赤々とした松明の炎が夜空に浮かび上がる、通称 炎城。
その城門が開かれ、ジリルがクロウを誘導しリリシーの前に現れた。
相変わらずボロ布が二足歩行しているような出で立ちだ。故にリリシーは、クロウがミラベルに鞭を打ち付けられた服の裂け目を見極めることは出来なかった。
リリシーのそばにはノーランがお付きで立っていた。
「クロウ ! 」
リリシーが安堵の色を浮かべてクロウに駆け寄る。
だが、クロウは何も見ていないかのようにそのまま城外へ歩いていく。
「ま、待って !
えと、ノーラン ? 朝までには戻るわ。町にも行かなきゃならないの」
「こんな夜更けにですか ? 僕はいいけど、マ……ミラベル様に断らないと……」
「ミラベル様には言ってあるから大丈夫よ」
リリシーはノーランにそう告げると、クロウと共に城を出ていった。
ノーランはそれをじっと見つめる。
揺れる白霧の様な髪に、自分を見上げた時の澄んだ瞳。自分と同じ剣を嗜む者でありながら、尊敬する母が唯一認めた魔法使い。それが宮廷魔術師の第一人者として赴任となる。
ジリルはノーランの様子にプッと吹き出す。
「まぁ、なんだ。お似合いなんじゃないか ? 」
「えぇ !? な、な、何がです !! 」
「嫁候補さ。ミラベル様は気位も高く、そうそうお前に女が出来るのは望まんだろうが、あの子は母上に気に入られたようじゃないか」
「ママが……あの子を気にしてるのは……そんなんじゃないです」
ノーランは父親であるスカーレット王の死因をミラベルと共謀して隠蔽した事実がある。
だが、それだけだ。
ミラベルの生い立ちや、あの祭壇の本来の意味を知らされていない。結局はリリシーだけがミラベルの素性を知る。
「宮廷魔術師の役職が遂に軍に出来るのだな。俺たち騎士団や兵とは普段は相容れない存在だが、手を取り合い上手く国の為に力を合わせなければならん」
ジリルは根っからの堅物ではあるが、大人としての切り替えはしっかりしている。