十五年を捧げても、愛は裏切りに変わった

松本詩織は十五年間、山口健人を一途に愛してきた。しかし出産の日、彼女は植物状態に陥ってしまう。
その耳元で、健人は甘く囁いた。
「詩織、二度と目を覚まさないでくれ。もう君には価値がない」

優しく思いやりのある夫だと信じていた男の本性は、嫌悪と利用だけだった。
さらに、命がけで産んだ双子の子どもたちは、病床の彼女の前で健人の本命の女を「ママ」と呼び、甘えていた。

詩織の心は完全に砕け散り、目覚めて最初にしたことは、迷いのない離婚だった。

──離婚後になってようやく、健人は気づく。
彼の生活の隅々に、すでに詩織の影が染み込み、彼女は欠かせない存在になっていたのだ。

再会の場、詩織は首席医薬専門家として堂々と姿を現し、輝くばかりの存在感で全ての視線をさらった。
かつては健人だけを見つめていた彼女が、今では一瞥すらくれない。

健人は「ただ怒っているだけだ」と思い込んでいた。
自分が口を開けば、必ず戻ってくるはずだと。
なにせ、彼女は骨の髄まで自分を愛していたはずだから──。

だがその思い込みは、長谷川家の新当主の婚約パーティーで打ち砕かれる。
そこには、華やかなウェディングドレスに身を包み、笑顔で長谷川徹の腕に飛び込む詩織の姿があった。
彼女の瞳は、愛情に満ち溢れていた。

健人は嫉妬に狂い、赤く血走った目でグラスを握りつぶす。
砕けたガラスの中から、鮮血が溢れ出した──。