冷酷社長の夜限定キス命令

作者: 南の小川が好きではない

章節 1: 違う人と寝てしまった

編輯: Pactera-novel

夜明けが迫り、薄明かりが差し込み始めたその時、清水美咲（しみずみさき）はホテルのスイートルームから、転がるように飛び出してきた。

エレベーターで下へと降りながら、美咲は慌ただしく身なりを整えていた。ふと胸元に目を落とすと、思わず眉をひそめた。

昨日、胸元の開いた服を選んできたことを、美咲は激しく後悔していた。胸元に刻まれた跡がすべて晒されてしまう。このまま外を歩けば、とても普通の女の子には見えない――そう思うと、胸の奥が締めつけられた。

「美咲？」

その声に、美咲の足が止まった。声の主が誰なのかはすぐに分かったが、顔を上げることはせず、手で顔を覆いながら足早に通り過ぎようとした。

しかし、相手は道を譲ろうとしなかった。美咲だと確信すると、あえて進路を塞ぎ、声を荒げた。「私が分からないとでも思ったの？美咲！」

「人違いですよ！」

「……ふーん、人違い？」

美咲が身をかがめて逃げ出そうとしたその瞬間、坂本琴音（さかもとことね）が素早く手を伸ばし、美咲の顔を覆っていた手を引き剥がした。「何を隠してるの？そんなに人に見られたくないものでもあるの？」

――本当に、見られたくないんだよ！

琴音に手を強く引かれた拍子に、美咲の首筋から胸元へかけての「跡」が、すべて白日の下にさらされた。

美咲は顔を上げ、琴音の仰天した表情を一瞥すると、もう隠すのをやめて堂々と胸を張った。「見られたくないから隠してたのに……どうしても見たいなら、見せてあげる。どう？すごいでしょ？」

「すごい」と口にするその時も、美咲は首筋に残る「跡」を隠そうともせず、堂々と琴音にさらしてみせた。

琴音は言葉を失い、思わず手で口を覆った。「まさか……昨夜、あなた……？」

美咲は耳の後ろに手をやり、少し照れくさそうに微笑みながら言った。「昨夜は、人と将棋を指してただけだよ」

「将棋？」

「うん、飛車がすごく強い相手と指してたの」

琴音は言葉を失い、目だけで美咲を追った。

美咲は琴音のいとこで、二人は相性が悪く、顔を合わせれば必ず対立していた。

今回、琴音は偶然、美咲のプライベートな出来事を目撃してしまった。しかし美咲はにこにこと平然と笑いながら言った。「大人なんだもの、普通に生理的な欲求があって当然よ。姉さんには、そういうのないの？」

琴音は本当のショックを隠しつつ、軽蔑の色を濃く浮かべた。彼女は、美咲がいつもこんな厚顔無恥な振る舞いをすることを知っていたのだ。「婚約者を裏切って、外で不倫するなんて――誰もがあなたみたいに恥知らずだなんて思わないでよ！品がなさすぎるわ！」

美咲は髪をかき上げ、三日月のような唇をわずかに吊り上げた。「なんでそんなに確信してるの？昨夜私と一緒にいた人は、婚約者じゃないのよ」

琴音は一瞬、言葉を失ったように固まった。

そして突然、何かを思いついたかのように、ホテルのフロントデスクの方へ足を向けた。

美咲は、琴音が昨夜の宿泊記録を調べようとしているのだろうと、すぐに察した。このホテルは琴音が小株主だから、調べることも可能だ。だが、美咲はそんなことなど気にしなかった。調べられたところで構わない。後ろめたいことなど、何ひとつないのだから。

……

小さなアパートに戻った美咲は、帰り道で買ってきた薬を手早く飲み、その後シャワーを浴びた。

シャワーを終えると、ようやく体が軽くなった気がした。しかし、腰にはまだわずかな痛みが残り、足も疲れていた。ホテルを出たときの、ふわふわと綿の上を歩いているような足取りを思い出すと、少し微笑んでしまった。

あまりに激しかった。真夜中を過ぎても続いたのだから。

美咲は心の中で文句をつぶやきつつも、つい思い出してしまった。池田正明（いけだまさあき）は、見た目がいいだけでなく、体力も驚くほどだった。

コンコンコン――

誰かがドアを叩いている。

美咲はふわふわとした足取りのまま、ドアを開けに向かった。

ドアの外に立っていた池田瑠璃（いけだるり）を見つけると、美咲はにこやかに彼女を招き入れ、ドアを閉めた。うれしいニュースを分かち合おうとしたその瞬間、瑠璃は慌てた様子で尋ねた。「美咲、昨夜、どうして電話に出なかったの？」

問い終えた直後、瑠璃の視線はふと美咲の首筋に向かい、そこに残る甘美な跡に気づいた。

瑠璃に首筋の跡を見られても、美咲はわざとらしく隠すことはせず、平然と電話に出なかった理由を答えた。「昨夜はスマホのバッテリーが切れて、自動的に電源が落ちたの。帰宅して初めて気づいたくらいで、今は充電中よ」

「じゃあ、昨夜は誰と一緒だったの？」

美咲は瑠璃を中に招き入れ、ドアを閉めてから振り返り、落ち着いた声で答えた。「昨夜は、確かに正明と一緒にいたわ」

部屋に入ると、美咲は冷蔵庫からソーダを二本取り出し、一本を瑠璃に軽く投げ渡した。

瑠璃の手は震え、ソーダを受け取るというより、まるで火の玉を抱えたかのように熱く感じられた。「美咲……これから言うこと、信じられないかもしれないけど、でも伝えなきゃ。正明は、昨日の午後、H国でのイベントに参加するため飛行機で出国してるの。まだ国には戻っていないのよ。だから、昨夜あなたと一緒にいたのは、正明じゃないの」

ボトルのキャップを開け、ソーダを口に運ぼうとした美咲の表情は、雷に打たれたかのように凍りついた。「……え？」

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