その後、渡辺沙織は結婚し、夫について他の都市で働くことになった。
二人は携帯でしか連絡を取れなくなった。
秦野千雪は望月修一と結婚したが冷遇され、自分の世界に閉じこもって抜け出せなくなり、徐々に渡辺沙織との連絡も途絶えていった。
しかし渡辺沙織は常に彼女を気にかけていた。
彼女の夫が今年、王都でビジネスを始めることになり、彼女も一緒について来たのだ。秦野千雪が望月修一と離婚した後ずっと心配していたので、秦野雅治が連絡してきた時すぐに了承した。
「千雪!」
押しのけられた渡辺沙織は驚いて彼女を見つめ、傷ついた表情を浮かべた。
千雪が彼女を押しのけるなんて、これまで一度もなかった。いったいどうしたんだ?あまりに長く連絡を取っていなかったから、千雪は彼女のことを愛さなくなったの?それともあのクズと離婚して、頭がおかしくなったの?
時田詩織は怨めしそうに彼女を見つめ、意味ありげに言った。
「あなたの方が大きいって分かってるわよ」
渡辺沙織は彼女の視線を追い、自分の胸を見て、照れくさそうに少し彼女を押した。
「あなたが立ち直れないんじゃないかと心配してたのに、こうしてるのを見て安心したわ。これは生まれつきなのよ。何年も経つのに、まだ慣れてないの?」
秦野千雪は高校時代から彼女を羨ましがっていた。何年も経った今も、まだ羨ましがっているとは思わなかった。
時田詩織:「……」
前に彼女の前でこんなに自慢した奴は、とっくに彼女にやっつけられた。こいつが秦野千雪の親友でなければ、とっくに手を出していたところだ。
「すごく会いたかったの。あなたと別れてから、昼も夜も絶え間なくあなたのことを想ってたんだから」
渡辺沙織はタコのように彼女にまとわりついた。
「あなたの旦那さん、サレ夫だね!」
時田詩織は笑いながら言った。
渡辺沙織の笑顔が凍りついた後、また彼女をからかい続けた。
「うん、主人よりあなたの方が大切よ。彼と結婚したけど、私の心の中はあなたでいっぱいなの」
彼女と秦野千雪は以前からお互いをからかい合うのが習慣だった。今回も同じで、考えるまでもなくその言葉を口にした。
時田詩織は胸に手を当て、感動した表情を浮かべた。
「沙織、こんなに私を愛してくれるなんて思わなかった。すごく感動したわ。あ、さっきのあなたの言葉、録音してあなたの旦那に送っちゃった」
時田詩織は携帯を掲げ、彼女の前で振った。
そして哀れっぽく彼女を見つめて言った。
「沙織、あなたは優しいんだから、気にしないよね?」
「このアマ!……」
渡辺沙織は我慢の限界に達し、罵声を上げた。以前秦野千雪とお互いをからかい合っていた時、いつも彼女が優位に立っていた。なぜなら彼女の方が図太いからだ。秦野千雪はどちらかといえば気取っていて、いつも彼女に勝てなかった。
まさか、久しぶりに会ってすぐに、彼女に一手差し置かれるとは。
「沙織、もしかして私のこと愛してないの?」
時田詩織は一瞬で涙を流し、涙を拭いながら悔しそうに彼女を見つめた。
「こんなことだけであなたは私を怒鳴るの……うぅ……」
渡辺沙織:「……」
言いたい悪口があるが、ここで口にするべきかどうか。
彼女は不思議そうに時田詩織を見た。
「やるじゃない。久しぶりなのに、演技力上がったわね。今年の××映画祭の主演女優賞はあなたにあげるべきね」
「あのクズと離婚して悲しんでるかと思って、わざわざ家族を置いてきてあなたを慰めに来たのに」
時田詩織は彼女の腕を抱えて揺らした。
「もう!五年も経ったんだから、氷だって溶けるはずでしょ?でもあの人は……」
彼女はため息をついた。
「私、わかったの。もう若くないんだから、そろそろ諦めないとね」
「よしよし、私の可愛い千雪。大丈夫よ。三本足のカエルは見つけにくいけど、二本足の男なら見つけやすいでしょ?離婚したならそれでいい。彼のために悲しむ必要はないわ。次はもっといい人を見つけましょう」
「私、いい男たくさん知ってるから、紹介してあげるよ。どんなタイプが好き?年下の積極的な人?甘えん坊?陽気な少年?優しいお兄さん?私はクールなのも、禁欲的なのも、優しいのも、気の利くのも、活発なのも……何でも揃ってるわ。彼らがあなたが秦野家のお嬢様だと知ったら、きっと自ら飛び込んでくるわよ」