第11話:氷水の制裁
帝都の夜は深く、バーの照明が暁の顔を陰鬱に照らしていた。
グラスを傾けていると、背後から甘ったるい香水の匂いが漂ってきた。振り返る前に、柔らかい体が背中に押し付けられる。
「暁さん」
蝶子の声だった。露出度の高いドレスを身に纏い、必死に暁の腕に縋りついている。
「お願い、話を聞いて。私、あなたのことを——」
暁は嫌悪感を隠そうともせず、蝶子の体を力任せに突き飛ばした。
「失せろ」
冷たい一言が、バーの喧騒を一瞬静寂に変えた。
蝶子は床に尻もちをつき、周囲の女性客たちがクスクスと笑い声を上げる。屈辱に顔を赤らめながら、蝶子はよろめきながらその場を去った。
翌朝、暁のオフィス。
アシスタントが分厚いファイルを机に置いた。
「影山蝶子に関する調査報告です」
暁はファイルを開いた。最初のページに、十二年前の海難事故の詳細が記されている。
『救助者:氷室刹那(当時16歳)』
次のページには、蝶子が刹那に対して行った数々の嫌がらせが列挙されていた。パーティーでの意図的な転倒事故。誘拐事件の黒幕。そして——
『強制的な骨髄提供』
暁の手が震えた。
刹那が受けた仕打ちを想像すると、殺意に近い怒りが胸の奥から湧き上がってくる。八年間、自分のそばで微笑んでいた恋人が、これほどの苦痛を味わっていたとは。
暁は深呼吸をして怒りを鎮めると、スマートフォンを取り出した。
『別荘にいる。今すぐ来い』
蝶子への短いメッセージを送信する。
数分後、蝶子からの返信が届いた。
『本当ですか?すぐに向かいます!』
暁は冷笑を浮かべながら、使用人に電話をかけた。
「プールに水を張れ。氷もたっぷりと入れておけ」
三十分後、別荘の玄関に車が停まった。
蝶子が清楚なワンピースを着て現れる。髪も丁寧にセットし、化粧も完璧だった。許されたと信じて、精一杯おしゃれをしてきたのだろう。
「暁さん」
蝶子が笑顔で近づいてくると、暁の合図で二人のボディガードが彼女の両腕を掴んだ。
「え?何を——」
問答無用で、蝶子の頭が氷水の入ったプールに押し込まれた。
「きゃあああ!」
水面から顔を上げた蝶子は、髪も化粧もぐちゃぐちゃになっていた。
「暁さん、なぜ?私は何も——」
再び頭が水中に沈められる。今度はより長く、より激しく。