江崎徹の家には姉が一人いるだけだった。血の繋がりはなくとも、実の姉よりも親しい存在だった。
両親については。
両親は天に召され、魔力は無限大、何でも好きなものは自分で手に入れるしかない。
影の暗殺者はとても強く、同じく隠し職業の一つで、暗闇の中では無敵の存在だ。敵を神も悪魔も気づかぬうちに暗殺することができる。
ピンポーン…
江崎はスマホを見た。高校三年三組の戦闘グループだ。
上のリストを見ると、すべて戦闘系職業に転職した生徒たちで、江崎を含めて合計10人がいた。その中には稲垣美雪と高橋実というAランクの隠し職業を持つ二人も含まれていた。
クラスには60人以上の生徒がいるが、戦闘職業はわずか10人だけで、残りは転職していない生徒か、生活系職業の生徒だった。
生活系職業は外に出て魔物を倒してレベルアップする必要はなく、彼らのスキルには戦闘能力が全くない。
担任が次のようなメッセージを送信した:「みんな揃ったね。7日後、学校は試練を行い、君たちはどの学校に合格したかが分かるよ。」
「だから7日以内に、みんなには頑張って修行して、10レベル以上に達するよう努力してほしい。10レベルに達してこそ、トップクラスの学院に入る機会があるんだ。」
「そのために、校長が君たちのためにサポート教師を手配してくれた。君たちが迅速に成長できるようにね。場所は青兎草原だ。参加してください。」
江崎はメッセージを見つめていた。
転職を終え、戦闘系の職業になれば、レベルアップを支援する教師がつく。7日以内に急速に実力を高めることを目指すのだ。
それは生徒たちの野外での実戦能力を鍛えるためでもあった。
庶民にとっては、確かに悪くない話だ。
しかし教師も少なく、一対一のトレーニングではなく、五人の生徒がチームを組み、教師が横で戦い方を指導するというものだった。
五人の生徒がチームを組むということは、経験値を分け合うことを意味する。
江崎はまだ早い段階で正体を明かしたくなかったし、経験値を分け合いたくもなかった。
江崎は引き続きメッセージを見た。
担任が続けた:「自由行動を希望する生徒は、名前を報告してください。」
稲垣美雪:「先生、私は自由行動で。」
高橋実:「先生、私も自由行動で。」
江崎は二人のメッセージを見た。美雪は稲垣一族の人間だから、強者が彼女をサポートし、初心者の期間を乗り切るのを助けてくれるのは間違いない。
高橋なんて言うまでもない。担任の甥っ子だし、学校が主催する活動に参加するわけがない。
一族を持つ者たちは、このような活動に参加することを軽蔑しているのだ。
江崎は素早く指を動かした:「先生、私も自由行動で。」
担任:「江崎、本当に大丈夫?7日後には試験があるよ。いい学府に入るためには、10レベル以上必要だけど、7日以内に10レベル上げられるの?」
江崎:「大丈夫です、先生。わかっています。」
担任:「わかった、気をつけるように。」
江崎:「アドバイスありがとうございます。」
……
別荘内。
美雪はメッセージを見て、心の中で疑問を抱いた。
江崎はなぜ自由行動を選んだのか?
彼の家には姉が一人いるだけで、その姉はSランクの影の暗殺者だが、今は竜の国最高峰の神龍学院にいる。
もしかして諦めて、自暴自棄になったのだろうか?
剣客はDランクの職業だが、転職していない生徒よりはずっといいし、生活系職業よりもずっといい。
美雪はスマホを手に取った。
……
江崎はパソコンを開き、新しいマップを探した。
ピン……
「友達リクエストがあります」
江崎は開いて見た。稲垣美雪?この女神が私を何のために追加するんだ?
承認。
美雪:「江崎、なぜ自由行動を選んだの?指導者がいるの?」
江崎:「いいえ、自分で野外に行って試練を受ける予定です。」
美雪:「自分で野外に行くのは非常に危険よ。転職後に多くの学生が自分で試してみたいと思うけど、サポート教師と一緒に訓練する方が安全だわ。」
江崎:?????
この女神が、なぜ突然私を気にかけるんだ?
