章節 7: パパが帰ってきた！
編輯: Pactera-novel
空は躊躇した。
心が動かないと言えば、それは嘘だ。
四年間会っていなかったパパが目の前にいる。彼が承諾さえすれば、すぐに律の名前でパパのそばに残ることができる。
彼は正々堂々とパパと呼ぶことができる。
空が躊躇している間に、律はタブレットでさらに一言付け加えた。「安心して。たった一日だけでいいから。必ずママを返すよ」
空は首を振った。「ママを取られるのが怖いわけじゃないよ。でも、僕たちが入れ替わったら、ママはきっと気づくよ。ママはパパのことになると、いつも拒絶的だから。何があったのか分からないけど、ママを少しでも悲しませたくないんだ」
彼は、ママが自分がこっそりパパに会いに行ったことを知って、不機嫌になるのが怖かった。
また、パパのそばに残ったら、もう離れたくなくなるのも怖かった。
空がそう言うのを聞いて、律は少し残念そうに頷き、タブレットに新しく入力した。「わかった」
三人の子供たちの間に、一時的な沈黙が訪れた。
節子はソファにどかっと座り、赤ちゃんのように丸い頬を両手で支えながら、少し憂鬱そうにつぶやいた。「はぁ…これからどうしよう？本当に、パパとママがまた一緒になってくれたらいいのに。そしたら、私たち五人家族になれるのに」
空は少し黙ったあと、律をじっと見つめて尋ねた。「もし、最初にパパが何か悪いことをして、それが原因でママが去ったのだとしたら…君は僕たちと一緒に、ここを離れる気はある？」
彼は、最悪の事態を想定していた。
もし本当に、パパがママに対して何か悪いことをしていたのなら――
彼は、家族が再会するという夢を、迷いなく諦めるだろう。たとえそれが、四年間ずっと夢に見てきた“パパ”であっても。
空の視線を感じて、律の眉がわずかにひそまった。彼はタブレットにこう打ち込んだ。「パパがママに悪いことをしたなんて、思えない。僕はパパを信じてる」
二人の少年の視線が空中で交差し、
場の空気が一気に凍りついた。
「喧嘩するの？」節子はソファから立ち上がり、両手を伸ばして二人のお兄ちゃんの手を握った。「今は力を合わせて、パパとママが別れた理由を見つけなきゃ。もしかしたら、二人はただの誤解で離れただけかもしれないよ。節子は、ママのこともパパのことも信じてる！」
雰囲気は少し和らいだ――
その時、
オフィスのドアノブが静かに回った。
誰かが、入ってこようとしていた。
律は眉をひそめ、素早くタブレットに書いた。「パパが戻ってきた！」
ドアの外。
漣は軽くドアノブを回した。
だが次の瞬間、彼の端正な顔にわずかな異変が走った。
――内側から鍵がかかっている？
後ろにいた秘書が異変に気づき、すぐに口を開いた。「長谷川様、すぐに予備の鍵を持ってきます！」
漣は眉をひそめ、すぐに携帯を取り出して位置情報を確認した。
律はオフィスの中にいた。
そして、位置情報の動きを見る限り、律は今も活動中で、異常は見られない。
漣は無意識に、律が自分と遊んでいるのだと思い、指を曲げてドアをノックした。「律、開けなさい」
部屋からは返事がなく、近づいてくる足音も聞こえなかった。
漣の表情はついに沈み、横にいる秘書を一瞥して言った。「予備の鍵を持ってきなさい。すぐに」
「はい！」
秘書が鍵を取りに行こうとした瞬間、
別の機転の利く秘書が廊下の反対側から息を切らして走ってきた。「長谷川様、鍵です！」
オフィスのドアが開くと、
漣の視線は部屋の中で二つに割れたノートパソコンを直そうとしている律に固定された。彼は一瞬言葉を詰まらせて言った。「…ドアを開けなかったのは、俺に怒られるのが怖かったからか？」
律は慌てた表情を浮かべ、割れてしまったノートパソコンを背中に隠そうとした。
