楊超がグラスを掲げて言った。
「なあ、陳さん、このロイヤルエンターテイメントKTV、気に入った?」
「ハッ、Z県から来たお方だろ?C州のこんなショボい場所、目に入るわけないよな」俊さんが隣で鼻で笑う。
陳凡眉をひそめて、ガラスをテーブルにバンッと置いた。皮肉げに言った。
「楊超、わざとケンカ売ってんのか?」
「んなわけねえだろ。陳大兄、めっちゃイケてるじゃん。そこにドカッと座って飲み食いしてるだけで、俺なんかが絡む隙ねえよ」楊超の声、嫌味たっぷりだ。
「もうやめてよ」姜初然が陳凡をギッと睨んでから、楊超の方に顔を向ける。「今日、萌萌の誕生日なんだから、騒ぎ起こさないでくれる?」
「オッケー、オッケー、ミスキャンパス姜の顔を立てるよ」楊超、わざとらしく両手を挙げて降参のポーズ。
陳凡の顔は変わらないけど、内心、ムカつきが溜まっていく。
.....
しばらくして、俊さんの連れてきたキレイな女が「トイレ行ってくる」と席を立つ。
今日の誕生日パーティー、彼女、気合入ってる。ナイトクラブみたいな派手な服、スタイル抜群、ばっちりメイクにハイヒール。
なのに、トイレ出て鏡でメイク直してたら、いきなり背後からバシンッと叩かれた。キャーッと叫び声が響く。
ちょうど彼女を探しに来た俊さんがその声を聞いて、ダッシュで駆けつける。
そこには、彼女がでっぷり太った中年男に髪を引っ張られて、ビンタされてる。男、口汚くまくしたてる。「このクソ女、純情ぶってんじゃねえ!俺に手ぇ上げやがったな!?」
俊さん、丁俊飛って名前だ。家は服飾工場やってて、数十億円の資産持ち。顔が広くて、場慣れしてる。
普段は楊超と一緒に衆興区でつるんでるから、誰も逆らわない。こんな場面、黙ってられるわけがない。一気に突っ込んで、そいつにガツンと一発。デブ男、地面をごろごろ転がる。
「テメェ、俺の女に手ぇ出すとか、死にてえのか、このデブ豚!」俊さんはさらに何発か蹴り入れて、そいつ、ギャーギャー喚く。
中年男は這う這うの体で立ち上がると、俊を指差して叫ぶ。「ガキ、覚えてろ。名前言ってみろよ、ぶっ潰してやる!」
「お?いいぜ。俺、丁俊飛、クイーンホールにいる。かかってこいよ!」
丁俊飛は彼女の仇を取って、気分スッキリ。彼女の手を引いてクイーンホールに戻る。
友達に何があったか聞かれて、内心ドヤ顔なのに、表面はクールに装う。「別に。さっき、晋西省あたりから来たらしいデブ豚がいた。欣をナンパしようとして、俺に何発か蹴られて逃げてっただけ」
欣は彼の新彼女。付き合いたてでラブラブ、他の男に触られたらブチギレ案件だ。
「お前、すげえな!」友達が肩をポンと叩く。丁俊飛は得意げに鼻高々。
「でもさ、ここ、俺らの地元じゃねえし、変な奴に絡まれたら面倒だぞ。気をつけた方がいいかも」親がそこそこ金持ちの奴が心配そうに言う。
「もういいよ、飲み物もなくなったし、そろそろ出よう」姜初然が立ち上がる。
女の子の彼女、こういうトラブルが大っ嫌い。後でどんな仕返ししたって、目の前で嫌な思いするのは自分だもん。
「大丈夫だって。どうしてもヤバかったら、超超の親父に頼めばいいじゃん。五つ星ホテル経営してるんだから、怖いもんなし!」張雨萌が姜初然の肩を抱きながら、誇らしげに言う。
楊超は隣でニヤッと笑う。親父のコネとやり手に、めっちゃ満足げ。
グラスを掲げて言う。「然然、怖がらなくていいよ。こんなに大勢いるんだ、ビビることないって。まだまだ遊ぼうぜ!」
その言葉に、みんなグラスをガチャガチャ上げて賛同。姜初然は、みんな帰る気ゼロなの見て、立ったままモジモジ。