ちょっと不思議だ。
江崎は返信した:「ご心配ありがとう。わかってます。」
「気をつけてね。」
「うん。」
江崎はスマホを脇に置いた。今は女神とチャットする気分ではなかった。
江崎はパソコンで初心者がどこで訓練すべきか調べていた。
翌朝。
江崎は静山市へ向かい、静山市の職業者ギルドを訪れた。
ここは静山市の職業者が集まる場所であり、職業者同士が取引をする場所でもあった。依頼を出したり、受けたり、そして魔法陣で転移する場所でもあった。
毎日多くの職業者がここを出入りし、人であふれていた。
ロビーには様々な職業者が集まっていた。
上半身裸で戦斧を背負い、強靭な筋肉を見せる獣族の戦士もいれば、エルフのような弓使いが弓矢を背負い、短剣を持っている者もいた。
魔法のローブを着て魔法の杖を持つ魔法使いや、十字架を背負った牧師もいた。
ペットを連れた召喚士もいた。
これらは全て初心者の期間を乗り越えた強力な職業者たちだった。江崎はそんな職業者たちを羨ましく見つめた。いつか自分もこの人たちのように、初心者の期間を乗り越えられるだろうか。
「新米、どいてよ」
江崎が振り返ると、豊満な若い女性がにこにこと彼を見ていた。江崎は少し距離を取った。
その女性は稲垣静香という名の弓使いで、後ろには何人かの強力な戦士がついていた。
数人の戦士は稲垣静香の後ろについて、ホールに入っていった。
静香は振り返って江崎を一瞥した。
他のチームメイトはにやにやと笑った。
「隊長、この若い子に興味あるの?」
「言われてみれば、この子結構かっこいいわね。家に囲っておくのもいいかも」
「確かにかっこいいよな。そうでなきゃ隊長も振り返って見ないだろう」
「彼はたぶん卒業したばかりの学生だろ。サポート教師と一緒に勉強するはずなのに、なぜ一人でここに来たんだろうな」
「俺と同じだな。転職に成功したら自分の実力を見せつけたくなるんだ。でも野外の魔獸はそう簡単には倒せない。賭けてもいい、野外に入ったら怖くておしっこ漏らすぞ」
「ははは…思えば俺たちもそんな時期があったな」
彼らは楽しく話しながら、江崎のような新米を全く気にかけていなかった。
江崎は前に進み続け、稲垣静香たちの後ろについた。江崎の目標は彼らと同じく、転移して野外に入り、魔物を倒して実力を高めることだった。
ロビーを通り過ぎ、チケット売り場に到着した。
江崎が列に並んで前に進み:「すみません、お姉さん。タテンス丘陵への転移符をください」
「少々お待ちください。料金は1000です。これが転移チケットです」
「ありがとう」
江崎は通路に沿って転移魔法陣の祭壇に入った。
横には目的地が表示されていた:
タテンス丘陵。
これが江崎の目的地だった。
祭壇には多くのルーンが刻まれていた。これが転移魔法陣で、何百キロ、何千キロも離れた場所に転移できる。
横には二人の係員が職業者たちを祭壇に誘導していた。みな三人五人のグループだった。江崎はチケットを渡して中に入り、祭壇の上に立ち、心の中でわくわくしていた。
白い光が閃き、転移魔法陣が起動した。
江崎は体が急に落下するのを感じ、そのまま地面に転んでしまった。
周囲の人々が好奇心をもって江崎を見ていた。
江崎は恥ずかしそうに急いで立ち上がり、服を整えた。
「これは間違いなく新入りの学生だな」
「本当に無謀だ。一人でタテンス丘陵に来るなんて」
「賭けてもいい。魔物を見たら、怖くておしっこ漏らすぞ」
静香は笑いながら言った:「あなたたちだってその年齢を過ごしてきたでしょう。何の資格があって人のことを言うの?少なくとも彼は一人で外に出る勇気がある。その勇気を褒める価値はないの?」
「静香、もしかしてこの若い子に目をつけたの?」
「この若い子はかっこいいね。野外で死ぬのはちょっともったいないな」
「へへへ…学生さん、気をつけてね。あなたの隣に立ってるのはブラック・ウィドウだよ。食べられないようにね」
静香は怒って言った:「あっち行きなさいよ」
皆は大笑いしながらその場を去っていった。
明らかに彼らはこの豊満な女性を知っているようだった。