漣は黙り込んだ。
彼の息子はいつも他の子の模範であった。
しかし、いつからこんないたずらを覚えたのだろうか？
しかし、息子の顔に浮かぶ緊張を見て、漣は怒らずに律の側へ歩み寄り、そっと髪に触れた。「自分を傷つけなかったか？」
律はためらいながら首を振り、無邪気な表情でパパを見上げて言った。「パパ、怒ってないの？」
「パソコン一台くらい、大したことないさ」漣は壊れたパソコンをどけ、驚いた子鹿のように震える律を優しく抱き上げた。「君が無事ならそれでいい」
まだ完全に心を開いていない律の小さな顔が、漣の肩にそっと寄せられた。律は小さな両手で漣をしっかりと抱きしめた。
この時、
漣は床に倒れている別の秘書に気づいた。彼は眉をひそめ、すぐに命じた。「彼を運び出せ。通達を出して、今後は出勤させるな」
彼には役に立たない部下を秘書にする必要はない。
警備員が人を運び出すと、オフィス内は再び静寂に包まれた。
ただ、空気の中には、懐かしくもどこか見知らぬ匂いが漂っていた。
まるで、誰かが来ていたかのようだった。
漣はソファに腰掛け、黒い瞳で静かに息子の律を見つめた。「さっき、誰が来た？」
「…僕の友達です」律は緊張した表情で手話を使い、答えた。「パパ、もし嫌なら、もう彼らを会社に呼びません」
「君が友達を作ったことを、パパはとても嬉しく思っている」漣の表情は和らぎ、声もさっきより優しくなった。「君が喜ぶなら、彼らを家に招待してもいいよ」
律の目がぱっと輝いた。「パパ、本当？」
彼のパパは、これまで見知らぬ人を家に連れてきたことがなかった。
律もずっと知っていた。パパは潔癖症で、見知らぬ人が来るのを好まなかった。
しかし今回は違った。
これがパパが初めて、彼の友達を家に招待することを許可したのだった。
律は少し興奮し始めた。弟と妹を家に招くチャンスができたのだ！
彼がこんなに興奮しているのを見て、漣は少し微笑み、息子の頭を優しく撫でた。「ああ、もちろんだよ」
「ありがとう、パパ！」律は手話でそう答えた。
律にはいつも昼休みの時間があった。
午後、
律が昼寝をしている間、漣は謎の神谷教授の資料に目を通していた。
確かに天才だ。
二年間で、医学界の大小さまざまな賞をすべて獲得していた。
さらに、この神谷教授が手がけた全ての手術は、例外なく完璧に成功していた。
その中には、非常に高度な手術も少なくなかった。
しかし、これらの事実だけでは、いわゆる神谷教授が律の病気を治せる能力を持っていることを証明するものではなかった。
目を上げ、漣はすでに熟睡している律を見つめた。
外部の人間は皆、長谷川家の坊ちゃまが生まれつき口がきけないことを知っている。
しかし、遺伝子に問題があったために律がこうなったことを知る人はいなかった。
もし、律の病状をこれ以上コントロールできなければ、次の結果は――。
漣の顔に厳しさが宿った。
いわゆる世界トップレベルの専門家たちが治療法を見つけられないのなら、神谷教授に一度試してもらう価値はある。
すぐに、
漣は凌介に電話をかけた。「医者はまだ見つからないのか？」
電話の向こうで、短い沈黙の後、凌介は渋々口を開いた。「…長谷川様、申し訳ありません。あの教授の行動経路はすべて隠されており、現時点で居場所を突き止められていません…」
漣の顔は再び冷たくなった。「俺が直接処理する」
「長谷川様、あ、あなた様が直接調査されるんですか？」電話の向こうで、凌介は興奮を隠せずに言った。「長谷川様、では良いお知らせをお待ちしております！」
すぐに、
その謎の神谷教授に関する重要な情報が、漣のコンピュータ画面に表示された。
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