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闇の中から、前方に光が強くなりつつ、そして一筋の強い光が彼女を飲み込んだ。
「わあ——」
口を開いた宮沢詩織は愕然とした。
どうして彼女は赤ん坊の泣き声を出しているのだろう?
しばらくしてから、詩織はようやく思い出した。
彼女は転生したのだ。
前世では、彼女は白い高山に根を付けて、999年と364日の修行を積んだ雪蓮の精だった。
あと1日で人の姿に転化されるところだった。
しかし、その日、師匠が不在の時、誰かに摘み取られてしまったのだ!
後日、師匠は彼女を連れ戻したが、もう人の姿になる機会を失い、寿命が尽きてしまった。
それで、師匠は彼女を転生させ、人に生き返したのだ。
どれ程の時が経ったか分からないが、詩織は温かくて、ミルクの香りもする人に抱かれていた。
「詩織、これからあなたは宮沢詩織で、どうかしら?」詩織は自分を抱いている女性が優しく話しかけているのを見た。
詩織は小さな手を喜んで振り回した。前世で雪蓮の精だった時、人間の姿になったら使おうと「詩織」という名前を自分で決めていたのだ。
まさか転生しても同じ名前で呼ばれるとは思わなかった。
「妹、詩織、僕は三番目のお兄ちゃん、誠だよ」。まだ4歳の子が不思議そうに尋ねた、「どうして妹の名前は二文字なの?」
「妹は家のお姫様だから、特別なんだよ」8歳の長男が誇らしげに言った。
宮沢母は彼らが見えやすいように詩織を丁寧にベッド端に寝かせ、「詩織、彼は一番目のお兄ちゃん、彰だよ」と話しかけた。
6歳の次男は詩織をじっと見ながら言って来た。「妹はもう聞き取れるかな?」
宮沢母は笑いながら言った。「あなたたちがたくさん話しかければ、妹は全部覚えていくよ」
次男はそれを聞いて、すぐに言った。「妹、妹、僕は彩音だよ、二番目のお兄ちゃん。絶対覚えてね。忘れたら、後でまた教えてあげるね」
詩織:「……」
待て!
詩織は突然、彼らの名前がとても耳慣れているように感じた!
思っている最中、宮沢父と宮沢母の会話から、父の名前は宮沢浩輔、母の名前は酒井美月であると確認できた。
詩織は完全に動揺した。
前世、雪蓮の精だった時、ある日師匠は彼女の隣に座って世間話をしながら、彼女が既に自分の名前をつけたことを知り、自分の法宝の世間鏡から同じく「宮沢詩織」という少女の一生を見せてくれた。人のストリーとして見せてもらった。
雪蓮の精は、あの詩織という少女が生まれた時から両親と3人の兄に愛され、とても純粋な性格に育って来たのを見た。
そして、あまりにも純粋な性格のせいで、従妹にはめられ、彼女が遠藤一族の遠藤秀章と結婚する為の踏み台とされ、彼女の結婚を成功させたのだ。それだけでなく、従妹は証拠隠滅のため、詩織を殺害する計略を企み、結果詩織は悲惨な死を迎えてしまった。
娘を命より愛していた宮沢父と宮沢母は一夜で白髪の人になり、元気を失い、急に老いてしまった。
詩織の兄たちは妹の復讐を計画したが、元々業界のエリートだった彼らは逆に身を滅ぼし名を汚す結果に至った。
宮沢一族は誰一人も幸せな最後を迎えられなかった。
最初、詩織が気づかなかったのは、兄たちがまだ子供で、両親もまだ若く、鏡の中で見た老いて、陰鬱で悲しげな姿と全く違っていたからだ。
鏡を見た時、詩織は彼らは愚かだと思った。なぜ正面から立ち向かったのだろうか?
まさか自分が詩織に転生するとは思わなかった。
こうなった以上、それ程素晴らしい両親や兄たち、特にこんなに可愛い自分が、再度ひどい目に遭わせることは絶対あり得ない!
