章節 9: 第9章 ピュアハート
「お手を貸していただき、ありがとう。私は風火工房の風間猛だ」傍らの風間が感謝の意を込めて拱手し、紅舞紅人が落とした装備に一切の未練を見せなかった。
荻原は波光の剣をしまい、何とも言えない笑みを浮かべた。「気にするな。あいつらのやり方が気に入らなかっただけだ」
「紅舞の連中は本当に酷い。今後は彼らと絶対に相容れない。しかし、君の実力は恐ろしいほどだな」紅舞工房について話すと、風間は義憤に駆られた様子を見せた。だがすぐに先ほどの戦闘を思い出し、目に恐怖の色が浮かんだ。1対6で完勝とは、目の前の暗殺者は一体何者なのか！
「ははは、君も相当だぞ」荻原は乾いた笑いを漏らし、謙遜はしなかった。先ほどの状況は極めて幸運だった。風間が紅舞紅人を引き付けなければ、他の者たちが有効な攻撃を組織できず、荻原に一人ずつ倒されることもなかっただろう。荻原の操作がどれほど優れていても、7人全員を殲滅するのは不可能だった。それに荻原は装備の優位性も持っていた。現段階で青銅装備ですら珍しいのに、白銀やゴールド装備を身に纏った彼の属性値は一般の者とは比べ物にならなかった。
しかし風間が同時に三人の経験者相手に数分間耐えたのは、荻原にとって意外だった。彼もゴールド装備を持っているのだろうか？
「君は褒め過ぎだ。これがあったから何とか持ちこたえられただけさ」風間は気まずそうに言いながら、バッグから赤い薬を取り出した。
風間の手に赤く光る薬を見て、荻原は少し驚いた。「それは初級回復薬剤か？」
「目がいいね。うちの工房だけが持っていると思っていたが、君も持っているのか？」風間は少し不思議そうだった。これは彼らの工房が総力を挙げてモンスターを倒し、百銀級宝箱を開けて手に入れた初級回復薬剤のレシピだった。このレシピのために風火工房は膨大な資金と労力を費やした。ゲーム全体でもこの回復薬はとても珍しいのに、荻原が一目で見分けたことに彼は非常に驚いた。
荻原は苦笑し、首を振った。「持っていないよ。公式サイトで見たことがあるから、見分けられるだけだ」
「すごいな。技術が高いだけでなく、知識も豊富だ。しかし、なぜ君のレベルは…」風間は非常に困惑していた。荻原のレベルが高ければ理解できるが、レベル1のプレイヤーがレベル4のプレイヤーを7人も倒すなんて、どうしても納得できなかった。
荻原は再び苦笑した。もし彼がゲームに入って4時間も経っていないと知ったら、どんな顔をするだろう。「昨日クエストをこなしているときに4回連続でやられてしまった。そうでなければ私ももうレベル4になっているはずだ」
「君を4回連続で倒せるクエストとは、きっとA級以上のものだろう」風間は分かったような顔をした。
ゲーム内のクエスト難易度は高いものから低いものまで、S、A、B、C、D、Eランクに分けられる。傭兵ホールでクエストを受けられるほか、一部のNPCからもクエストを受けることができる。
「ああ、確かにA級クエストだった」仕方なく、荻原は嘘をついた。今の状況では、否定しても風間は信じないだろう。
「すごい！君は本当に凄いな。A級クエストをクリアできた人の話は聞いたことがなかった」風間の目はハートマークで輝いていた。荻原がこれほど強いのは、きっとそのクエストをクリアしたからだ。A級クエストの報酬は当然豪華なはずだ。
「ははは、それはともかく、初級回復薬剤はたくさんあるのか？いくつか売ってもらえないか」荻原は恥ずかしそうに話題を変えた。初級回復薬剤こそ彼が最も欲しいものだった。
「何を言っているんだ。君は私たちをこんなに助けてくれたのに、お金なんて取れるわけがない！我々の工房の面目が立たないよ。ただ、今持っているのは5個の初級傷薬だけだ。まずはこれを使って、足りなくなったらまた私を探してくれ」
