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36.84% 五度裏切った夫に、絶望を贈る / Chapter 7: 第07話:最後の期待

章節 7: 第07話:最後の期待

第07話:最後の期待

レストランの暖かい照明の下で、雫は自分の皿を見つめていた。シーフードパスタの湯気が立ち上っているが、食欲は湧かない。

彰は美夜の隣に座り、楽しそうに話している。

「このチーズフォンデュ、昔よく食べたよな」

「覚えてる!彰さんがいつも私の分まで食べちゃうの」

美夜が笑いながら答える。彰も嬉しそうに頷いた。

雫は静かにフォークを置いた。

「気分が悪いから、先に帰らせてもらう」

彰が振り返る。

「え?まだ食事の途中だろ」

「つわりがひどくて」

雫は立ち上がろうとしたが、彰は美夜の口元についたソースをナプキンで拭いてやりながら答えた。

「先に帰ってていいよ。美夜が食べ終わったら、すぐに戻るから」

その瞬間、雫の心に冷たいものが流れた。

妊娠中の妻より、幼なじみを優先する。

「わかった」

雫はバッグを手に取った。その時だった。

「火事だ!早く逃げろ!」

誰かの叫び声と共に、けたたましい火災報知器のベルが店内に響き渡った。

客たちが一斉に立ち上がり、出口に向かって殺到する。椅子が倒れ、皿が割れる音が響く中、雫は反射的に彰を探した。

彰は——

美夜を抱きかかえて、一目散に店外へ走っていく。

雫のことなど、まるで存在しないかのように。

妊娠中の妻を完全に忘れて。

雫は人波に押し流されながら、ゆっくりと店外に出た。心臓の鼓動が妙に静かに聞こえる。

十分ほどして、誤報だったことが判明した。

人々がぞろぞろと店内に戻っていく中、彰と美夜も姿を現した。

「お前のことは、一生守るって」

彰が美夜の耳元で囁いている。

美夜は彰の胸に顔を埋めて、小さく頷いた。

雫は二人を見つめながら、ある記憶が蘇った。

三年前の山登り。雫が足を滑らせて崖から落ちそうになった時、彰は美夜の手を握ったまま、雫に「自分で何とかしろ」と言い放った。

あの時と同じだ。

ようやく、雫は悟った——これまでの何年もの間、彰は一度だって、自分を愛したことなどなかったのだ。彼の心の中で、何よりも大切なのは、いつだって初恋のような存在、美夜だけだった。

「雫」

彰が慌てたように近づいてくる。

「すまん、美夜は芸能人だから、絶対に怪我させるわけにいかなかったんだ」

雫は静かに彰を見上げた。

「わかってる」

「え?」

それ以上、聞く必要はなかった。

美夜が急に咳き込み始める。

「大丈夫か?」

彰は再び雫を放置して美夜の元へ駆け寄った。

「家まで送るよ。車、呼ぶから」

「ありがとう、彰さん」

美夜が弱々しく微笑む。

雫は二人の様子を静かに見つめていた。そして、初めて心の底から微笑んだ。

もう、何も期待しない。何も求めない。


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