章節 5: 俺様社長と離婚した彼女は大金持ちになった（5）
編輯: Pactera-novel
「あら！誰かと思えば、望月奥様じゃないの。私の目が節穴で、道を塞いじゃって申し訳ないわ。そうそう、買い物に来たのに、どうしてご主人は一緒じゃないの？」
言い終わると、彼女は何かを思い出したかのように口を手で覆い、とても「誠実」に謝罪した。
「ごめん、ごめん。私ったらつい忘れちゃって、先月望月さんと離婚したんだったわね。普段あんまりこういうこと気にしてなくて、傷つけちゃったかしら？でも秦野お嬢様は器が大きいから、気にしないでしょうね」
時田詩織：「……」
ちっ、同類に出くわしたか。
店内にはかなり人がいて、二人の女性が向かい合っているのを見た。しかもその一人が先月離婚したばかりの秦野家のお嬢様で、もう一人は不動産開発業者の娘で、以前から高らかに望月修一タイプの男性が好みだと公言していた。
今、二人がぶつかり合い、どう見ても騒動になりそうな予感。
囲にはいつの間にか人だかりができていた。ただし、この店で買い物する人々は皆金持ちで、自ら高貴であることを気取っているため、一般人のようにぎゅうぎゅうに群がって見物することはできない。
彼女たちは皆、どんどん近づきながら、服を選んでいるふりをして、耳だけは二人の動静に集中していた。中には数人のネット有名人もおり、その中の二人は携帯を掲げて撮影を始めていた。
人が増え、録画している人もいて、時田詩織は素早く周囲を見回した。
さあ、演技の始まりだ。
時田詩織は目に涙を溜め、今にも流れ落ちそうにしながら、鼻をすすった。
「松田姉さん、私は心からあなたを祝福しているの。もう修一とは何の関係も持つつもりはないの……もうあなたたちの邪魔はしないわ……私はもう彼と離婚して、席をあなたに譲ったの。でも、八年間も心から修一を好きだったんだから、そんなに深く愛した人を簡単に忘れられるわけないでしょ？お願い……もう少しだけ時間をくれないか？お願いだから……」
そう言って、彼女は声を詰まらせた。
「今後はもうあなたたちの前に現れないわ。私……あなたたちの幸せを祈ってる……もう迷惑はかけない……」
「ごめんなさい」
彼女は松田沙耶に向かって深々と頭を下げ、顔を覆って泣きながら走り去った。
時田詩織の言葉はとても早く、松田沙耶は途中で遮る暇もなかった。彼女はどこかで聞き覚えのあるようなその言葉に浸っているうちに、我に返った時には時田詩織はもう走り去っており、彼女一人が周囲の驚く視線に晒されていた。
「なんてことだ！道理で離婚したわけだ。松田さんが愛人だったのね……」
「意外だわ！」
「秦野千雪はいいように扱われすぎだよ。自分から愛人に席を譲るなんて、お嬢様らしくないわ」
「これが愛ってやつよ！」
「早く投稿しよ！」
録画した人たちは我慢できずに刺激的なタイトルをつけ、編集もせずにそのまま投稿した。
周囲のひそひそ話を聞きながら、松田沙耶は彼女たちが何を話しているのかほぼ想像できた。
秦野千雪という女、ほんの数言で愛人のレッテルを彼女に貼り付けたのだ。彼女はもう、社交界での自分への軽蔑が想像できた。重要なのは、彼女はそんなことしていないということだ。
松田沙耶は目の前が真っ暗になり、そのまま気を失いそうになった。
突然彼女は悲鳴を上げ、店外に飛び出した。走り去る途中、白いドレスを着た女性にぶつかった。
「何なのよ、この人」
白いドレスの女性は自分のドレスを払いながら、一瞬嫌悪感をあらわにした。こういう成金の娘はやはり躾がなっていない。
時田詩織は店を出た後、トイレに行って携帯をいじっていた。彼女は狂人のように街中を泣きながら走り回るつもりはなかったが、さっき泣きながら逃げた直後に何事もなかったかのようにカードでショッピングするわけにもいかない。
万が一、社交界の誰かに見られでもしたら、説明が難しい。
芝居は最後まで演じ切らなければならない。
松田沙耶、邪な女性の小物キャラで、物語後半に登場して原作のヒロインに因縁をつけ、元のヒロインの死の引き金の一つとなった人物。しかし登場期間は長くなく、元のヒロインが死んだ後、望月修一によって始末された。
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