山本陽子が再び目を覚ました時、周囲は真っ暗だった。
バッと起き上がり、警戒しながら辺りを見回した。
人影も猛獣の気配もないことにようやく安堵の息をついた。
ライトを点けると、部屋全体が明るくなった。
ここは男性的な厳めしさが漂う部屋だった。
濃緑色のカーペット、木製の大きなベッドに灰緑色のシーツ。正面にはデスクが置かれ、壁には様々なデータや図面がびっしりと貼られている。
広い部屋に、対照的な二つのスタイルが共存していた。
仕事用スペースと休息用スペースが互いに干渉せず、独立した空間を形成している。
ふと、ヘリから降りてきたあの男のことを思い出した。
顔は見えなかったが、あの圧倒的な存在感からして、きっと大柄な男に違いない。
視線を逸らし、自分が着ている男物のTシャツ(まるでワンピースのように大きい)に目をやる。
腕や肩、脚の傷には薬が塗られ、ガーゼが巻かれていて、まるでミイラのようで少し滑稽に見えた。
ドアを開けて階下へ降りようとした時、
「ガラッ!」という割れる音が響いた。
「出て行け!」男の低く冷たい声がリビングの静寂を破った。
階段途中で立ち止まり、リビングにいる男女の姿を眺めた。
窓際に背を向けている男――カジュアルな服装に、長い脚を強調するブーツ。その姿は高慢で威厳に満ちている。
たとえ背中越しでも、彼が放つ強烈なオーラは感じ取れた。
「佐藤若様、どうか追い出さないで。もうこんな時間で帰る車もないんです。女の子一人で怖いですから…」
柴田麗子が彼の筋肉質で力強い腕に触れようとした瞬間、佐藤直樹は激しく腕を振り払った。その力で麗子は床に投げ出された。
「あっ…」突然床に叩きつけられた麗子は、両手をガラスの破片の上に押し付けてしまい、痛みに震えた。
直樹は振り返り、嫌悪感に眉をひそめた。
長い指で触れられたカジュアルジャケットを脱ぎ、それを麗子の頭上に投げつけた。
なぜか体の奥から熱が込み上げてくる。
床に転がり、それでも腰をくねらせて媚びを売る女を一瞥し、
直樹のの深い瞳には計り知れない闇が渦巻いた。その視線を受けた麗子は、
まるで無形の手で喉を締め付けられるような圧迫感を覚え、誘惑どころではなくなった。
陽子は状況を理解した。
そっと引き返そうとしたが、微かな物音がリビングの鋭敏な男に察知された。
「止まれ!」
陽子は凍りついた。階段に踏み出した足を引っ込めた。
「降りてこい!」
陽子は振り向き、直樹の鋭い目に見つめられながら、おとなしく階下へ降りていった。
麗子は部屋にまだ人がいたとは思わなかったようで、振り返って一瞥した。
この知らない小娘、佐藤若様の服を着ているじゃないか!
この未熟な体つき!
スタイルも顔も平凡、まさか佐藤若様はこういうタイプ?
いや、ありえない!
数多の男を魅了した自分に自信があるのに!
陽子はこの圧倒的な男の前に立ちながら、他人の痴態を見てしまったという恥ずかしさも弱気も一切見せなかった。
直樹の鋭い視線が彼女に注がれるが、その柔らかで精緻な顔立ちに心が乱れる。
彼はようやく何かがおかしいと気づいた!
急に振り向いて床に割れたカップを見た彼の目の奥に冷たい光が宿った。
「薬を盛ったな? 死にたいのか!」
直樹の整った顔に怒りが浮かび、テーブルクロスを引っ張ると、テーブルの上の茶器や皿がすべて麗子に向かって飛んでいった。
麗子は避けきれず、目の前で星が飛び交うほど激しく叩かれた。
「わ…佐藤若様、何の話ですか?」
その視線に貫かれると、全てを見透かされたような気がして、彼女は俯いて視線を逸らした。
陽子はようやく彼の後ろに立つ女性に目を向け、その顔をはっきり見ると、心臓が跳ねた!
これは柴田天の姉、柴田麗子ではないか?
彼女がこの男を佐藤若様と呼んでいる…
陽子は視線を変え、目の前の男を観察した。鋭く美しい横顔のラインは刀のように鋭く、近寄りがたい冷たさを漂わせていた。