章節 9: 煽りマスター、起動
編輯: Pactera-novel
奈緒が車で到着したばかりで、そばに女性の友人を連れ、和久と何やら話をしていた。
目ざとい彼女はすぐにそれに気づき、一瞬きょとんとした後、可愛らしい笑顔を浮かべてこちらに手を振った。「お姉さん、こんにちは。お姉さんもここにいたのね」
そして傍らに座る和久を見て、品定めするように何度か視線を送り、笑顔を消して唇の端をなめ、頭を下げた。「和久お兄さん、私は、伝えたいことがあるの。ちょうどお姉さんもいるし」
和久のハンサムな顔には特に表情がなかった。「何の用だ」
「私、勝手に間違ったことをしてしまったの」
「ん？」
「私、一時間ほど前に、和久お兄さんの名前を使ってお姉さんに避妊薬を渡したの」奈緒の声は次第に小さくなり、頭もどんどん下がっていった。「分かってるの、目的は和久お兄さんのためでも、そんなことをすべきじゃなかった」
謝る態度は非常に良く、小さな顔をすくめて、さらにいくつか言葉をつぶやいた。「私も一時の衝動だったの。あなたのことを心配しすぎて、状況をちゃんと理解してなかったの。たぶん、あなたがお姉さんにも以前のフィアンセたちと同じように接していると思って……避妊薬を飲ませるのも彼女のためだと勘違いしてたの」
避妊薬を渡したことについて、以前なら奈緒は無視できたかもしれない。だが今この少女がこう言ったことで、それは単なる過ちの自覚ではなく、さらなる火種となっていた。
それではそのままにしておくわけにはいかない。
「和久、私と同じで初めてだと思ってたのに……あなた、以前の婚約者たちとは全員寝たの？」
奈緒とその友人は唖然とした。まさかこんな率直な質問が飛び出すとは思ってもみなかった。
二人はそろって和久に見物人のような視線を送った。彼女たちは和久のことをよく知っている。こんな口調でこんな話を、しかも皆の前で言われたら、和久の面子はどこに置けばいいのか。
愛美は席を見つけて座り、怠惰にソファのクッションに寄りかかり、目は冷静で少しも恐れを見せなかった。
和久の眉は寄せられていた。向かいに座るこの女性の、まったく動じない様子を見て、どういうわけか心の中で燃え上がりかけていた怒りが少しずつ消えていく。それでも口調はまだ荒かった。「彼女たちとは寝ていない。こんな質問、二度とするな。バカ」
奈緒は危機を察知したが、それを顔には出さず、相変わらず可愛らしい笑みを浮かべた。「あはは、お姉さんと和久お兄さんって、まるでイチャイチャしてるみたい」
愛美がそう簡単に彼女を許すはずもなく、さらに畳みかけた。「彼の以前の婚約者たちはみんな死んじゃったのよ。だって、私だけこうして元気に座ってるもの」
「あはは、そうですね、そうですね」奈緒の友人は笑って場を和ませた。「以前の方々は橋本さんとは比べものになりませんわ。あの方たちには、和久様のそばにいられる運がなかったんですの」
愛美はわずかな言葉で、自分の立場をしかるべき位置に据えた。
美しい笑みを浮かべ、桃の花のような瞳が艶やかに揺れた。「私たち夫婦が子どもを作るか、いつ作るか、奈緒さんに勝手に決める権利はないわ。幸い、私は君の言うことを真に受けて避妊薬を飲んだりはしなかった。そうじゃなければ、和久に誤解されるところだったわね」
奈緒は内心で恥ずかしさと苛立ちを覚えたが、表面上は笑顔を崩さなかった。「全部私が悪いの。お姉さんにお詫びします。そうですね……今度時間があれば、私がお食事に招待します。市内で一番高いホテルレストランを選びますから、いかがですか？」
愛美は口の中のブドウの皮を吐き出し、赤い唇が艶やかに光った。「じゃあ、レストランを丸ごと貸し切りにしてちょうだい。私の友達全員と中村家のみんなも連れて行くわ。食べて飲んで遊ぶ、フルコースで楽しめるように、ちゃんと用意してね」
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