風間の気前の良さに荻原は好感を抱いた。システムショップでは非戦闘状態でHPやMPを回復できるパンと水しか売っていない。初級回復薬剤はゲーム序盤では非常に貴重なアイテムで、市場に出せば少なくとも1銀貨以上の値がつく。闇市場では1枚の金貨が千円以上の高値で取引されているのだ。
「ありがとう」荻原も遠慮せずに風間が差し出した初級回復薬剤を受け取った。人の物をもらうと義理が生じることは分かっていたが、危機的状況で命を救うこの初級回復薬剤は断れるものではなかった。
初級回復薬剤：使用後、瞬時にHP100ポイントを回復する。クールダウン30秒。
「冗談言わないでくれ。感謝すべきは私のほうだ」
「いいんだ。私はクエスト報告に急いでいるから、先に行くよ」
「わかった。私も復活ポイントで友人を迎えに行かないと」
そう言って、二人は鳴砂町へ向かった。道中で互いに友達登録をし、町に着いてから別れの挨拶をして分かれた。
荻原は町に戻ると、まず三つのクエストを報告し、30枚の銅貨の報酬を得た。経験値も92％に達し、もうすぐレベルアップできそうだった。
人で溢れる大通りに来ると、荻原は自分のバッグには波光の剣の他に、暗殺者の紅舞不死身が落としたレッグガードもあることを思い出した。
便利な脚防具：（無属性装備）
脚甲類の物理防禦+5、魔法防禦+3
装備条件：レベル1、戦士、暗殺者、剣士、弓兵限定。
「ないよりはマシだな」荻原は便利な脚防具を装備し、文句も言わなかった。防禦力が少しでも高いほうがいい。
荻原は通りの端に空いている場所を見つけ、露店を開いた。店の名前は「青銅級片手剣販売」。店全体には波光の剣というたった一つの武器だけが置かれ、価格は30銀貨となっていた。
突然現れた露店はすぐに散策中のプレイヤーたちの注目を集めた。現段階では品質装備はまだ比較的稀少で、一般のプレイヤーは自分が使えない品質装備を手に入れても通りに店を出すよりも、自分の職業の装備と交換することを選ぶだろう。しかし荻原が今最も欲しいのはお金だった。お金があれば次の計画を実行できる。
荻原の露店の前には多くのプレイヤーが集まっていたが、ほとんどは物見遊山に来ただけだった。この段階では一般のソロプレイヤーはそれほどの大金を持っていないからだ。
荻原は無表情で店の後ろに立ち、声を出して客を呼び込むこともせず、静かに買い手を待っていた。一般のプレイヤーには波光の剣は手が出ないが、工房やギルド、あるいは比較的強力なソロプレイヤーならこの金額を払えるはずだ。
「店主さん、この剣を安くしてくれないか。25銀貨で買うよ」
荻原は声の方向に目をやり、値切っている人を見つけた。顔立ちの整った若い剣士で、名前を隠していなかった。「純情男子」という名前で、おそらくソロプレイヤーだろう。
荻原は彼を数回見つめ、断固として言った。「定価だ。28銀貨。買わなければ結構」
「考えさせてくれ...」純情男子は荻原が故意に値段を吊り上げている様子はなく、この波光の剣の性能も非常に良いのを見て、しばらく考え込んだ。顔に決意の色が浮かび、「わかった、買う」と言った。
「OK！」荻原は気合いを入れ、すぐに露店を片付け、純情男子にトレード申請を送った。
ゲーム内でプレイヤーが装備を売買する際、通常は露店で直接購入することはせず、価格を決めてから露店を閉じて直接取引することが多い。こうすることで、システムが徴収する1％の露店税を節約できる。
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