章節 4: 彼女は超大クズ男
編輯: Pactera-novel
もちろん嫉妬と羨望からだったが、唐沢雅也はそれを口にする勇気がなかった。
躊躇っていると、葉山千秋に冷たい目で睨まれ、彼は即座に口走った。「だって、お前のことが気に食わないからだ」。震えながら立ち上がり、もう殴られないことを祈った。
葉山千秋は淡々と言った。「もういい」。
唐沢雅也はほっと息をつき、振り返って逃げ出そうとした。
動いた瞬間、また葉山千秋に呼び止められた。
彼はもう崩壊寸前で、歯を食いしばりながら悲惨な顔で尋ねた。「まだ何か？」
「次に俺を見かけたら、道を空けて避けろ！！」
「わ、わかったよ！」唐沢雅也は大解放されたかのように、急いで走り去った。
うわっ、こいつは怖すぎる。二度と関わりたくない。
午後の陽射しが優しく地面を照らす。
藤井詩織は逆光の中に立つ葉山千秋を見つめ、この通りの最も美しい風景だと思った。
彼女は目を輝かせ、両手で顎を支えながらな声を上げた。「千秋お兄さん、かっこいい！」
彼女は本来、葉山千秋の顔だけが好きだったが。
今では、葉山千秋の全身、つま先に至るまで無形の魅力を放っていると感じている。
その目つきは、まるで葉山千秋を食べてしまいたいとすら思わせる。
葉山千秋は気まずくなった。
彼女は数歩後退し、二人の距離を開けた。「さっき俺が人を殴るの見ただろ？俺には暴力傾向があるんだ。この棒がお前に振りかかるぞ」。
「あなたがそんなことしないってわかってる」藤井詩織は手を伸ばし、葉山千秋のスーツケースを奪った。「千秋お兄さん、お父様が許すまで、私んちに住まない？」
これは良い機会だ。
彼女は絶対に千秋お兄さんを家に連れ帰り、手に入れようよ思っている。
葉山千秋はもちろん同意するつもりはなかった。この女の子は生々しすぎて、女性である彼女では太刀打ちできない。
「俺たちはもう別れたんだ」
「別れない……」藤井詩織は目を狡猾に光らせ、続けた。「この数日、私んちに住んでくれない限り、絶対に別れない」。
別れることに同意するのはあくまで一時的な策略で、彼女が求めているのは、日が経つにつれて恋心が芽生えることだ。
葉山千秋：「……」
葉山家には戻れない。
寮には住みたくない。
家賃は払えない。
今の彼女には本当に行き場がなかった。
藤井詩織の家に数日間滞在し、身体の元の持ち主の母が戻ってくるのを待つのは確かに良い選択だった。しかし、藤井詩織の言葉をよく味わうと、彼女の真の目的を推測するのは難しくない。
それでも、彼女はその策略を逆手に取ることもできる。
「同級生を家に連れて行くのに、親の許可はいらないのか？」
「私一人暮らしで、兄は月に1、2日しか帰ってこないから、うちに住んでも彼に会うことはまずないよ。仮に会っても、兄は同意するはず。兄は……いい人なの。ただ……あまり話さないだけ」
藤井詩織は心の中で思った：「お兄ちゃんは先日帰ってきたばかりだし」
これから半月は帰ってこないはず。ちょうどこの機会に、千秋お兄さんを押し倒せる。
すべてをやり尽くす。
千秋は少し躊躇した後、最後に同意した。
藤井詩織が何をしようと、とにかく彼女を落とすことは不可能だ。
むしろこの機会に藤井詩織を完全に諦めさせ、「葉山千秋」というクズ男から遠ざからせよう！
詩織は嬉しさのあまり叫んでを上げ、すぐに葉山千秋を家に連れて行った。
道中ずっとぺちゃくちゃして、自分の住む場所について説明した。
要するに：自分の家は少し古くて、場所は少し不便なので、葉山千秋に嫌がられないように願っているということだった。
原作では、藤井詩織の出番は多くないが、彼女の家庭環境があまり良くなく、母親はすでに他界し、父親は普通のサラリーマンであることが説明されていた。
