第11話:ゴミの中の最後の希望
[氷月刹那の視点]
雫が自分で燃やした。
俺たちの思い出を。
俺たちの写真を。
すべて。
「嘘だ......」
俺は床に散らばったスマホの破片を見つめていた。
雫がそんなことをするはずがない。
あの優しい雫が。
俺との思い出を大切にしていた雫が。
でも——
俺は立ち上がり、家中を駆け回った。
寝室。リビング。書斎。
どこを探しても、雫の痕跡は何一つ残っていない。
服も。
化粧品も。
本も。
すべて消えていた。
まるで、雫という人間が最初から存在しなかったかのように。
「そんな......そんなはずは......」
俺は膝から崩れ落ちた。
雫は本当に、俺との関係を完全に断ち切りたかったのか。
死んでもなお、俺を拒絶し続けるために。
その時——
俺の頭に、一つの記憶が蘇った。
昼間。
火葬場から帰ってきた時。
俺は何かを捨てた。
「日記......」
雫の日記帳。
あの古い、革表紙の日記帳を、俺はゴミ箱に投げ込んだ。
「まだ間に合う......」
俺は慌ててゴミ箱に駆け寄った。
空だった。
「清掃員......」
俺は震える手で、再び清掃員に電話をかけた。
「もしもし、氷月です」
「はい、お疲れさまです」
「日記帳を知りませんか?茶色い革の......」
「日記帳......」
電話の向こうで、清掃員が考え込んでいる。
「あ、ありました。奥さまのものらしき本を、ゴミ集積所で見かけました」
俺の心臓が跳ね上がった。
「まだありますか?」
「うーん......収集車が来たかもしれません。でも、まだ残っているかも」
「どこですか?」
「マンション裏のゴミ置き場です」
俺は電話を切ると、スーツのまま外に飛び出した。
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マンション裏のゴミ置き場は、悪臭に満ちていた。
生ゴミの腐った匂い。
カラスが数羽、ゴミ袋をつついている。
氷月刹那は、高級スーツを着たまま、その中に足を踏み入れた。
「どこだ......どこにある......」
彼は次々とゴミ袋を開けていく。
生ゴミが靴にこびりつく。
スーツの袖が汚れていく。
でも、構わなかった。
雫の日記さえ見つかれば。
雫の最後の痕跡さえ手に入れば。
30分。
1時間。