章節 10: 壁の向こうにイケメンがいる（10）
編輯: Inschain
執事はまるで操り人形のように、突然動きを止めた。彼女は今の涼が怒りの極みにあることを見て取り、燿子のことが心配で、階段に立ったまましばらく躊躇した後、勇気を出してもう一度口を開き、涼を諭そうとした。「有栖川……」
「出ていけ！」
涼のたった一言で、執事は全身が震え上がり、逃げるように階段を駆け下りた。
執事の部屋のドアが重々しく閉まると同時に、入り口に立っていた涼は突然歩き出し、燿子に向かってまっすぐ進んでいった。
彼の足取りはとても遅く、分厚いカーペットの上を踏みしめても、まったく音を立てなかった。
普段の涼でさえ人に恐怖を与える存在だが、今の彼は、本能的に逃げ出したくなるほど恐ろしかった。
燿子は恐怖で胸が締め付けられ、一方では抱えていた着替えの下着をしっかりと握りしめながら、もう一方では震える足でゆっくりと後ずさりした。
彼女の動きは彼よりもはるかに遅く、彼が一歩一歩近づき、ついに彼女の前に立ちはだかるのをただ見つめることしかできなかった。
彼の接近によって、彼女はますます恐怖を感じ、彼と目を合わせる勇気もなく、うつむいたまま視線をさまよわせるだけだった。
彼女は彼よりもずっと背が低く、彼は頭を下げて彼女の頭頂を見つめていたが、突然何の前触れもなく手を伸ばし、彼女の後頭部の髪をつかんで下に引っ張り、彼女の小さな顔を上向きにさせた。
突然の痛みに、燿子は思わず口から言葉が漏れた。「涼……」
たった二文字だったが、それは涼の瞳孔を収縮させ、彼女の髪を掴む力が急に強くなった。「今、何て呼んだ？」
燿子は痛みで顔色が青ざめ、唇を動かして必死に言い直した。「有栖…有栖川さん……」
涼の目の奥に冷たい笑みが走った。彼はこの問題にこれ以上こだわらず、すぐに身を屈めて彼女の唇を奪った。
実際にはキスというより、正確には噛みついていた。
彼は彼女の感情など一切気にせず、復讐するかのように彼女の固く閉じた唇をこじ開けた。彼が使った力はとても強く、ほんの二、三回で彼女の舌から血が出て、血の味がすぐに二人の唇の間に広がった。
燿子は痛みを感じ、本能的に舌を引っ込めようとしたが、彼女が逃げれば逃げるほど、彼の力はより強引になり、二人の口の中の血の味はより濃くなった。
最後には、燿子は吐き気さえ感じ始めた。彼女の力が涼の力に敵わないにもかかわらず、必死にもがき始めた。
涼は彼女のもがきなど全く気にせず、彼女の舌をつかんでもう一度強く噛みついた。燿子が痛みで体が硬直するのを感じるまで、彼は彼女の腫れた唇を解放せず、彼女の耳元に顔を寄せた。彼の言葉は甘美な調子で、音量も小さく、まるで愛の言葉を囁いているようだったが、その言葉は彼の吐く温かい息さえも凍りつかせるほど冷たかった。「俺の言ったことを屁とでも思ってるのか？」
「俺たちのことは、絶対に爺さんに知られるなって言ったよな？」
彼は目を細め、さらに続けた。「それとも、お前は独りで寂しくて、祖父が帰ってきたとたん、また同じ手を使って俺を呼び戻してお前を抱かせようとしたのか？」
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