葉山千秋は、彼女の家が郊外の古い住宅街にあると推測した。
十分後、車は緑豊かで風光明媚な小道を通り抜け、最後に一棟の独立した民家の外に止まった。
二階建ての小さな別荘は、西欧建築と和風を組み合わせ、外には緑豊かな庭園と東屋が備わっていた。古風でありながら、特別な芸術性を感じさせた。
葉山千秋：「……」
環境が悪いって？
家が少し古いって？
場所が少し不便って？
普通のサラリーマンである藤井詩織の父親が、このような豪華で高級感がある家を持っているのか？
藤井家は何かの隠れた大金持ちなんじゃないか？
原作では、身体の元の持ち主が女だとバレた後も、藤井詩織は彼女と良い関係を保っていた。
身体の元の持ち主が事件に巻き込まれた後、藤井詩織は葉山千秋のために復讐しようとし、ヒロインをいろいろとけなし、ヒロインの私生活が乱れている、援助交際している……などとでっち上げた。
待てよ、それは嘘じゃないのでは？
ヒロインはもともと複数の男性と関係を保っていた。それは私生活が乱れていると言う他ない。
男主人公たちはヒロインと寝た後、様々な奢侈品をプレゼントしたのだから、これは援助交際と言う他ない。
原作はおかしい。
とにかく、藤井詩織はヒロインが特に嫌いで、ヒロインをさんざんに陥れた。
しかし一つ不思議なことがある。少しでもヒロインを傷つける者がいれば、男主人公たちはその人を徹底的に痛めつけるのに、藤井詩織だけはヒロインに敵対し続けても何も起こらなない。
最後も無事に去り、兄の藤井直樹（ふじい なおき）によって海外留学させられた。
藤井直樹は原作では脇役に過ぎない。
藤井詩織の兄であること以外、情報は一切ない。
藤井家は普通の家庭のはずなのに、この藤井直樹は明らかに普通ではない！
何か隠された設定があるのだろうか？
藤井詩織は葉山千秋を家の中案内し、熱心な不動産屋のようだった。
彼女は葉山千秋を、自分の寝室の隣の客室に案内したかった。
しかし、葉山千秋に断られた。
葉山千秋は、藤井詩織の寝室から最も離れた客室を選んだ。
藤井詩織は少し落ち込んだが、すぐに元気を取り戻して誘惑するように言った。「千秋お兄さん、客室には確かに専用浴室はあるけど、湯船はないの。私の部屋に来ても構わないよ。私の浴室の湯船は、広くて気持ちいいから」
「俺は一番、入浴が嫌いなんだ」
「そう」彼女はもともと一緒に入浴する計画だったのに。
藤井詩織はずっと葉山千秋のそばにいた。
葉山千秋が荷物を片付けると、すぐにリビングに戻った。
藤井詩織と、ロマンチックな想像を抱かせる寝室で二人きりになるのを避けるためだ。
「千秋お兄さん、うちのキッチンはとても広いの。私、料理がとても上手なのよ。和食も洋食も特別おいしく作れるから、お嫁さんにぴったりだよ」
藤井詩織は自分を売り込むのに必死だった。
わざと甘えた声で、葉山千秋の耳元に息を吹きかけ、彼女の年齢にそぐわない色気を漂わせ、未熟な小悪魔のようだった。
葉山千秋は拒絶した。「いらない」
色仕掛け作戦が失敗し、藤井詩織は力なく「千秋お兄さん……」と呼んだ。
千秋は彼女を押しのけ、二人の間に距離を示した。「俺があなたの家に住むことに同意したのは、別れるという約束があったからよ。当然、距離を保つべきね」
これを聞き、藤井詩織は口をとがらせた。「千秋お兄さん、私みたいなかわいい子が自ら近づいているのに、まだ冷たく別れようとするなんて、本当に男なの？」
葉山千秋は軽く笑った。「実は私、男じゃないのよ」
藤井詩織は呆然とし、思わず苦笑した。「私と別れるために、男じゃないなんて言うなんて、そんなに私のこと嫌いなの？」
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