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16% 結婚式、花嫁を「愛人」に譲ります / Chapter 4: 第4話:翡翠の真実

章節 4: 第4話:翡翠の真実

第4話:翡翠の真実

[綾崎詩音の視点]

試着室から出ると、怜士が私のスマートフォンを見つめていた。画面には『あと7日』の文字が大きく表示されている。

「詩音、これは……」

怜士の声が途切れる。私がドレス姿で現れたからだ。青いシルクのドレスが、照明の下で美しく輝いている。

「どう?似合う?」

私は軽やかに回転してみせた。怜士の目が、私の姿に釘付けになる。

「綺麗だ……本当に綺麗だよ」

彼の声に、心からの賞賛が込められていた。でも私は、彼がスマートフォンのことを忘れかけているのを見逃さなかった。

「ありがとう。このドレスに決めましょう」

私は怜士に近づき、彼の腕に軽く触れる。

「さっき、何を見ていたの?」

「ああ……君のスマートフォンに、カウントダウンが表示されていたから」

怜士の表情に、困惑が浮かんでいる。

「あれ?私たちの結婚式の日よ。忘れたの?」

私は微笑みながら嘘をついた。

「結婚式まで、あと7日でしょう?」

怜士の顔に安堵が広がる。

「そうか……そうだったな。最近忙しくて、日にちの感覚が曖昧になっていた」

彼は私の頬に手を添え、キスをしようとした。

私は自然に顔を逸らす。

「お化粧が崩れてしまうわ」

怜士の手が、空中で止まった。

K市のチャリティパーティー会場では、既に多くの招待客が集まっていた。会場の中央には巨大なシャンデリアが輝き、壁際には色とりどりの花が飾られている。

参加者たちは皆、K市の有力者や著名人ばかり。女性たちは華やかなドレスに身を包み、男性たちは上質なスーツを着こなしていた。

会場の一角で、数人の女性が談笑していた。

「今夜は氷月社長もいらっしゃるのよね」

「ええ。婚約者の綾崎さんと一緒に」

「あの二人、本当にお似合いよね。K市で一番の美男美女カップルだわ」

[綾崎詩音の視点]

会場に足を踏み入れた瞬間、周囲の視線が私たちに集中した。

「あら、氷月社長!」

「綾崎さん、今夜も美しいですね」

招待客たちが次々と私たちに声をかけてくる。怜士は慣れた様子で挨拶を返し、私も微笑みを浮かべて応じた。

「お二人とも、本当にお似合いですね」

年配の女性が、うっとりとした表情で私たちを見つめる。

「K市で奥さんを大切にするランキングがあったら、氷月社長が2位なら、1位を名乗る人はいないでしょうね」

その言葉に、周囲の人々が笑い声を上げた。

怜士は満更でもない様子で、私の腰に手を回す。

「詩音は俺の宝物ですから」

彼の言葉に、私の胃が再び収縮した。でも表情は変えない。

「まあ、素敵!結婚式が楽しみですね」

「来週でしたっけ?」

「ええ、あと7日です」

私は明るく答える。周囲の人々が、祝福の言葉を口々にかけてくれた。

でも私には、それらすべてが偽りの祝福に聞こえた。

「詩音、少し静かな場所に行こう」

怜士が私の耳元で囁く。

私たちは人混みを抜け、会場の奥へと向かった。

その時、黒いドレスを着た女性が近づいてきた。

玲奈。

私は初めて、怜士の愛人と顔を合わせた。

「あら、氷月さん」

玲奈の声は、甘く媚びるような響きを持っていた。

「玲奈……」

怜士の声が、わずかに震える。

「綾崎さんですね。初めまして」

玲奈は私に向かって、作り物の笑顔を浮かべた。

「以前、氷月さんに偽装結婚をお願いしたことがあって……本当に申し訳ありませんでした」

彼女の謝罪は、明らかに演技だった。

「今は私も彼氏ができたので、もう過去のことは水に流してもいいんじゃない?」

玲奈の言葉に、私は冷静に答える。

「そうですね。過去のことですから」

怜士が玲奈を遠ざけようとした時、玲奈は彼にウィンクをした。

その瞬間、私は嫌悪感で胸が悪くなり、その場を離れた。

私が去った後、玲奈は周囲の女性たちに自慢げに話し始めた。

「このイヤリング、彼氏からのプレゼントなの。高かったのよ」

彼女が耳元で揺らすイヤリングは、美しい翡翠で作られていた。

「まあ、素敵!」

「そのイヤリング、綾崎さんが今日つけているアクセサリーと同じ翡翠を使っているみたいですね」

その言葉が、私の耳に届いた。

私は歩みを止め、手首の翡翠の腕輪を睨みつけ、力任せに外して握り締めた。滑らかなはずの翡翠が、手のひらに食い込んで痛みを感じさせた。

同じ翡翠。

怜士が私と玲奈の両方に、同じ石で作ったアクセサリーを贈っていた。

私の中で、最後の疑いが確信に変わった瞬間だった。


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