呆れたことに、それらのファンが褒めちぎるうちに、秦野千雪という元妻のことにまで話が及んだのだ。
彼女が二人の美しい恋愛を邪魔したと考え、さらには彼女を攻撃する者たちもいた。葉山静音が海外に行ったのは秦野千雪の脅しのせいだという作り話まで広め、秦野千雪を悪役令嬢と決めつけた。
はっきりさせておこう!
葉山静音が海外に行った時、秦野千雪はまだ望月修一と結婚しておらず、葉山静音のことも知らなかった。
秦野千雪は大学時代に望月修一に片思いしていたが、彼女はただ静かに想いを寄せているだけで、彼に恋人がいることを知った後も、邪魔はしなかった。ただ心の中の彼への想いをしまい込んだだけだ。
最終的に秦野千雪は望月修一との政略結婚を知り、望月修一が初恋の人と別れた後、彼女の心にかすかな喜びがよぎったのは事実である。
しかし、秦野千雪がいつ葉山静音を狙ったというの?
秦野家のお嬢様と一人の孤児、望月修一がいなければ、二人は一生交わることもなかっただろう。
時田詩織は怒った。しかし彼女は教養のある人間だ。ネット上の問題は、ネット上の方法で解決すべきだ。
そこで彼女はやらせの書き込み部隊を雇った。
葉山静音の美しい恋愛を描いたあの文章は、ネット荒らしたちの罵り合いの場と化し、混沌とした状態になった。
葉山静音:「……」
葉山静音は悔し涙を流し、ついには病気になってしまった。
その知らせを聞いた時、時田詩織は手を震わせ、やらせ部隊への追加支払いでゼロを一つ余計に入れてしまった。
やらせ部隊は意気揚々と、もう一度書き込みを行った。
「千雪、いつもうつ伏せでスマホをいじってばかりいると近眼になるよ」
秦野雅治は帰ってきたばかりで、妹がソファにうつ伏せでスマホをいじっているのを見て、彼女のスマホを取り上げた。
「プレゼント買ってきたよ」
彼はギフトバッグを彼女に渡した。
「ありがとう、お兄ちゃん」
時田詩織はスマホを取られても怒らず、プレゼントを受け取るとき、甘ったるい笑顔を彼に向けた。
「千雪、いつも家に閉じこもっていないで、友達を誘って気晴らしした方がいいよ」
秦野雅治は彼女の頭を撫でながら言った。
実は彼は「早く望月修一というろくでなしを忘れろ」と言いたかったが、妹が望月修一の名前を聞いてまた傷つくのを恐れて、このように遠回しに伝えるしかなかった。
「お兄ちゃんは最近たくさん友達ができたんだ。時間があれば、一緒に会いに行かない?」
いやいや、と時田詩織は首を横に振った。彼女にはまだ引き抜き工作があるのだ。遊んでいる暇なんてない。
「千雪……」
秦野雅治は歯がゆそうに彼女を見つめた。どうして彼の立派な妹が、失敗してもまだ悟らないのだろう。
「もうっ!お兄ちゃん!最近忙しいの。お兄ちゃんが言ったことは時間ができたらにするわ」
秦野雅治:「忙しいんだって?毎日家にこもって、外にも出ないじゃないか」
時田詩織は平気で嘘をついた。
「最近は日差しが強くて、日焼けが怖いから外に出られないの。それに最近ゲームにはまってて、本当に暇がないのよ」
「そうだ、お兄ちゃん、最近ちょっとお金が足りなくて。イケメンのお兄ちゃんが少し援助してくれないかな」
彼女は秦野雅治がさらに質問するのを恐れて、慌てて話題を変えた。
秦野雅治はやはり注意をそらされた。
「お金が足りないなら、お兄ちゃんがあげるよ。困ったらお兄ちゃんに言うんだよ」
秦野家の者たちは、秦野千雪以外みな多忙で、多くの仕事を抱えていた。以前は秦野千雪が自暴自棄になるのを心配し、特に休暇を取って家で彼女に付き添っていた。
しかし秦野千雪が徐々に立ち直っていくのを見て、彼らは休暇を切り上げて仕事に戻った。
秦野雅治は少しシスコンで、妹が今は立ち直ったように見えても、まだ不安だった。彼女が彼らを安心させるために演じているのではないかと心配した。そこで、秦野千雪の昔の親友を秦野家に招いた。しかも時田詩織に相談もせずに。
それゆえ渡辺沙織(ワタナベ・サオリ)が到着した時、時田詩織がスマホを持って必死に文字を打っているのを目にした。
その姿勢はあまり上品ではなかった。
「千雪!」
渡辺沙織は大声で叫ぶと、駆け寄って彼女の首を抱き、自分の胸に彼女の頭を押し込んだ。
渡辺沙織は以前、秦野千雪のルームメイトであり同級生でもあったので、秦野千雪が望月修一に片思いしていたことをずっと知っていた。彼女にアドバイスもしたことがあった。