そもそも、こいつら、世の中ひっくり返したって怖がらない金持ちのボンボンたち。美人揃いの前で酒入ってるし、天まで騒いだって平気な面々だ。
陳凡は眉をピクッと動かす。前世でこの話、聞いたことあるって、ようやく思い出した。
あの時、丁俊飛はC州のヤバい大物に絡んで、ボコボコにされたんだっけ。まさかここでの話だったとは。今、ちょうどいい。姜初然連れて帰れば、こっから先の面倒に巻き込まれずに済む。
彼はその流れで立ち上がって言う。
「然然、もうこんな時間だ。唐おばさん、家で待ってるよ。そろそろ帰ろうぜ」
その言葉に、張雨萌の顔はガラッと変わる。
「は?何?然然連れて帰る?誕生日パーティーの続き、参加しないってこと?」
「そうそう、お前、誰だよ?なんで然然に指図してんの?」別の女がキンキン声で絡んでくる。
楊超も首を振って、不満げに言う。
「なあ、兄弟、そりゃちょっと意味わかんねえよ。俺らと遊んでて、楽しくねえってか?」
「嫌なら、お前だけ先に帰ってもいいぜ。でも、ミスキャンパス姜が帰るかどうかは、本人に聞かなきゃな」
楊超のその言葉、姜初然をガッチリ壁に追い詰める。明らかに、陳凡と友達みんな、どっち取るか選ばせる気だ。みんなくそくらえの視線が姜初然に集中。陳凡も姜初然を見る。
姜初然は、内心で舌打ちしただろうな。でも、選ばなきゃいけない。だって、片方はただの知り合い。もう片方は小さい頃からの親友と仲間たちだ。
眉をクッと寄せて、でも最後にはニコッと笑う。「みんなまだ遊びたいなら、もちろん付き合うよ」
そう言って、陳凡をチラッと見ずに言う。「一人で帰ってください。お母さんに伝えておいて」
明らかに陳凡というよそ者は、彼女の心の中では親友や仲間たちほど重要ではなかった。
張雨萌は彼女の肩をバンッと叩いて、隣にグイッと引き寄せる。チュッと頬にキス。「これぞ私の最高の親友!」
彼女は軽蔑した表情で陳凡を見て、ドス効かせて言う。「然然がこう言ってるんだ。陳さん、さっさと消えなよ」
言い終わると部屋中に笑い声が響き、皆がそこに一人で立ち、孤立した少年を見た。まるで彼の分不相応さを嘲笑うかのように。
「一緒に来た仲間にも見捨てられたお前、どんな顔してここにいられんの?」ってな。
許蓉妃は横で焦って姜初然の袖を引っ張ったが、明らかに彼女は自分の決断を変えるつもりはなかった。
姜初然は心の中で少し後悔していたが、この時点で考えを変えれば、張雨萌と楊超を完全に敵に回すことになると分かっていた。
そうなると、決断すべきときに決断しないと、かえって苦しむことになる。
陳凡はその場に立ちすくみ、思わず頭を振った。
もういい、彼女が行きたくないなら、自分が心配する必要はない。まさに呂洞賓に犬が噛みつくようなもの、善意が理解されないのだ。
彼が帰ろうとした瞬間、なんかピンときた。動きがピタッと止まる。心の中でニヤッと笑う。
「マジか、思うそばから来やがった。こりゃ、帰りたくても帰れねえな」
「こいつら、このピンチをどう切り抜けるか、見物だぜ」
.....
さて、その太った中年男は怒りに満ちて帝王ホールのドアを押し開けた。
帝王ホールは非常に広々としており、内装は極めて豪華で、高級カーペット、可動式液晶テレビウォール、イタリア製の本革ソファがあった。
ソファの中央には、中山服を着た男が座っていた。
皆が彼を中心に囲み、まるで星々が月を取り巻くように、一目で富豪級の人物だとわかった。
太った中年男が怒鳴り込んできたの見て、彼はビックリした顔で言う。
「張社長、これはどういうことだ?」