」
「知っている」田中彰は見ていた。彼女がその猫を抱えて去るのも。
それ以上は言わず、くきはシートを調整し始めた。だが専属ドライバーの体格に合わせた座席は合わず、調整が必要だった。
だがボタンを押し間違え、背もたれがゆっくり倒れ始めた。
不意を突かれたくきはそのまま仰向けになり、後部座席の彰と目が合った。
田中彰「……」吉田くき「……」
――空気が凍る瞬間が一番怖い。
逆さの角度から見ても、彼の顔は完璧だった。顎のラインも、眉も、目も、全てが整いすぎていて反則級。くきは場違いにもそう思った。
自分の顔が真っ赤に染まっていることなど知らずに。
やっとシートを戻し、自分の体格に合わせると、新たな問題が浮上した。「すみません、エンジンのスタートボタンはどこですか?」
田中彰「……」
――問題ないって言ったのは誰だ。
彼は仕方なく身を乗り出し、彼女の肩越しに手を伸ばしてボタンを押した。そして再び座り直し、なお不安げに上部のグリップを握り、「待て」と制した。
「ど、どうしました?」
くきは唾を飲み込み、赤い顔で彼を見つめた。
田中彰は目を閉じ、穏やかに言った。「免許証を見せてもらえるか。まさか偽造じゃないだろうな?」
くき「……」