*
詩織はとても大人しく、普段泣いたり騒いだりしないので、美月は詩織をいつもそばに連れていたがる。こうすれば、いつでも詩織の小顔を見ることができる。
「今日の調子はどう?」浩輔は部屋に入るとすぐに尋ねた。
美月は産後ケアセンターに泊まっており、一日三食はすべて栄養士が特別に組み合わせた食事だ。
さらに、産後体の回復に役立つ様々なマッサージも用意してある。
「詩織は本当に幸運の星だね」美月は詩織の鼻先を軽く触った。「彼女がそばにいるだけで、傷口の痛みさえあんまり感じないんだ」
美月は帝王切開で詩織を産んだ。
浩輔は美月の感覚は心理的なものだと思う。
娘をとても愛しているから、娘がそばにいるだけで幸せになり、傷口の痛みさえ忘れてしまう。
詩織は、宮沢夫婦が長男を妊娠した時から待ち望んでいた子供だ。お二人はずっと女の子が生まれることを望んでいた。
しかし長男が生まれ、彼が少し大きくなると、美月は第二子の妊娠準備を始め、やはり柔らかな女の子を望んだ。
でも結果として次男が生まれた。
美月は諦めなかった。浩輔は十分だと説得したが、美月は女の子を産むまでの勢いだった。そして、ようやく詩織が誕生した。
浩輔は美月の言葉を真に受け入れなかったが、横になって手を口に入れていた詩織は驚いて動きを止めた。
彼らは知らないが、詩織自分はよく分かる。前世で自分は雪蓮の精だった。
通常の雪蓮にない効能などを、雪蓮の精である彼女は持っている。
そして通常の雪蓮の最も基本的な効能の一つは、止血と鎮痛である。
雪蓮の精である彼女は、その効能を発揮きわめる。
もしかしたら、自分の能力は消えていないかもしれない?
詩織は心の中で考えていた。機会を見て試してみるつもりだ。
ちょうど美月が詩織に授乳する時間になり、詩織は彼女に抱かれた。
詩織は気づいた。美月は眉をひそめ、痛みに耐えながらも表情に出さないようにかまんしていたが、顔色はだんだんと青白くなった。
美月の傷口がまた痛み始めた。
詩織はこっそり腕を伸ばし、美月の傷口に手をかける。
途切れることなく温かなエネルギーが詩織の小さな手から美月の傷口へと流れていった。
美月は傷口がほんのり温かくなるのを感じた。不快ではなく、むしろとても心地よかった。
彼女は眉間の緊張が解け、傷口の痛みは本人が無視できるまで明らかに弱まった。
その後、詩織は手を引っ込め、全身の力が抜かれて、乳を吸う力さえ残っていない。
彼女は自分がまだ小さすぎて、体がそれほど大きなエネルギーを供給できないことを知っている。一気に美月の痛みを完全に取り除くことはできず、少しずつやるしかない。
毎日美月に少しずつエネルギーを与えることで、効果は遅いが、美月をかなり楽にさせることができる。
詩織は自分の現状を忘れていた。成長したとしても、人間の体である以上、雪蓮の精だった頃、持っていたエネルギーとは比べようがない。
エネルギーを使いすぎると、自分の体力も弱くなってしまう。
それで、今後詩織は美月に抱っこされるたびに、少しずつエネルギーを転送してあげるようにした。
ある日、突然美月は気づかないうちに傷口が全く痛くなくなったことに気づいた。
どんなポーズを取っても、全く痛みを感じなかった。
「うちの詩織は、小さい頃からお母さんに気遣ってくれるんだね」浩輔も一緒に褒めてあげた。「お前を妊娠してる時から苦労しなかったし、普通なら少なくとも半年は傷口の痛みが残るはずだが、お母さんはもう完全良くなったんだぞ」
詩織は無邪気なふりをして大きな目をパチパチ動きながら、指を舐めていた。
その澄んだ瞳には、明らかに誇らしさが満ちている。
「おや、この子は理解してるみたいだぞ?」浩輔は詩織の表情があまりにも生き生きとしているのを見て驚いた。
「この子は、妖精になるのかしら?」美月は詩織を見つめ、笑顔いっぱいで、とても嬉しそうだ。
詩織はこうして両親と兄たちの愛情を充分に浴びながら成長して来た。
小さな雪蓮の精は前世では地面に根を張り、霊性はあったものの自由はなかった。
生まれ育った場所では、最も親しかったのは師匠だけだった。
それ以外は、両親や家族がどんなものかを知らず、両親に愛される幸せや、兄たちに囲まれる甘い悩みも知らなかった。
しかし、生まれてから今までの6年間で、詩織はそれらすべてを体験して来た。
彼女はすでに皆を自分の最も大切な人たち、本当の家族として受け入れていた。
美月は6歳になった詩織を綺麗に着飾らせる。詩織は美月の好みをありのまま受け入れる。
彼女はもう慣れた。美月は完全に詩織を人形扱いし、毎日一番好きなことは彼女をドレスアップすることだ。
しかし、今詩織は小さな唇を尖らせて言った。「遠藤家には行きたくない」